第7話 猫飼育では無く

「六人も? だってそんな素振り」


「何だかんだ理由をつけて、相手を追放してきたのだ。理事になら適当な事で飛ばせるくらいの言い訳も聞けるだろう。大方、レイプ紛いのことをされた、と」


「男なんて使い回してナンボよ」


「それで何を望む?」


「決まってるわ。あんな写真を取り返して、私は池淵程度に言い寄られてあんな写真を撮らされたって言うのよ」


「その割には仲良さげなシーンだったかと思われるが」

 なぜ知っているのだ。まるで灰皿に写真を置いたかのようだ。


「もしかしてあなたが写真を置いたの?」


「吉永、裏切りにも気付かないのか。愚か者」


「先生」

 この際、愚か者も許してやろう。だって吉永先生は愚か者だもん。


「吉永は何を望む?」


「出来る事全てよ」


「吉永理事はもう立場が危うい。流石に五人連続はやりすぎた。それでどうする。第三者に撮られたというか? それともそういう男と婚姻するか?」


「ちょっと待って、ってどういう意味?」


「吉永は大変にいいやり方をしてきた。不倫をしてきた男と結婚を繰り返している。相手も不倫で結婚したので、不倫をされてもフェードアウトしてしまう」

 そうかダメならレイプされたと言えばいいのだ。


「騙されたの、まさかそういうことするなんて思わなくて、普通に飲みに行ったら変な薬を盛られて。というところだろう」

 すねに傷があると追及しづらい、嘘をつかれてもすぐに離婚は出来ないだろう。


 仮に法的に争う姿勢を見せられても涙ながらに付き合う時に結婚していた事を知らされていなくてと、メンタルを削って消耗させた上に理事の親に金を出させる。


「大体、よく分からないな。なぜをやっているのか」


「生徒を正しい道に導くこの仕事は尊いじゃない」


「ダウト。他に理由がある。きっと性癖だろう。治らない」

 考えないでも分かるが矛盾している。正しい道を進んでいないものが正しい道を歩ませようとしている。



「ここに来たからには何か一つだけ叶えてやろう」


「そうね。それを選びに来たの、早く何とかしてちょうだい」


「何か勘違いをしているようだが、選ぶのは私だ。おい、お前。そこの箱を取れ」

 はてなマークがついた粗末な段ボールの箱。


「不倫女の為に説明書を用意した。これを先に読め」

 お前では被るから不倫女にしたようだ。


「私の希望を叶えてくれるのじゃないの?」

 A4の紙を見て怒りに震えている。


「こんなのいいところ一つもないじゃ無い」


「ハルカさん。何を書いたの?」


「知りたいか?」


「あんな態度になったら、ちょっと興味がある」


「あの中には十個のカプセルが入っている。ランダムで選んだ内容を叶える。不倫女の場合は一個だけ何も無かった事にするが入っている。それ以外はどうやっても首だ。方法が入っている」


「こんな九個もマイナスなんて、ひどいわ」


「四十も過ぎて色々な人を傷つけた罪は重い」

 四十過ぎているんだ。童顔だな、これなら馬鹿な男も吸い寄せられるだろう。

 経験数もあるから夜は絶品だろうし、理性的に抵抗しようとする男もこの顔で揺るがされたら簡単だろう。



「不倫女、早く引け」

 どんな調整があったのか週明けから池淵先生と吉永先生は消えた。机も最初から無かったようだ。職員室で噂すら聞こえない。


 ハルカは何者なのだ。


「中神先生、ちょっと」

 教頭先生が職員室のパーテーションに私を招いた。


 猫では無く、とんでもない猛獣だった。





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