第44話 覚醒
「ハルカ様と何か、あったよね」
ハルカは全集を傍らに置いて、私にもたれかかっている。
「何もない」
「いや、あんなにつっけんどんな態度とは打って変わって、こんなにデレデレだなんんて」
「私の盗る?」
「彼氏いるんで結構です」
「私の友達になる?」
「いらないんじゃ」
「欲しいの。ダメ?」
「なかちゃん、破壊力が過ぎるよ」
離れろというのに教室でいっぱい我慢したといって放課後は離れない。教室に通い出してから担任にどうやって魔法をかけたと言われた。
「投書箱確認しなきゃ」
「えー、寒い廊下に行っちゃうの?」
「この前まで寒いから行きたくないって言ってたじゃん」
「恋人が寒い思いをするのはやだ」
「え、なかちゃん。高校生はダメだよ」
「誤解よ。付き合っていないわよ」
「卒業したら何をしてもいいからね」
「それより依頼は?」
「もう、ごまかさないで」
「前に新任で来た高原先生が外で男食うのはいいけど、前日私の愚兄に手を出しまして、隣の部屋で悶々とされて困っているの。何とか男食いを止めさせていただけないだろうか」
「それはプライベートな問題なので」
「お願い。なんでか妻帯者は狙わないけど、独身の父兄ばかり狙うの。シングルファーザーに手を出し始めたら地獄だからお願い。ハルカ様」
「依頼、調査する?」
「そりゃ生徒の一大事だし」
「よろです。報酬はどうする?」
「そうね。自販機」
ミルクコーヒーは言ったらついてくるからいらない。カイロは頼んでいないのにくれる。図書室に遊びに来てあげてというと嫉妬する。何も必要ではないことを喜ぶべきか嘆くべきか。
「ちょ、なかちゃん。どこに泣く部分あった?」
「まさかこんな進化をするなんて、私は本当にうれしい」
「ハルカ様。なかちゃんを大切にするのはいいけど、程々にね」
「中神先生。私、先生の名前教えて貰っていない」
「新たな修羅場が始まったよ。あとはよろしく」
必要としなかったから、今まで「おい」とか「お前」とかで呼ばれていたので
「むぎ」
「むぎ、むぎ。むぎ」
呼ぶ度に笑顔になるハルカの顔は明るくなっていく。
「みんなの前ではハルカさん」
「そうしたら私はむぎ」
「みんなの前で中神先生」
「中神先生。えー、嫌だ」
「中神先生って呼ぶ人の方が少ないよな」
「先生たちが呼んでいる」
「生徒は呼ばないよ」
「中神先生」
「いい子。行くんでしょ調査。今までのハルカならどうする?」
「理事に働きかけて、懲戒処分」
「今回は使えない。なぜなら追放しても住所やアドレスは変わらないから」
「本人に言い聞かせるしかない」
「性癖は変わらないよ」
「三日時間ちょうだい」
十一月も末、一週間後の期末テストについてハルカは何を考えているのか。そもそも大学に進学するつもりはあるのか。
三日後はもちろん施設立ち入り禁止で、私も念の為に職員室で仕事をすることになった。
ハルカが来ることはなく、テストは終了しハルカは満点を取った。気を抜いて今まで八割だったのに誰かが魔法をかけたと職員室の私に生暖かい目を向ける先生もいた。噂や何やで知られているだろう。
朝礼で発言の許しが出たので、アタルの話をした。
当時の面接官の先生は良かったねと言ったが難しい顔の先生もいた。本当はいかがわしいことをしているのだろうという疑いの目だ。
だが、今の前向きなハルカを見て、納得してくれた部分は大きいようだ。校長先生からは大人としての節度をと、念を押された。
「満点取って来たよ。これで同棲出来るね」
「偉いね」
デレデレされると調子が狂う。
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