第10話 金回りのいい彼氏
私はパソコンを取りに来ただけだと言っても猫はゆるしてくれない。
「そんなもの最終下校時刻に取りにくればいいではないか」
「相談が最終下校時刻後まで伸びるかもしれないでしょ」
「当然だ。相談はちゃんと聞くものだからな、お前今失礼な事を考えただろう」
図書室をねぐらにしているギリギリ高校生がやっぱり相談に乗るほど暇だったんだとしか思っていない。
「ハルカ様が相談に乗ってくださるなんて、珍しいことなんです」
「今、失礼な事を思っただろう」
こうやって支持者を増やしているんだね。すごいねとしか思っていない。
「それで事情は最初から」
「申し訳ないな、こいつのせいで」
「いえ、感情的にならずに済みそうです」
話はこうだ。最近、彼氏の金回りがよくなった。
前までは彼氏とのデートはファーストフード店で昼ごはんだったが、少し高めの焼肉になった。
アルバイト始めたのかなと思って何も言わなかった。
それまで何も無かったのに記念日だと言って、宝石のついた装飾品をくれたり、自転車を押して帰る帰り道もタクシーに乗せてくれたりした。
心配になってどんなアルバイトしているか聞いてもはぐらかして、しつこく聞いて面倒くさく思われるのも嫌で、中々口に出来ないまま過ごしていた。
ところが学校が休みの日にニュースで詐欺の受け子が一斉摘発されたニュースを見てから、彼氏の様子が目に見えておかしくなった。
変なことをしていないよね。と聞くと「悪いことなんてしていないよ」と、坂原さんが彼氏にどんな悪いことをしていないか聞く前に否定をした。ただごとではない彼氏の様子が怖くなり、最近は会えていないとのことだった。
坂原さんは彼氏が詐欺の受け子をしていると疑っているのだ。
「そんな悪いことをする人じゃないと思っているけど、信じられない自分が嫌で」
涙ながら話す坂原さんが可哀そうだが、これはグレーだ。
「他に何か変わったことは?」
「少し油臭いなって」
「油?」
「昔、おじいちゃんが工場で働いていて機械油の臭いと似ているなって」
「手はどうだった」
「特に何も」
「また分かったら、そこのに呼ばせる」
「彼氏もダメな人ではないんです。よろしくお願いします」
坂原さんは帰って行った。
「どう思う」
「グレーよね。話を聞く辺り」
「真っ黒な可能性があるな。曽根に聞くか」
「曽根?」
「幼馴染だ。南側の事情をよく知っている。お前は来るな」
ハルカさんは南側の人だったのか。その事情通にアタルの事を聞けば少し近づけるかもしれない。当君のことを、再会を出来るかもしれない。
「来るなよ」
「なんでよ」
「曽根は大人を信用していない。お前は春陽台で大人しくしてろ」
週明け、私は再び坂原さんを呼びに行った。期待に満ちた表情ですぐに図書室に行こうとしたが、準備があるからと言ってごまかした。
放課後に呼び出したのは化学室だ。そこで機械油を私が手につけられて、クレンジングオイルを振りかけられた。
「このようにおそらく親類の工場で働いていたのだろう。高校生不可のところが多く、リスク代と言って少し多く給与を得ただろう」
「じゃ、悪いことも?」
「あぁ、この辺の工場は高卒しか働けないからな」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って、帰って行った。
「結構、優しいのね」
「あの子は悪くないからな。工場だけで月に何度もちょっと高めの焼肉屋に行けないだろう。そのうち一斉摘発の手が届くだろう」
一ヶ月後、詐欺の受け子が一斉摘発された。坂原さんは摘発前に別れたらしい。
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