第21話 平和的仰げば尊し

 変装をして笑って卒業しようという流れがあったのは知っていた。何も言わなかったものとして、責任を問われるとかなり痛い。


「これはなんですか」

 保護者会の代表が教頭先生に食ってかかっている。

 全員ロングスカートメイド服姿で入場したと時、後ろに控えていた学年主任が先頭の生徒をどうにか引っ張り出してしまおうとしていたのを覚えている。



「シャーロット、マイクを」


「イエッサー、サクラコ」

 卒業生の席に座らず、そのサクラコは椅子から立ち上がった。


「私たちはルールに縛られる世界に生きていない。卒業したらすぐに結婚することも、進学が叶わないことも、主婦見習いになることもない。そんな女の子人生を送らない。もう外の世界に行くことははっきりしている。誰に何を言われようとも自分の道は自分で決める。シャーロットあなたへ」


「サクラコありがとう。私は父親にどこかの企業の取引先の四十の親父と結婚させられます。皆さん、分かります? 四十ですよ? 普通断りますよね。ロリコン親父ですよ。私はその貫通済みですが」


 在校生席からざわざわと「私のシャーロットさんが」とか「貫通済みでもいい」という声が上がっている。


 そうかこの女の子は姫だったのか。シャーロットさんがどのような評価を受けているのかその容姿、サバサバした雰囲気からは男の子成分も感じられるので、いまいちイコールしない。



「え、シャーロット。聞いてない」

 サクラコの声がよく響いた。マイクのそばにいるから余計だろう。


「言っていないもん」


「私のこと好きって言ったじゃん」


「確かにサクラコの事は好きだけど」


「じゃ、なんで私以外の男の子とそんなことしたの」

 不穏な空気になってきた。


「おい、お前ら。いい加減にしろ」


「城田先生は黙ってください」


「黙れとはなんだ」


「私たちは私たちの未来の為の話をしています。ここでうやむやになって、三年後の同窓会で会った時に、互いの青春時代ですら話し合えなくなるのです。シャーロットが誰と貫通したのか。私の前で嘘をついたのか。ちゃんとここではっきりさせないといけません」

 鬼気迫るサクラコさんの声色に城田先生はおののいたようだ。



「嘘は、ついていない」


「シャーロット。私はあなたがどんな子とセックスしていてもいいの。でもあの夜、私の前で清い心だって言ったことは嘘だったの?」

 この強い発言が体育館を静まり返えらせている。全員の視線がこの二人に注がれていた。気を削がれた城田先生も二人を見ている。



「仰げば尊しだよ。先生たちに感謝して」


「まさか先生が相手なの?」


「違う! 違うの。本当に違う」


「ならどうして」


「あの夜、いれられるのが怖くて。サクラコの指は太いし、嫌って言ったでしょう」

 覗き見ても太いかどうかは分からない。体躯から見るにそう体の部位が大きそうには見えない。


「家に帰ってから何度もマーカーペンで練習したの。そうしたら、血が痛くて、サクラコに男の子としてないから清くて、でも入れたから貫通はしていて」


「まだ私に入る隙はある?」


「貫通しているよ?」


「いいよ。私にとってシャーロットは何していようが大切な彼女だよ」

 優しく抱きしめたサクラコの肩にシャーロットは顔を押し付けている。


 なんて素晴らしい話だろうか。純愛だ。ちょっとアホかなとは正直思ったけど、二人の未来に栄光あれ。


「サクラコ、縁談は?」


「二人で逃げよう。リムジンは手配している」


「いいの?」


「私はシャーロットがいれば何でもいい。貧乏で窮屈な思いをさせるかもしれないけどいいかな」


「私もサクラコがいたら何でもいい。何だって手伝うよ」


「じゃ、みんな。私たちはここから去るが、いい卒業式にしてくれ」

 サクラコはシャーロットの手を引いて体育館の入り口に去って行った。

 拍手に包まれる体育館にサクラコの両親か、立ち上がろうとしているが、在校生に抑え込まれている。

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