第34話 ご挨拶
「行け」
「行ってください。よろしくお願いします」
「行ってくださーい。なんで目頭を抑えている」
「まさか行ってくださいが言えるなんて」
「敬語くらい使えるわ。失礼な、使う気をお前が起こさせないから悪い」
「それで投書箱ね。敬語使えたから取って来てあげる」
図書室の前の投書箱には一つ便箋が入っていた。ハートのシールで留められた便箋はもしかしてファンレター。
「何か楽しそうだな」
「これは陰ながら図書室を支えている私への気持ち、でもごめんなさいね。私は教員、だからあなたの気持ちには応えられないの。でも気持ちは受け取ったわ」
「それか、あー」
「なに羨ましいの?」
「一歳下の従姉妹だ」
「なんだ私じゃないのか」
「そっくりで気持ち悪い従姉妹だ。なんでも知ったように言ってかなり性格が終わっている。頭だけいい。なんだ?」
「厄介な人なのね」
「そうだ。厄介だ」
気分をよくしたのだろう。その従姉妹の面白くないところをあれこれ言い始めた。同族嫌悪なのか、びっくりした。自分のことを言い始めたかと思った。
「次の日曜に会いたいと言っている。何かいい加減なことを言われてここの業務に影響を及ぼすと困る。当日は私も行く」
「それは私が一人で行くのが心配だから、私も一緒に行くよ。だって、私あなたのkとがす」
「百合のお花が咲いた頭はどこの病院に行っても治らないだろうな」
「だって、そういう意味にしか聞こえないよ。生徒に心配されて嬉しい気持ちになるなんて不思議だな」
そわそわしているせいかいつもの数倍キツイ対応の木曜日や金曜日が終わった。
土曜日になり、コロナウイルスにハルカさんは感染した。
日曜日は一人で行けと伝言を授かり、私は一人教会の裏に向かった。
期待に胸膨らむばかりで私は誰かが待っている姿を見た。
「初めまして中神先生。お姉さまはどこですか?」
「ハルカさんならコロナ。聞いていない?」
「看病しにいかないと」
「止めておきなよ。うつったらしんどいよ」
「そんなわけではないです。私の愛しのお姉さま」
「アタル」
空白の緊張浮かぶ空気だった。
「アタルって?」
「あなたもアタルさん?」
「私もアタルですわ。でもあなたが探しているアタルでは無いです。私は一回も公立に行っていませんもん。お姉さまみたいに雑に扱われておりません。お姉さまが持っているのはお金とお屋敷だけ、私はお金もお屋敷もそれ以外も。可哀そうで愛おしいお姉さま」
「何が目的で呼ばれたの?」
「ご挨拶です。お姉さまはあなたが来てからとても楽しそうです。私は目だけが冴えて殺気だったお姉さまの目が大好きなの。あなたは邪魔です。さっさと消えて欲しい」
「そのご挨拶をしてくれる為に呼んでくれたの? 私くらいの教員、飛ばしたければいつでも飛ばせるでしょう?」
「ここまで親密にされたらどうにも出来ません。欲しい物はいつも手に入る物ではない。欲しいです。お姉さまの絶望に満ちた顔と殺気だった目を」
「性格悪いね。君」
「お家で社会に貢献した者は総じて裏がある者ばかりです」
「そんなに実家が大事? くだらない」
「今、なんと」
「家がどうとか、屋敷が金だ。何を持っていて何も持っていない。だから何よ。私は中ハルカの監督教員よ。いくら全然笑わなくても、何回か言い聞かせてやっと敬語を使えるようになっても、可愛くてアレな生徒よ」
「あなたはさっきから何を言っているの? いいところを拾えていない。ま、お姉さまの最大の理解者は私」
「人が寝込んでいる時に何をごちゃごちゃ言っている」
全身からもうもうと湯気が出てそうなくらい赤い顔、壁にもたれないと立てない体。いつも感じさせる覇気も弱い。
「お姉さまの隣に立つ権利はどちらが持っているか」
「お前は論外だ。帰れ」
「やはり私をお選びに」
「中カナ。帰れ、私は中神をしばらく配下にする。いいか? 早く帰れ」
「ハルカさん、また日を改めて。今日のところは失礼します」
カナさんが出た後、フラフラのハルカさんを抱き支えた。
「アタル」
「何? ハルカさん」
「俺、ア」
何か重大なことを言われた気がした。
まさかな。
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