第26話 エピソード1 閑話

「アン。次の野外活動どっする?」

 イクはコーヒーを吸いながら誰かに問いかけた。


「行く気あるの?」

 イクはいつもアンに主導権握らせに行く。イクはアンの裏で全部を操作するために動いているのだ。そしていつの間にかイクが主導権を握る。


「イク。あなたに裏やらせるくらいなら私がリーダーをするわ」


「がり勉マモに何が出来るのかな? 万年赤点のマモに」


「ジェシカも何か言ってよ」


「私は何もないよ。今日もこれからもずっと何もない」


「ミウもさ。どこでもいっしょ? どうせ話し合いの場に香住は来ないし、どうせ野外活動もあいつ来ないよ」


「無活力な私に聞く?」


「香住五群って迷惑な呼び名よね。アイツは何もしないで五組の天使。私たちはどうやっても日本語のテストでは赤点ばっか。親が高校を卒業させてくれるけど、能力皆無なお嬢様の誕生。あーあ、生きていくの辛いなー」


「自殺するの?」


「マモ、そんな怒らなでよ。ジェシカどう思う?」

 そうイクは言って、マモは怒る。


「未来は来ないかもしれない」

 ジェシカがそういうとアンは慌てて、ミウは眠そう。そんな五群に明るい未来の展望は無いし、ここの学校に買い殺されて念も残らず高校生活は終わる。


「私はね。思うの。マモがどれほど徹夜で勉強しても、アンがどれほど会話教室に行っても、ミウはやる気すらないし、ジェシカは電波だし、私はどうせ家の都合で好きでもない男とセックスを強要されるわ。私は可愛いからね」


「あなたの推察と自画自賛力には感動を覚えるわ」


「だからね。思うの、私たちは二年五組として死ぬのはどうかな」


「死ははかなく一瞬」

 ジェシカは今日配られた保護者懇談会のプリントを折り畳んだ。

 イクはいつも短絡的でそして天才だった。色々いちゃもんをつけても結局正解になる。それが最初から決められていたように、だがセンセーショナルな発言にマモは反発した。


「私には未来の展望はあるわよ。私はパイロットになるの」


「色盲なのに?」


「私はトリマーに」


「片腕がないのに」


「なれるわよ」


「せめて残った左腕でこんにちはおはようございますが書けてから言って欲しいわ。何年目? 日本」


「私はパス」


「ミウは漫画とアニメがあれば生きていけるわよね」


「私は一人で死ぬの。誰かのトピックになりたくない」


「ならないわよ。日本の一地方の片隅の女子校でで子供が亡くなっても話題になって一か月よ。ジェシカも五体不満足よ。車いすに座っているだけで奇跡だわ。これはもうバッドエンドがハッピーエンドになるの。将来性のあると世間から思われた将来性の無い私たちが出来る最後の反抗よ」

 結局いいと思われる絶対的な答えだった。みんなは分かっていた。イクがやると決めたら、それが私たちの行動理由になると。


「痛いのは嫌だな」

 アンは下を向いてつぶやいた。


「死ぬのだから痛いよ」

 アンは顔を上げてイクを見た。悲し気に染まったアンの顔を見ていられなかった。


「なに? みんな安楽死希望ンヌ? 困ったね。だって死ぬなら痛いに越したことないよ。ちゃんと痛い思いをしないと反抗にならないからね」


「それは誰も知らないって」

 マモは唖然とした表情でなんとか言おうとしたが、言葉が続かなかった。


「解剖されちゃうよー。他の人は片田舎の女子校に通う女の子が死んだで済むけど、両親親族はどうかな」


「あなたの反抗って」


「私たちを好きなようにもてあそんだ家に対する反抗に決まっているじゃん。あのさ、こんな守られたところで死ぬのってもう野外活動しかないよ。来年にはみんな本格的に勉強するし、外に出る権利は今しか無いの。分からない? 私たちであるうちに決行しようよ」


「どうするのよ」


「野外活動の移動時間にバスをチャーターする。出来れば欠陥品だらけのバスがいい」


「でも野外活動のバスなんてみんなちゃんと整備されていて」


「私たちは暇でやる気のない教員の監視下で生活しているのさ。だったらペイントで塗ればいいのよ。それならごまかせるよ」


「そんなのすぐに」

 イクは恐ろしく妖艶な笑顔でこう言った。


「家のグループ企業の廃車だったらどう?」

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