第35話 狂った家族
気まずい。
俺、ア。の後が知りたい。
俺、アルバイトの可能性がある。でもあんなところでアルバイトという宣言をするか? アルバイト禁止なのに?
あれからハルカさんは一週間寝込んだ。学内にいた使用人さんに引き渡したら、当分お会いになりませんようにと告げられた。だから一週間、アの先を聞かされていない。
完治した後に改めて、アの後を聞くのも恥ずかしい。
うわごとだったので、向こうは覚えていないかもしれない。
「今日、行くぞ。一週間も無駄にしてしまった」
ハルカさんはいつも通りに図書室に図書室のブースの中に入って、無駄にしたという割には全集を読み始めた。もしかして、全集を読むのに無駄にしたって言っているのか。
「花火大会? 車だと駐車場大変だから運転手さんに途中まで送ってもらわないとね」
夏休み一発目の花火が小規模ながら上がる日だった。
「蚊に血だけではなく、脳みそも吸われたか」
失礼なそんな馬鹿なことはあるか。
「小動物は小さい方がかみつく力が強い。なぜかわかるか?」
「げっ歯類って、歯が鋭いからね」
「それもそうだが、小さいと見くびるからだ。行くぞ、車を待たせてある」
小動物は侮るなかれ、あの女の子のことかしら、でも私はあの子の事を見くびっていない。ただお兄さんの事を案じている妹で、両親の喧嘩に心を痛めている。
車の中でハルカさんは外を眺めていた。浴衣を着たカップルや子供連れ、中学生だろうか。狭い道なのに自転車で走っていて、危ないな。あーあ、怒られちゃった。
「お前は神社に行ったことがあるか」
「いきなりどうしたの?」
「単なる質問だ」
「あるよ」
「ご神体を見たことはあるか」
「地域の祠みたいなものは何度か」
「どんな形をしていた」
「さびた鏡だった」
「解決が継続しなかった理由を今から知ることになる」
「仰々しいわね」
それから団地に着くまでハルカさんは何も話さなかった。車を降りて、階段を上るのも自然体で鍵まで開けた時には驚いて止めた。
「いくらなんでも不法侵入よ」
「許可は取ってある。お前はこの紙に今からいう事を書いておけ」
さきほど、悟さんとお会いすることが出来ました。悟さんは学校で辛い目に遭われて現状悟さんの体調を鑑みるに自宅での静養が必要かと思われます。
「名前は書くなよ」
書こうとして止められた。
「なんでよ」
「負わずにいい責任は負うな。帰るぞ」
「でも会ったって」
「会いたいか? 会ってもろくなことが無いぞ。そこの冷蔵庫をよく見ろ」
壁が見えないほどたくさんの書類やメモが貼られている。
「この壁を全てカウンターに置いてその磁石で止めておけ、帰るぞ。気になるか」
「それはここまで付き合ったわけだし」
ハルカさんはため息をついた。
「お前の場合アホだから、何も感じないだろう」
たんすの裏をそろそろと通り、お兄さんの部屋の前に立った。
「入るなよ。型がくずれる」
開かれた部屋には整頓されたベッドと机に、四方に盛り塩と白い敷物と中心に切られた毛髪があった。
「帰るぞ」
「ちょっと待ってどういう」
車に帰るまでにハルカさんは何も話さなかった。
「いないのだ。最初からあの家には悟という家族はいない。先代と来た時、悟は中学生だった。子供の時に亡くなった悟がいないのは引きこもっているせいだと思うことがあの家族にとっての幸せだ」
「じゃ、あの神体みたいなのって」
「先代がまじないの作法を知っていた。その以前は分からない」
「だから神体の話を」
「あそこに悟は死してなお封印されている。定期的に会ったという証明が欲しいのだろう。自分たちが狂っていない証明が、狂っているがな」
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