第27話 学級通信を探す
「あったか?」
土曜日、ほこり臭い倉庫をなぜ探す必要があるのか分からない。どうせ質の悪いいたずらで、来月くらいには忘れられてしまうだけの話だろう。
確かに人は死んでいて、後味は悪いが、当時の担任には言及を避けてくれと言われている。そんな話を今になって蒸し返して何が楽しいのか。
汚れてもいい服装で来いと言われた時点でい嫌な予感を覚えた。倉庫漁りに何の成果があるってのか。おしとやかハルカさんにお伺いを立てたい。
「松下アンジェリカは片腕が無かった。池田満守はパイロットになりたいという希望が断たれる色盲という壁があった」
「誰から聞いたの?」
「学級通信と写真を撮る機会はあるだろう」
「それだけで分からないわよ。香住先生に聞いたの?」
「香住は一度も学級通信を書いていない。誰かが変わりばんこに書いていた。その学級通信を探している」
「どんな色でどういう形状よ」
「分からん」
分からん物を探させて、何が今日は暑いわねよ。こっちは汗をかいて課外活動しているのよ。
「そういうのって図書室には置いていないの?」
「学校の図書室には置いていない」
引っかかるな。学校の図書室には置いていない。でも二年五組の家族はどうか。
「遠縁」
ハルカさんの方からヒャっと悲鳴が聞こえた。思わず漏れ出たようだ。
「いるのね。遠縁に関係者」
「貸し出すには代償を払わねばならん。悪いがお前に身代わりになってもらう」
「そうはいかないわよ。こんなにほこりまみれにされて黙ってはいられないわ」
「もういい。だから気が進まない」
「最初から止めておけばいいのに、運転手さんは送迎でこの汚れ具合を見るわね。使用人のシスターさんもこの汚れた服装を見て疑問を感じるはずよ。私、正直者だからペラペラしゃべるわよ」
「そのお着換えとかは」
「汚れた服装で来いとは言われたけど、着替えを持ってこいとは言われなかったわ」
ハルカさんは倉庫の入り口でうんうんうなっている。
「あくどい詮索を止めるというなら、私は何も言わずに家に帰るわ」
「背に腹は代えられぬ。今から電話をして、ちょうどサイズが合う服を用意させる。私を出し抜いたことを後悔するなよ」
この後、倉庫の鍵の行方を聞くと、図書室にあると言われて一人図書室に帰った。カウンターに鍵はあり、土曜自習の生徒の為に鍵を開けておくことにした。鍵の横に依頼書と書かれた紙があった。
「空の罪を暴いてください」
空の罪とは何だろうか。どうせ投書を中に入れ忘れたのだろう。こういうプライバシーは守ってやらないと信用を失うぞ。そう思って、資料でぐちゃぐちゃな机の隅に畳んでおいた。
学校の前に降りると車が二台待っていた。
「なんで二台もいるの?」
「遅い、荷物用だ」
「荷物ってそんな紙束無かったでしょう」
「そっちの車だ」
「なにが?」
「その荷物用の車に乗れ、ちょうどいい、新人の運転用に乗れ。とって一か月らしいからさぞかし楽しいドライブになるだろう。危うげな運転に肝を冷やすといい。なに、いい気分転換になるだろう」
運転は丁寧で酔うことは無かった。飛び出してきた車にはすぐにブレーキをかけ、こちらの身を案じてくれた。安全確認もしっかりしてくれた。ハルカさんの家に着くととても悔しそうな顔をしていた。大方、あの車にドライブレコーダーでも載っていたのだろう。
「着替える服は無いと言ったな。使用人に案内させる。風呂に入って用意した衣服に着替えろ。クレームは一切聞かん」
洗剤の場所を教えられ、何を使ってもいいと言われてもよく分からないが広い浴室だなと思った。さすが、大金持ち。烏の行水でさっさと上がって、着替えた服が。
「ハルカさん。私、こういう服着てみたかったの」
自分のお金では買えないロリータ。
「よ、良かったな。こちらも希望に沿えてうれしい」
フリルついてるし、靴もそろってすごくいい。
「ではお嬢様。行きましょう」
「釈然としない」
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