第38話 日本語の勉強
真面目なところを多くみた。城下町とは何なのか。年賀状とはどういう文化なのか。縁側というのはどういうものか。
日本語を単に読むではなく、ちゃんと理解しようとするところになぜ一回でもお祭りに連れて行ってやらないと憤りさえ感じた。こんないい子他にいないだろう。
図書室なので、城下町や年中行事や建造物の構造が描かれた本を見繕って、一緒に読んだ。やはり難しい日本語が出て来て、簡単に説明しようとするのだが、国語辞典を開く手に手出しは出来なかった。
お盆の折り返しにやっと隈田さんが出てきた。この隈にはどういう意味があるのかと調べ出した。このペースでいくと終わりが見えない。きっと家でも読んでいるのだろう。
「ところでその女の子はどんな子なの?」
「滅多に笑いません」
「陰気な感じ?」
「陰気、暗い? いえいえ、そんなことないです」
「明るい」
「いえ、堂々としています」
「成績はいいの?」
「多分」
「そうなんだ。何か好きな物はあるの?」
「分かりません。好きって言ったら」
無理だろうけど、読めたら遊びに行ってあげる。そう言われたそうだ。上から目線で嫌な子だな。でも彼女にとって特別な相手なのだから、ここで私情を挟むのは良くない。
「私、頑張ります。絶対に盆踊り大会に、間に合わせます」
八月の最終週に川向にある盆踊りだ。小規模だが、商店も出ていかにも地元のお祭りだ。
「じゃ、盆踊り大会までここに通えるよね」
「ダメです。約束しました。ここにはお盆が終わったら、来ない」
「いいじゃん、どうせ夏休み中だし暇だよ」
「ダメです。まだお手紙の返事は、来ていません」
お手紙か、古風だな。誰かの入れ知恵か。
「お手紙はその子に出したの?」
「はい、必ず届くと聞いたので」
笑わなくて堂々としている。ん?
「その女の子ってさ、話す時にお前とか」
「先生、前に干したパンツある?」
童貞が好きな前やってきた生徒が入ってきた。廊下に下着が干されているのが忍びなく、引きだしの中にジッパーに入れた下着を保管してある。そのせいで図書室は干した下着を保管してくれると判断されている。そのせいで生理が来た時の為に置きパンが大量に保管されることとなり、ハルカさんは非常に嫌な顔をする。
抵抗をしたのだが、数に押されてパンツまみれになった。そのせいでそれ用の棚を導入しようか考えている。今が三十人だから、置きパン三倍くらいに増えるだろうな。
「アリアじゃん、何してんの? 先生、消臭剤無い? おひさまの光だけじゃ、ちょっと臭いの無くならないからね。無香料でいいからさ」
「ここはパンツ保管庫じゃないから、渡す消臭剤は無い」
そうかこの女の子はアリアというのか。
「日本語の勉強を」
「そうか、あんた。話せるけど、読めないもんね。どの本? 何、知らないや、普段漫画ばかりだからさ」
「何を読むの?」
日本語的な慎みのある質問だった。
「ぶんぶん振り回すやつ」
抽象的過ぎて分からない。
「先生も好きでしょ? 振り回すの」
生徒の視線はカウンターのモニターに移った。
「うわ、スイッチじゃん。本気だね」
「それほど暇だったの」
「これさ、お盆終わるまでに撤去した方がいいよ」
「言われなくてもそのつもりよ」
「先生はお盆はアリアの相手でゲームは進まず。それで白いのは倒したの?」
「白? 赤いやつなら」
「まだ最初じゃん。面白いのはここからだよ。ごめん、邪魔した。ダメ元で柔道部に行って消臭剤あるか見てくるね」
カウンターにちょっと臭いかもしれないパンツを残して、爆弾低気圧は去って行った。
「続きしよっか」
お盆最終日一日前にカウンターからモニターとスイッチを回収した。帰りの車で運転手さんに「充実したお休みでしたか?」と聞かれ、ゲームが出来なかったとは言えなかった。
アリアの手紙は私が回収した。あなたを見続けてもいいですか? の投書はきっとあの娘に宛てたものだ。ハルカさんは玄関の向こうに立っていた。
「遅い。それでゲームはせずにどこまで進んだ」
図書室の主は車から降りた時に目の前にいた。
「四十ページよ。明日で六ページ稼ぐわよ」
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