第9話 私は今日から唐変木

「まだいたのか」


「ハルカさんが寝ている間に何度か出入りしたわよ。鍵はちゃんと閉めて出たわ」


「開いたままで良いのに余計な事をしよって」


「誰が入ってくるか怖いじゃない」


「お前が思っているほどこの学校の風紀は荒れておらん、百合は妄想の産物だ」

 ガーン、春陽台には百合が無いのか。アタルと会う目的の他にという期待の元、入職したのに。


「暇なら投書箱を見て来い」

 投書箱は立派な木箱では無く、ガムテープで補強された段ボールだ。


 口がついていてと書かれている。背後は壁に接していて、背後から依頼を取り出すのだろう。


 振るとカサカサ音がする。


 誰かの暇つぶしになっているようだ。



「これでしょ?」


「あぁ、それだ。持ってこい」


「あのね。持ってきてもらったら、ありがとうございますは言った方がいいよ」


「いいから早く」


「はいはい」

 思ったように箱の背後から紙を取り出した。中身を見ようとしたら、ジト目で自分の胸元に抱き込んだ。はいはい。


「これはダメだ。これは見せてやる」

 番号が書かれている。3とだけ書かれた紙。


「スパムには関わらない事だ」


「この前は何だったの?」


「忘れた」


「そう、捨てておくね」


「赤いゴミ箱に入れてくれ、一応保存だけしておく。殺された時用に証拠として持っておく」

 高校生が殺される事を疑うなんて馬鹿みたいだ。殺されるような治安では無い。この辺りは学校が多く学研都市として有名だ。ただ川を隔てて南側は少しばかり話は違う。


 昔、二週間だけ勤めた小学校があったのは南側だった。あそこで出会った男の子達はどうしているだろうか。


「何をボーッとしている」

 そうね、目の前の人慣れしていない猫の対応をしないとね。


「昼休みに二年四組の坂原という女を呼んでくれ」


 成長したね。呼べでは無くて、ちゃんとお願い出来るようになるなんて、よく頑張ったね。


「何か?」


「偉いなって思って」


「とりあえず呼んでくれ、その際この紙を見せて今日の放課後は来るな」

 昼休みに二年四組に向かった。飼育箱があったので、何か飼育しているかと思ったが、その前に坂原を呼ぶことにした。呼ぶと利発的な女の子がやってきた。



「どしたんですか」

 そう言われたらこう答えろと言われた。


「放課後、課題の件で」

 そうしたら坂原さんはきっとこういうだろう。


「ありがとうございます」

 そう笑顔で言った。


「あれ、気になります?」

 飼育箱に振り返った。


「権兵衛っていうんです。一回盗まれちゃって」


 二年四組、ダニ。


 生徒が部活を始める頃、今日の仕事は終わっているから、授業の準備を伸び伸びするか。


 そう思って放課後を迎えた私はかなり良く無い事を思い出してしまった。私は仕事のほとんどを図書室に持ち込んでいる。


 それはPCももれなく持ち込んでいる。いつからあそこは私の仕事場になったのだ。資料は図書室の資料を使い、カウンターの前にはPCを置いたままだ。



「このアホー」

 背後の席の先生に大丈夫ですかと心配された。パソコン室のPCを使うしか無いかか。

 それにしても人除けをしないといけない話はなんだ。

 パソコン室は二次創作をするために文芸部が借り切っているらしい。なるほど、のか。


 図書室に足が向いた。パソコン室からすぐそこにあるのだ。


「詐欺なんて嘘だと思うんです」


「とは言ってもこれでは」


「すごく優しい人で」

 これは物騒だな。


「分かった。外にいる唐変木やくたたずがどうにかするだろう。なぁ、先生」

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