第41話 文化祭準備

 学園は文化祭の準備で慌ただしい。

 ミスコンして、男集めたいと思うのは一部だけでその理由も中々ひどい。

 文化祭の出店責任者はシスターさんで、私は受領印を押す担当で呼ばれている。



「なんでですか! お客様を楽しませたい気持ちはここにいる全員と同じです」


「言いたいことは色々あるのですが、このペア部門はどういうものですか」

 私は語気を荒げる生徒に尋ねた。


「そのえっと」

 もじもじするな気持ち悪い。


「男の子と男の子に手を握らせてちょっと交流してもらうミスコンです」


「ちょっと待って私の知っているミスコンじゃない」


「お、なかちゃん気になる?」

 気にならなければ良かった。


「まずを開催します。投票してくれた子にランダムで印つけて、壇上で手を繋いだりお話したり」


「却下」

 私とシスターの声が同時だった。



「待って、最終的にはBLの素案になってもらう為にパソコン教室で聞き取りをして、安全面を考えてちょっと縛ったりして、安全面では考」


 生徒会に教室から出してもらった。



「次」

「人間釣り」

「却下」


「クイズ春陽台」

「内容によります」

 クイズ研はこの辺りの地理的な歴史やお祭りと春陽台高校の小ネタを挟みつつ、スタンプラリーをもとに様々な教室を巡ってもらって、景品にお菓子をプレゼントする

というだった。


「本当にそれだけなんですね」

「はい

「集まった子供を鑑賞したり」

「しません」

「触ったり」

「しません」

「何かリターンを」

「考えていません」

「中神先生。生徒を信じましょう」

 シスターさんに言われてしまったら何も言えない。



「分かりました。受領印を押します」



 採用されたミスコンは衣装服研究部の和洋服の歴史を感じさせるファッションショーでどの衣装が一番魅力的かを投票で決めるというものだった。


「健全なのは良きことです。それでは予算面では別の会で決めていきましょう。分かっているとは思いますが、過度に不健全な出し物はしませんように」


 不満そうな数人を見たので、何団体か要確認しないといけないのかもしれない。


 図書室にハルカさんは来なくなった。十一月中ごろに文化祭がある。ハルカさんが来なくなってから送迎の連絡はシスターさんにお願いをしている。いくら図書室で仕事をしていても最終下校時刻には迎えが来る。


 シスターさんに図書室のドアを三度叩かれたら帰宅の時間だ。帰りは同じ車になることが多い。



「なぜ私は送り迎えをされているのですか?」


「お嬢様は何を言っていませんでしたか?」


「ええ、何も」


「そういう学校だからです」


「そういうとは」


「市内唯一の女子校で、他の学校は荒れているのに春陽台だけ平和。もし荒れている中学校を卒業した一人が春陽台に行ったら、荒れたままの学校に進んだもう一人はどう思うか」

 どう思うか。そんなの何も思わないだろう。


「それを案じておられるのです。自分のせいで中神先生が自分を恨めしく思う人間に貶められることの無いように、自分が中神先生を苦しめないように」

 車は止まった。屋敷に着いたようだ。


「この屋敷は他から見えにくい構造になっているようです。少し話をしすぎました。明日もよろしくお願いします」


 ガレージでいつものように車を乗り換えた。

 いつものように坂道を下りて、いつものようにドライブスルーでコーヒーとベーグルを買って、いつものように車の中で食べて、いつものように私は自宅に着いた。


 今まで庇護しないといけなくて、守ってあげないといけなくて、高校生らしく生きて欲しい、友達を作って欲しい、社会的に自立をして欲しいと考えていたけど、守られているのは私の方だった。


 図書室に来ないようになっても私はハルカさんに、いやアタルに守られていた。間違えた感情だけど、私はそれが嬉しかった。

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