第24話 二年五組の怪
「疲れた顔をしているな。何か分かったのか?」
ハルカさんは心地よい暖房の中、涼しげに言った。
「年度明けの引継ぎ、新しい委員会の調整、顔合わせ。副担任としての仕事。そういう諸々の仕事」
「へっぽこ教員でもそういう仕事はあるのだな」
「は、あったはずなのに他の先生から」
「あー、図書室にいるのか。いいですよ。委員会は他の先生で」
「副担任ですか? いいですよ。あそこの担任をしているだけで十分です」
「ハルカさんは荒神か何かなの?」
「荒神ならどこかで障るかもしれないのぅ」
「全く、学校図書館司書なんて取るんじゃなかった」
「何も分かっていないようだな」
「そうよ。他の先生もこの仕事の大変さを分かっていない。図書室管理費を要求してもいいくらいよ。ま、その代わりの委員会副担任免除ってことね。は! まさかこれは遠回しなクビ宣告。また就職活動は嫌だな」
「ではなく二年五組の事だ」
「ちっちっち。ちゃんと調べたわよ」
数年前に二年五組は存在していた。数年前というのが先生によって異なる。ある先生は五年前と言い、とある先生は七年前と言った。なんだかは故意的にぐらかされている気がしてならない。ただ構成員と設置理由は確かで、編入生と帰国子女の為のクラスだったと。
この二つの構成員の成績を問うたら、あんなにバラバラだったのにみんな嫌な顔をした。ある先生はあまりこの話をしない方がいいと言っていた。
「お前の調べでは数人の生徒が二年五組に所属していて、三年五組は存在していないと?」
「待ってよ。そもそも今は二年五組は存在していないはずよ。数年前に存在したとして過去の話よ」
「
「それが何よ」
「テストに書かれていた名前だ。明日その教師どもに聞くといい。面白い反応を見ることが出来るだろう」
「大体何を考えているか分かったけど、それでもうそうだと言われて、どこで調べたのかと言われたらどうするの? 馬鹿真面目に投書箱に入っていたのって言うの?」
「超常現象を受け入れたのか?」
「まさか、これは新学期早々忙しい中、誰かが仕掛けたいたずらよ。数年前の二年五組の関係者によってね」
「私から答えを言うのは野暮ということか」
「知っているなら教えてくれてもいいじゃない」
「答えにたどりつくのに攻略サイトを見るより、経験した方が面白いこともある」
「誰の名言?」
「使用人の一人に息子がいた奴がいてな。うちの部屋でゲームをして中を荒らした大馬鹿野郎が言っていた」
「なんて名前の子?」
ほんの少しのジョークのつもりだった。
「あたり。あいつはおそらくそういう名前だった。明日聞いてこい」
あたりと言った時にハルカさんの顔に陰が差した。ずいぶん、仲が良かったのかもしれない。あたり。記憶の中の少年であたり。春陽台に行く人間と親しい。
自宅でウンウン考え、ぐっすり寝て、いつも通りの時間に起きた。社会人の体が少し不満である。
出勤して先日の二年五組について聞いた。
二年五組の存在を明らかにした五人の先生にしつこく聞いた。嫌がった一人がなぜそんなことを聞くのかと私に問うた。
「図書室の姫君が気になると」
こういう言い方が適切で通りがよさそうだった。
「あの子も性格が悪い」
「同感です」
「それで私たちに聞いてこいと」
肯定の意を示すと中庭に誘われた。女性の先生だったので、何か噂が立つことは無いだろう。
「どこまで?」
「その数年前に二年五組は存在して、今は二年五組は存在していない」
「二年五組の生徒は野外活動中にバスの事故で亡くなったわ。谷沢高原のバス事故、めったに無いから公立図書館で記事が出るはずよ。もうこの話は誰にもしないでね」
スタスタと先生は去って行った。
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