第4話 職員室人間関係計り合い

 私はため息をついた。この聞かん坊の世話をするのか。

「私は先生、分かる? あなたに何かあったら私の首がね、飛ぶの」


「何も問題はない。私はこれまでずっとこの方法でやってきた。今日も同じ方法で帰るから、好きにしてくれ。あと上の名前は好きじゃ無い。ハルカさんと呼べ」


「学校図書館司書なので、その要求には従うことは出来ません。鍵は渡さなくていいので、図書室から出てください」

 ハルカさんは渋々片付けを始めた。



「いつも通りでいいのに何をそんなに焦るのだ」


「最終下校時刻に間に合わないと面倒でしょ」


「そう大人が勝手に解釈をするから、私の趣味の時間は減っていくのだ」


「いつか授業に」

 こちらを見た静かで反抗的で厳しくきれいな瞳。



「高二の範囲は頭に入っている」

 春陽台で高二ということは高三の範囲が入っているという意味だ。


「何が不満なのだ。勉強はしている。余暇だってもらえてもいいはずだ」


「不満は無いけど、誰かとお話をして得る物も多いと思うよ」

 職員室に鍵を直しに行った。



「あら今日は早いのね」


「最終下校時刻ですから」


「知らないのね。あの子は二十時になるとお迎えが来るの。あと二時間どうしましょう」

 私学に寄付金を出す親なのだからそれはあり得る話だ。でもそこまで多くないはずだろう。なぜこの二年間、私は知らなかったのだろうか。



「だから勝手な解釈は迷惑だと」

 ちゃんと確認しておけばよかったのか。それとも言ってくれたらとも思ったが、学習した今度から気をつけよう。


「最近はどうなの。ハルカちゃん」


「問うてくるものが多い」


「池淵先生の事でしょ。聞けばいいじゃない」


「私はあの男が嫌いだ」

 分かる。私も不倫する奴は嫌い。



「じゃ、中神先生に聞いてもらいましょう」

 見てるよ。吉永先生めちゃくちゃ見てる。


「アンタ、何が好きなの」


「奥さんのガトーショコラっすね」

 吉永先生がめちゃくちゃ見てる。このガキの前から早く消えたい。


「もう奥さんとラブラブなんですね」


「もう勘弁してくださいよ。吉永先生」

 生徒たちは「もうフッチーしっかりしてよ。本当に嫁が好きなのね」とか言われているけど、気づいているだろうな。

 男の子はアホだけど、女の子はわきまえる。吉永先生は独身男性教員のアイドルで結婚関係の話ははぐらかしている。吉永先生からしたら、分かっていてもいいが触れるなよ。そういう空気を察してか、誰も不倫には突っ込まない。


 人気のある若い男性教員に対する態度で接するし、池淵はアホなので本気にするし、他の男性教員は池淵先生に少し嫉妬するし、教頭先生はそれを知っていてこねくり回すし、もうひどい職員室だ。私は池淵と同期なので、二年間ずっとこれだ。



「だそうよ。ハルカちゃん」


「信用性に欠ける」


「そうかしら、明日からガトーショコラブームかしら」

 この戦いは池淵先生か吉永先生が退職するまで続くのだろう。そのうち若くてカッコいい先生入って来ないかな。

 きっとその先生を吉永先生が食うんだろうな。旦那さんこの学校の元教員らしいし、噂では寝取ったらしいし、恐ろしいな。



「おい池淵。お前、吉永先生に何を作ってもらいたい」


「ちょ」

 良くない、あまりにも直接的だ。


「え、吉永先生? 先生は普段何を作られますか?」


「先週はスパイスからバターチキンカレーを作りましたよ」


「パセリを入れるかどうかで。そうか、バターチキンカレーだったら食べてみたいなー」

 破局は近いとみた。

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