第20話 国内研修旅行
職員室のデスクより、暖かい図書室の方が落ち着く。あっちはあっちで噂話や生徒の情報を知れていいのだが、春の異動で本当に図書館司書教員にされてしまいそうだ。新卒で社会科教員を取ることを事務員さんから聞いた。
「大学を首席で卒業してなんでこんな選択をしたのかここに来るって変わり者だね」
生徒と普段会わないので、事務室は様々な教員のたまり場になりやすい。
噂と生徒の情報は職員室で話すのが一番なのだが、こういうそれ以外の昇進や新卒の情報。どこそこは生徒の悪いことをするたまり場になっている。
そんな情報を手に入れるのは職員室ではどこそこは最近不穏という情報しか得られないので、職員としたらかなり助かる。もちろん生徒も馬鹿ではないのでいたちごっこにはなってしまう。そうしたらまた事務室に職員が行けばいいだけだ。
新卒でこの学校に来るのか。
「中神先生は三年目になりますか」
「入った当時の一年生はこの春で送ります」
「留年もいますけどね」
「本当ですか?」
「さてどうでしょ。年度末なのでかなり忙しい。この辺で」
「すみません」
「またゴールデンウィークにでも来てください。お茶を用意しておきますね」
久しぶりに職員室に行ってみるか。引率の話し合いは空き教室でしているだろう。思った通り職員室にいる職員はほとんどいなかった。
残っているデスクには何も無く、ただあるだけの机と事務椅子。去年まで座っていた常勤職員の証。
「中神先生。ちょっと」
校長先生が手招きしていた。
「今、二年の友崎先生が妊娠なさって社会科空いちゃったの」
「それはおめでたいですね」
「それでね、社会科教員として二年生の研修旅行に行ってくれない?」
海外渡航手当と旅費ははずむから、生徒一人だけファーストクラスってのもね。
「なんでお前がいる」
「友崎先生の代わりよ」
「なんでお前がいる」
「だから」
「なんでファーストクラスにお前がいる」
「声張ったら他の人に迷惑よ」
すごく嫌な顔を窓の向こうでされた。
「生徒一人をファーストクラスに置くには差しさわりがあるって」
「あの校長、首輪をかけやがって」
「それにファーストクラスは大きいわね。こんなでも無ければなかなか体験出来ないものね」
「アタルは見つかったのか」
「アタルはまだだけど、どうかしたの」
「どうかとは」
「聞いてくるなんて珍しい」
「卒業までには分かったらいいな」
「分かったら? あ、ハルカさん。見当ついているわけ?」
「知らん」
「家関係でしょ。川向の取引先とか」
「分からん」
いつか顔の代金を払ってあげなくちゃいけない。私は待って情報を集めるしかない。
「そう言えば梅雨明けに学校説明会で中学に行く機会があるらしいな」
「よく知っているわね」
「そこの中学にアタルとやらの弟や妹がいてもおかしくないわな」
「ハルカさんってたまにはいいこと言うわね」
「ベルトサインがついたぞ」
「ちょっと早すぎない」
「国内フライトはこれくらいだぞ」
ハルカさんはベルトを締めて中窓を閉めた。お弁当食べたかったな。
ベルトをしていれば食べていてもいいだろう。
そう思っていたら下げられてしまった。
大した荷物を持っていないのに荷物を預けて悠々自適にファーストクラス、この女の子はどこの会社令嬢なのだろうか。
研修先ではテーブルマナーの講習会があり、申し訳程度の勉強に温泉を満喫した。観光地を巡る班別行動に目を光らせて何かあった時の為に班ごとに端末を渡した。
何も事件は無くハルカさんは当然のようにファーストクラスで帰った。
「エコノミーやビジネスではケツが痛い」
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