第13話 虚言癖のお嬢様
「今日は来なくいていい」
毎日来る気は無いのだが、職員室よりかは仕事が出来る。
「いいか。今日は本当に厄介なんだ。PCも引き上げて一個も忘れ物が無いようにしろよ」
「何が来るのよ」
「虚言癖だ」
「虚言癖はちゃんと話を聞いて、信頼関係を構築して、専門家に繋ぐの。冷静に対処していけば、治す気になるわよ」
「虚言癖の勉強をしたことがあるか?」
「心理学部卒の私からしたら、治す気のある虚言癖はどうとでもなるわよ」
「そうか、お前は虚言癖の知識があるのか。そうだな、気になるならいてもいいが、後悔するなよ。あと、今どうやって通勤している」
「車よ」
「今度から車は私の家に置いて、私と登校しろ」
あんなにシャーシャー鳴いていたのに私と車で登校しろだなんて、丸くなったね。心の距離が近づいて私は嬉しいよ。
「今日じゃない。明日からそうしろよ。そして今日は絶対にここへ来るな。絶対だぞ」
「分かったわよ」
なんだあの態度は急に近くなったと思ったら、遠ざけて、心理カウンセリングが必要なのはハルカさんの方じゃないの? 校門に着くと車がつけてあった。
「中神様ですね。お待ちしておりました。この車に着いて来てください」
「ハルカさんの」
「はい、運転手です。家まで案内しますので、車を」
すごい金持ちだったのかと思ったら、川を越えた。私の家から近いじゃないか。
走っているうちにいくつかの角を曲がって、うっそうした建物の前に着いた。
ここが家? 駐車場すらないじゃないか。運転手さんは私の車の窓を叩いた。
「私があのガレージに車を入れます。その後に続いて同じ動作をしてください。番号は124です」
そう言って、役に立っているか分からないガレージに車を入れた。あんなに狭いガレージによくあんな長い車を入れるな。
続けて私はガレージの前に車を置いた。ぼろい家に似合わない銀行の暗証番号を入れる板みたいな物に124と入れた。シャッターするとシャッターは閉まり、次に開いた時に中に車は無かった。
「以上です。この道を帰って明日の六時に同じ道で来てください。けしてカーナビに入れないように」
ハルカさんはとんでもない金持ちお嬢様みたいだ。
「なんでそんなにやる気に満ちている」
「ここで私の専門分野が役に立つなんて思わなかったから資料を引っ張ってきたの。まずは関係性の構築ね」
「すぐに分かる。無理だと」
「ハルカちゃん。ちわーっす」
入って来た女の子は口調のくだけたお嬢様だった。
「そこの人は?」
「図書委員会の新しい先生よ」
「中神です」
「よろです。口調? しんごっくすの神やんが好きでこんな口調になったっす。正直、家では良妻賢母であれって言われるのが面倒で、たまにここに来てこの女の話聞いてあげてるんすよ」
「いい友達じゃない」
「どうだか」
「こうやっていつも素っ気なくてさ。ちょっとはデレてくれてもいいんだぞ」
「普通よ。普通が一番」
「先生はどんな勉強してきたの?」
「私は心理学を専攻していたわ」
「この子から虚言癖って聞いたの? 確かに少し嘘言っちゃう時はあるよ。たまにだけど、この子に信用されていないから余計かな」
「そんな事無いよ。あなたは魅力的よ」
「じゃあさ、SNSを交換しようよ。魅力的だと思ってくれたならいいでしょ?」
「それは」
「ダメ?」
「もういい。一回目の面談は終わりだ」
連れないなと言って帰って行った。
「普通の子じゃない」
「家は商店街の八百屋。放任主義でしんごっくすってグループは存在しない。ここに来るのは確かに二ヶ月に一回SNSどころか携帯を持っていない」
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