第23話 栞を使う習慣はない
「入学式」
「行かない」
「三年生代表」
「そんなものは知らない」
入学式三日前の最終打ち合わせに教職員の皆さんは私にハルカさんを召喚させる命を下した。
「来ないと私が困る」
「お前が困ろうとも知ったことではない。私はここを守護する為にこの学校に通っている」
自宅警備員みたいな事を言うなよ。
「なんかさ、お礼出るみたいだよ」
「いらん」
「海外旅行とか」
「あったとしてもチャーターする」
これだから度の越えた金持ちは嫌だ。
「そう言えば、うちから通っているよな。この学校に」
数か月前、突如ハルカさんにうちから通えと言われて使用人さんの言われたとおりに同じ道を通って、車で送迎をしてもらっている。なぜかハルカさんと一緒ではない。
「あれ何か意味あるの?」
「政敵が私の命を狙っていてな。私の顔を知らんらしいが、図書室にいることだけはつかんでいるようだ」
「ちょっとアンタ、それって身代わり」
「かもしれない。日本語は難しい。私くらいの富豪になるとそういう噂は絶えない」
「ハルカさんのご両親がお金持ちなだけよ」
「私の株で会社が盛りなおした」
「ほんと?」
「かもしれない。日本語は難しい」
からかわれているようだ。本当の理由を言う気は無いらしい。
「久しぶりに投書があるらしい」
「大変ね」
「今、私は太宰の全集を読んでいる」
「それは知っているわよ。えらく分厚いわね」
「私は太宰の全集を読んでいる。それくらい察しろ」
「あのね。普通は栞を挟んで取りに行くのよ」
「全集に栞を挟むのは焼き立てのステーキを置いて、便秘と戦いに行くようなものだ」
「その例えはかなりナンセンスだと思うし、ステーキと全集は違うと思うわよ」
「取りに行け」
「嫌よ」
「なぜだ」
「生徒に命令されたこと、寒い廊下に出ないといけないこと、私にプラス要素がないこと」
「命令される身分なこと、それくらい我慢しろ私は冷やすと面倒なこと、私がここにいる条件なこと」
「ハルカさんって、本当はここの主ではないの?」
ハルカさんの全集をめくる手が止まった。
「先代から受け継いだ」
こんな面倒な後輩を育成する先達がいたのか。よし、分かった。今日から寝るときはそいつに念を送ろう。
「何を条件に」
「ここに来る迷い人の保護だ」
「面倒な依頼者ね」
一番強烈なのは靴下よね。
「なぜ行かない」
「嫌よ」
「じゃんけん」
ちょきを出した自分を呪いたい。行ってしまう自分の勤勉さも呪うことにする。
中はガサガサと音がした。年度終わり前から放置していたから、結構溜まっているのか。
「持って来たわよ」
「その中から私を慕っているという依頼はこのゴミ箱にそれ以外はカウンターに置け」
「あのね。そういう時は置いてくださいが最低ラインよ」
「そんな御託はいい。さっさと出せ」
中をガサガサ探ると三枚に一枚は驚くことに慕っているという恋文で、一枚は依頼で、一枚はテスト用紙の裏面に白紙だった。
テストは軒並み赤点だった。大方、学校で処分は出来ないし、家に帰ったら怒られる。ちょうどいいと思ってここにいれたのだろう。悪辣なお姫様はこのテスト用紙を明るいところに出すだろう。
残念だった。ごめんなさい
「可哀そうだから捨てるわよ」
「恋文に可哀そうも何もないと思うが」
「赤点よ。シュレッダー手に入ったのでしょう?」
ハルカさんに赤点を取り上げられた。
「三点。これはかなりアホだな、ふむふむ」
「赤点に可哀そうもあるかっていう割にはしっかり見るのね」
ハルカさんは全集を閉じてカウンターの外にいる私の目の前に赤点を突き出した。
「何か思うところは?」
「ゼロ点よりはマシよ。努力が見えるわ」
「何年何組だ」
「二年五組」
言いたいことが分かった。二年は四組しかない。
「春先に心霊とは面白い」
他のテストも二年五組だった。
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