第3話 図書室の女王様

「それでまた授業に出ろって」


「そこまでは言われていない」


「どうせ厄介者がいるから監視しろだろ」


「大きく否定はしない。何、読んでるの?」

 多くの紙片がその子の前にあった。


「触るな」

 手を払われた、その手の強さに少し驚いた。拾われたばかりの猫だなこれは、まずはミルクを与えるところかしら。

 この子はカウンターの中に収まっている。私は外から声をかけたわけだけど、まずは書類仕事を図書室でして、段々距離を詰めていくか。


 ここで自己紹介はこの子にとって荷が重いだろう。昼一番の授業があったので、私は荷物をまとめて図書室を出た。授業を終えて職員室に帰った。教頭先生に手招きをされた。



「どうでした?」


「昔、飼った猫を思い出しました」


「ミルクをあげるとスースー?」


「少しでも触ると威嚇してきます」


「自己紹介はまだ?」


「そんなことしようものなら私は図書室に近づけなくなります」


「大人的な話をしましょう」

 教頭先生は彼女の親が多大なる寄付をしていること、地頭はいいので授業さえ受けてくれたら難関大学に合格するだろうことを述べた。



「あと、娘に社交性と友達を欲しているけど、どうかしら?」


「飼い猫を飼いならしている場合とそうでない場合によります。保健室登校にならなかったんですか?」


「養護教諭如きが私の能力を下に見てって」

 大きく誤解をしている。あの子、この学校で生きづらいだろうな。


「自主退学は?」


「勧められるはずないわよ」


「じゃ、どうするのが」


「あなたならすり寄ると思うけど」


「なんですか? その根拠のない自信」

 昔いたな、同じ吹奏楽部のトランペットが下手くそなのに私は上手いと思った根拠のない自信を持つ奴。タチが悪いのはそれが二人いたことだ。



「そういうことでよろしくね。中神学校図書館司書さん」

 求められていなくても図書室には行くことになる。採点の仕事が残っていて、懇談の日程も組まないといけない。持って帰るより仕事をしている大義名分が貰えるのがありがたい。


 カウンターを除くとあの子がスースー眠っていた。こうして見ると年相応に見えない。まだ中学生といっても通るだろう。


 寝ていてくれたら好き放題済ますことが出来る。お互い余計な気遣いをせずにしたいことをしよう。


 十八時になると最終下校時刻がやってくる。部活動に力を入れていない春陽台は部活も最終下校時刻に間に合うように終わる。自習が許されるのは二十時までで、これは自習室か職員室にいないといけない。


 池淵先生は今日も職員室で大人気で、焦らされた吉永先生と今夜盛りあがるかもしれない。


 それは置いといてこの子を起こしてスクールバスに乗せないといけない。丘の上にある春陽台はこのバスに間に合わないと自習生徒のバスまで待たされる。



「起きて、ねぇ、その」

 数学と書かれたノートに中ハルカと書かれていた。


なかさん、起きて。バス行っちゃうから、起きて」

 ふぇ。という効果音が聞こえそうな寝起きだった。途端に覚醒して距離を取った。



「お前、何をした!」


「バス行っちゃうから起こした」


「そうか、そうであったか。ご苦労、帰れ」


「うん、私も仕事終わったから帰るけど、鍵閉めないと」


「鍵なら持っておる。お前は鍵を職員室に戻して帰れ」


「歳上のほぼ初対面の人間にお前って呼ばれる筋合い無いけど」


「私にとって信用に値しない人間はお前で十分だ。嫌なら来なければいい」


「分かったわよ。バス行くからさっさと帰ってね」


「お前何をしている。監視か? そこまでして何をしたい」

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