第17話 キャンドルの区切り方
クリスマスが近づくと、今年の学校は至るところにキャンドルの準備が始まる。今年の聖歌隊長の三年生が一度学校中にキャンドルを置いて最後を迎えたいと言ったらしい。
安全面を考えて、キャンドルはつけずにプレゼント交換のような方式にするらしい。何かを信じて聖歌隊を極めた聖歌隊長には悪いが、女子校とは聖歌隊長みたいな女の子が珍しいのだ。
「先日、チクビームと書かれたキャンドルが見つかりました」
三年生の学年集会。美しく装飾が施されたのに、書かれた文字がチクビームだったらしい。
誰がやったかみんな心当たりはあるけど、自然にバレた方が面白い。
思っていないのはチクチク追及する学年主任と書いた本人だ。
「山野さん。あなたですか?」
「先生は私を身に覚えのない罪で裁くのですか」
「あなたの清掃活動は称えられるものです。少し動きが怪しかったので聞いたまでです。申し訳ございません」
「いいですよ先生、チクビームは許せませんね」
みんなクスクス笑う。
「何がおかしいのですか。田辺さん」
「先生、チクビームは果たしてはしたない言葉でしょうか」
「はしたないに決まっています」
「なぜですか? ビームの何がはしたないのですか?」
「あなたの募金活動は称えられるものです。追及はこれ以上しません」
「ありがとうございます。先生」
「あなたですよね園田さん」
「先生、なんで私がやったと決めつけるのですか。みんなだって分かっているはずです。第一、田辺は言ったはずです。チクビーイ・ムでは無く、チク。ん? なんだっけ、チクビじゃん。もう何で混乱させること言うのさ」
「勤労奉仕。一週間です」
「末にイチャイチャする為に出来るだけ贅肉を落とす奉仕にしてください」
「暖房の下で図書委員と並んで書架整理です。お願いしますね。中神先生」
少し後の図書室。
「また厄介事を持ち込みやがって聞いていない」
「私も聞いたの今日だもん」
「シャツ全部脱いでいい? ブラまで外さないからさ。外していいなら、裸になるけど」
「大人しく書架に本を直してくれ」
「それ終わったらお茶にしようよ。後でジュース買ってくるね」
私は目頭を押さえた。
「先生、何どうした?」
「まさかお茶を買いに行ってくれる生徒がいるなんて」
「ハルカさん、あんまり先生いじめないであげてね」
「教師は自己犠牲によって成り立っているって知らない?」
「私、ミルクティーがいい」
余計な事を言いやがってと、ハルカさんを見たが顔をそらされた。
「なんで今年に限ってキャンドルなんだろ」
「何か天啓を得たらしいよ。蝋を溶かして何をするつもりなのかね」
「それが本当ならろくでもない天啓よ」
ハルカさんの言う通りである。
「それでどこまで脱いでいい?」
「シャツは着てなさい。飛び込みで男性教員が相談しにくくなる」
小さい声でハルカさんに訊ねた。
「今日、来る予定あるの?」
「あるにはある」
「私、思うんだけどそれってろくでもない相談じゃない?」
「いや、案外真面目だ」
「ねぇ、オレンジジュースとミルクティーどっちがいい」
ハルカさんの動きが早かった。
「活きがいいね。オレンジか、残念。なかちゃんはミルクティーね。本当に奴隷みたいだね」
面はいいのに余計な一言が傷のタイプか。
「彼氏はいるの?」
「それが親父に会わせたらみんないなくなるの」
「お父さんが怖い口か?」
「むしろ良心的でさ、昭和的下ネタを話すのよ。いつも笑っているの私だけでさ」
「血は恐ろしい」
つい呟いてしまった。
「ハルカさんも聞く?」
「いらん」
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