第30話 小動物の来訪
ハルカさんが図書室にいない時があるなんて、静かだ。
さっき優雅に太宰の全集を読んでいたところをメイドさんに連れて行かれた。どうやらずっと体調不良で延期にしていた体力測定のツケが今になって来たらしい。
春のうららかな日々が遠く過ぎ、夏の暑さを感じさせる気温。さぞかし、体力測定は楽しいことになっているだろう。群衆の前で嫌な遠距離走、無様にボロボロになっているところをさらすといい。
事件は解決した。一人の女の子が残した遺言は強烈だった。音声は偉空の暗黒政治が展開されて他の女の子は自らの苦痛を引き換えに殺された。
結局、何をやっても死んだ方がマシという結末に落ち着いてしまう。
裸の写真をさらされて一生苦しむか、秘密と一緒に殺されるか。
椚さん自身はどう思って死んだのかは分からず仕舞いだった。
仕事はひと段落ついて、久しぶりに強制されない午後の紅茶でも楽しむかなと思っていたら、入り口に小動物がいた。リスやモモンガではなく、女の子なのだが不審である。
一歩図書室に足を踏み入れ、こっちを見て足を戻す。声を掛けづらかったのは睨まれている気がするせいだ。なぜ睨むのに入室を試みるのか私には分からない。
時計を見ると昼休みに入ったばかりだ。ここのお姫様は汗ずくで帰って来るか高すぎるプライドゆえに別室で過ごすだろう。
お弁当を買ってきて、優雅に紅茶でも飲む。最高の昼休みだ。
それにしてはあの女の子が邪魔だ。
私は普通に図書室を出ようとした。この形容は正しくない。本来は普通に出る必要は無いのだ。普段と同じなら自然にという言葉の使い方が正しい。つまり小動物を意識せざる得ない状況に陥ったのだ。
睨みが過ぎて、普通を押すしか無くなった私はここで無視をするわけにもいかなくて、声をかけることにした。
「何か用かな?」
「用はありません」
「本、探しているの?」
「別に」
用は無くて、本を探している事情も無いのに、入り口で挙動不審な動きをされるなんて気持ち悪い。
「もしかして、ハル。中さん?」
「中様は関係、ありません」
おっと良かった。ハルカさんって呼ばなくて、中さんで正解だった。さっきまで伏せがちだった視線はこっちを刺してそして伏せて、頭が動く。
この子、目と頭が連動しているな。共学で無くて良かったな、顔がいい分いじめられてしまいそうだ。
この文化系な見た目がそのまま文化系であった場合はよくてオタク。悪くて弾かれる。スクールカースト上位にいかないと学校での平和と安寧が崩れ落ちてしまう。
いたよな、文化系の見た目で色んな男を篭絡する女の子。
私の彼氏取ったか取らないかで喧嘩して、すぐに泣くから。
「その依頼に」
すぐ泣く女はダメ絶対。引用は私の高校生時代。
ん? 依頼?
「ここでお願いしたら、何でもかなえてくれますよね」
聞いていただけると聞いたではなく、断定気味の何でもかなえてくれますよねは危険だ。安易にいいよと言うと、私にとって面倒でその上ハルカさんにも嫌な顔をされること間違いない。
「なんでも出来るわけではないよ。その名前は?」
「言ったら依頼引き受けていただけますか?」
うーん、ダメだよ。これはダメ。ハルカさん戻ってきて、別室じゃなくて図書室があなたの城でしょ。くだらないプライドは鞘に納めて、早く帰って来てくれ。
「物による」
「中様にしか権限は無いのですか? ここの先生なのに中様に信用されていないんですね」
泣く女と裏表ある女はダメ。さっきまで小動物だったやん。
「分かった。話だけでも聞くよ」
「私、あなたのお名前知りません。知らない人に聞かせる話ではありませんでした。聞くだけって何様ですか? 結構です」
そういって、昼休み終了のチャイムと共に来た時よりもかなり厚かましく帰って行った。
この学校って一学年に一女王いるのかな。靴下の方がどれほど面倒じゃないか。
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