第43話 十七時
「先生、使用人から聞いたのね」
「ええ、あなたがずっと守ってくれていたことを、なのにずっと気づかないで」
「つっけんどんな態度を取っていたのは私」
「借りは返せないよ」
「ひどい顔。涙と汗で化粧はぐちゃぐちゃだし、ちょっと血が出ている」
「そうだ。時間がない。明日の十七時に」
「知っている? ここってネジの外れた奴はいるけど治安はいいの」
「そうなの?」
「犯罪には手を染めないでしょう?」
確かに文化祭でよからぬことをしようとはしたが、犯罪になるかは微妙だ。
「それでお金持ちの家がすごく多いの。秀吉の一夜城って知ってる?」
次の日、確かに春陽台では後夜祭が行われた。全校生徒にはおいたをした男をだます為の必勝法と知らせて、春陽台の奥に春陽台の複製を一夜にして作った。
もちろん細かい設備や広い場所は設定出来なかったが責任を感じていた使用人さんがあちらこちらでそういうことを出来る場所を作った。
今日だけは目をつぶる。そういう情報が出回ると生徒たちは早かった。
「貸し」
そういうことをする為に作られたスペースでアタルは私に体を預けてきた。
「その今まで生徒として見てきましたので、今すぐに何かとは言いますか」
「大人だし?」
「ま、まぁ」
「待ってたのになー」
「全然気づかないもんなー」
「あーんなにヒント上げたのになー」
「あーあ、嫌いになっちゃうかもー。あ、見た」
手のひらで転がされるようで少し面白くない。
「女の子として見てくれてる?」
「それは生徒として」
「私の私服は可愛いよ。大学に入るまで耐えること出来る?」
「それくらいは」
「私とお付き合いしたら同棲出来るかも。お父さんは許してくれるよ。こんな大それたことをして、娘を守ってくれたから」
「発案者は私じゃない」
「その辺はどうにでもなるっていうか」
「明日から楽しみだな。いっぱいイチャイチャ出来るね」
「だから生徒とそういうことは」
「来月で成人だよ」
「私は三十路を越えたし、一回りだし」
「待ってくれていた」
黙るしかない。そういう可能性も考えていたからだ。恥ずかしい、ただのロリコンだ。
「まずは手を握ってみよっか」
柔らかくて小さな手だった。
「私の手はごつごつしてて、大したことないでしょう。はい、終わり。私は巡回業務があるの。ほら、ちゃんと友達を」
いなかった。この子は偉そう過ぎて見下すから人間関係を構築出来ない。
「それはお願い? 貸し?」
「違うけど、そうして欲しいとは思う」
「競争倍率高くなるかも」
「私ほど、好きになる子はいないでしょ」
しまった悪手だ。これを逃す女ではない。
「へー、自信満々だね。嬉しいなー」
「ほら、行って。私は本当に仕事」
「エッチなことをしている女の子を叱るお仕事」
「本音と建前くらい分かるでしょ」
「はーい」
ベンチから立ち上がった私にアタルは手を広げた。
「私、今日は疲れて一人じゃ立てないの」
「さっき私を引っ張って来たじゃない」
「あれで腰が抜けちゃった。抱っこ」
私はアタルの両腕を持ち上げた。ちゃんと立てるじゃん。ふわりといい匂いがした。
「ハグだよ。欲しい?」
「アタルもキャンプファイヤーくらい見ておくといいわよ」
私はアタルを置いて、広場へ向かった。
「アタルもいいけど、ハルカって呼んで欲しいなー」
後ろからそんな声が飛んだ。
何だよ。可愛すぎる。
え、それくらい我慢させていたってこと?
どうしよう明日から、絶対にリミッター解除してくるよ。
校舎(仮)に足を運ぶ度にそういう気配はしなかった。ここの子たちはアホだけど、そういうところはしっかりしている。ちゃんとこういう設定された場所ではしない。
「写真撮るよー。ほらもっと笑って、私がさせている風に見えるじゃん」
文化祭の記念写真を撮っているのか。こんなこと珍しいもんな、ちょっとのぞいてみるか。ドアを押し開いたら、全裸で三角ピラミッドをしている三人と奥に先日あいさつをしていた生徒がカメラを持って立っていた。私はドアをそっと閉めた。
大人しそうに見えて、すごい性癖があるって意味かよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます