第14話 夢を追う彼氏
「連れて来たわよ」
今日は私に信頼を寄せる迷える子羊の多村さん。ハルカちゃんを紹介してくださいと言ってくれた。
「なんでお前はそう厄介事に首を突っ込むかね」
「厄介って何よ。多村さんはね、遠距離恋愛で悩んでいるの」
「家に帰って考えろ。恋愛は一人で解決する物だということを自覚するいい機会だ。もしそれを考えてここに来たのなら帰れ」
「そんなもうここしか」
「そこの女」
「多村さん」
「そこの女」
女ではなく、多村さんの眼鏡の奥に火が灯った。
そう負けないで多村さん私に話聞かせてくれたじゃない。
その想いをこのアホに届けてね。
「私の彼氏はホストをしています」
「おい、お前」
「私ですか? お前って」
「違う。大人の方のお前だ。なんで連れて来た」
「それはパッションを感じたからよ」
「学校を出てすぐにジュースバーが出来たのは知っているか」
「知っているわよ」
「今すぐパッションフルーツジュースを一個だけ買って来い」
「お金は後でもらうからね」
「皮肉だ。アホか」
高校生に皮肉を言われたのもショックだが、高校生にパシリにされることを疑わなかった自分にガッカリした。
はーとハルカさんはため息をついた。
「最近、お金に困っていてちょっとでいいから助けてくれないか」
ハルカさんは低めの声で言った。
「どれくらい?」
少し高い声で言った。
「ちょっとだけ、今日は五千円くらいあれば」
「大丈夫。五千円くらいなら」
「ありがとう。好きだよ」
「わ、私も好き。で、幸せな気持ちになってしまって、今で合算三十万円か」
「二十万円です」
「彼氏とは連絡がつくのか?」
「昨日、通話しました。来週返してくれるみたいです」
「それ先週も言われなかったか?」
「彼、バーテンダーになる夢があってそのためにお金が必要で頑張ってて、夢が叶ったら結婚しようって」
「おい教師の方のお前。ここまで聞いていたか?」
「私には上京した遠距離恋愛中の彼氏が最近電話出来なくなったって、言ったわよ。浮気ならどうにか出来るでしょう。例えば、お金持ちパワーで化粧品とか買って魅力アップ」
部屋の空気が一気に冷たくなった。
「いいか。小娘、家の事はここでは話すな」
「小娘ってアンタね」
「いいか、もうこれ以降言ったらこの学校から消すぞ」
「分かったわよ」
「もう諦めろ。次回は十万円クラスが来る。来たら断れ、それで終わりだ」
「ユウジ君すごく頑張ってて、この前も五万円売り上げあったって」
「それは東京のどこだ?」
「地名は教えないって言われて」
「どうして?」
疑問の度に優しくなる口調。
「次に会う時に驚かせたいって」
「なんで?」
「バーテンダーで活躍した時に見せたい景色だからって」
「どこで会ったの?」
「SNSだよ。フォロワー伸びなかったから、顔写真載せたらすぐに迎えに来てくれて、カッコいいし、夢があるし」
「先行投資には持って来いだと思っただろう」
「そういうものくらいはあるでしょう。みんなそうだよ」
「お前、もう無理だ」
なんとか取り返そうとしている多村さん。
さっきからハルカさんの言葉に首を振って、私の説明が悪くてとか、彼は本当に困ってて、女の子を接客する時もいつも私の事想っているって。
「その男の名前は?」
「ユウジ君。本名だって」
「写真は? ここに送ってみ」
「送ったよ」
「確認した。今の検索エンジンはすごいんだ。画像検索が出来るこの写真を貼って」
「止めてそれはダメって言われて」
検索画面に引っかかった。
「今日も収入一万ゲット。春〇台のJKマジ鴨だから、ライン欲しい奴オススメ」
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