第8話 触らぬ飼い猫に祟りなし

「おい、お前」

 私しかいない図書室でお前は私の事だ。


「なに?」


「お前と話をしたい」

 珍しいことがあるものだ。


「課題に飽きたの?」


「監視役の境遇くらい聞いておいてやる」


「辞めておくわ」

 私の言葉に驚いたようだ。今までに話せと言われた人の話が聞けたようだ。


「私をお前と呼ぶ人間に私の歴史を言いたくない。やらかした時に言うわ。やらかさないとあなたは私に横暴な態度を取ることが出来ないのでしょう?」

 顔が真っ赤になっている。

 まだまだ子供だな、そうやって人とろくなコミュニケーションを取らないままで高校生になってきたのかしら。

 ただの勉強が少し出来る高校生。なんだ、普通の飼い猫ね。



「いつかお前を地獄に叩き落としてやる」


「怖い怖い。いつか叩き落とされるわね。それで人生ゲームでもする?」


「お前と一対一で人生ゲームするのか。笑わせるな。その紙袋に入っているのはゲームばかりか?」


「そうなのよ。事務書類はハルカさんの世話をするならって量が減って仕事はしやすくなったのよ」


「するわけなかろう。和気あいあいと人生ゲームをする仲でも無いだろう」


「そう。楽しいのに。仕方ないわね、このテーブル使うわね」


「だからしないって」

 私はいつも通りに車にピンを刺していく。そして入るだろう自動車保険を差し引いたお金を車の数だけ置いていく。


 そして全員を置いて、ルーレットを回そうとした時にハルカさんは口を開いた。


「お前、何をやろうとしている」


「人生ゲームよ」


「私はやらないぞ」


「知ってる? 人生ゲームって一人でも出来るのよ? 知らなかったの?」


「オセロも一人でするのか」


「まさかオセロはネットでやるわよ。そんなに頭は良くないし、将棋も詰将棋ね。オセロよりも手軽だけど、ここネット繋がりにくいのよね」


「これはなんだ」


「ツイスターゲームよ」

 ツイスターと聞いてハルカさんの顔が青ざめた。


「お前、高校生相手に何をするつもりだ」


「ツイスターゲームはいいわよ。自分でルーレット回すといい柔軟体操になるの」


「可哀想になってきた。見てて辛いから人生ゲームくらいはやってやる」

 なんだ、ハルカさんも気になっていたのか。早く言えばいいのに、私も気になっていたのだ。一緒にやろうではないかって、人慣れしてない飼い猫では無理か。


「じゃあ、四人プレイだね」


「サシでやるのだ。見ていられん」


「もう照れちゃって」


「何でもいいから付き合ってやる」

 上から言う割には弱い。そもそもルーレット運が底無しに悪い。

 友達には騙されて結婚は破談になり仕事はクビになった。

 さらには詐欺に遭い宇宙旅行に連れて行かれて、約束手形まみれの人生だった。



「もういい。もうやめたい」

 そう思うのも仕方ない。だが、ゲームマスターの言うことは聞いてもらおう。


「ダメだよ。一旦始めたゲームは最後までやろう」

 開拓地で一を引き続けて、なかなか減らない約束手形。あまりに可哀想なので中断した。


「疲れた。寝る」

 図書室カウンターから鼻息が聞こえた。

 あんなにルーレット運が悪いとこれから友達と人生ゲームする時に困るだろうな。

 それはそれで愛される人生を送ることが出来るのかもしれない。


 その前にあのコミュニケーション能力をどうにかしないといけないだろう。そう言えば投書箱には何が入っているのだろうか。不思議には思うがハルカさんはきっと烈火の如く怒り、せっかく遊んでくれたのに関係は後退する。



「触らなぬ飼い猫に祟りなし」

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