第9話 訣・別・拒・絶



 取り敢えず、今回の邂逅によって判明した事象について、今後の対策も兼ねて軽く記録しておこうと思う。

 それすなわち……例の『魔法少女』に絡まれた場合、かなりの高確率で『大鎧フルプレート』の転送を阻害されてしまうということだ。



 例えるならば、インターネットやらスマホやらでお馴染みのデータ通信。

 ここで大鎧フルプレートとは『色々と優れた機能を持ったプログラム』であり、結果としてファイルサイズは膨大なものとなり、劣悪な通信環境下となれば転送に支障をきたす。物凄く重いわけだな。


 その反面、地表探索が主目的の機体……不本意ながら【イノセント・アルファ】と呼ばれていたりする少女型の身体は、比較的出力が低い代わりにファイルサイズのほうも軽量。

 加えて、元々の目的からして通信能力は優れており、劣悪な通信環境……今回の事例で言うところの『謎の力場』に阻まれようと、被転送による自身の離脱は勿論、任意の物体を転送ことも可能。



 今後も魔法少女達と接触することが考えられるので、早期に打開策を確立できたのは幸いだった。


 ……というわけで、収穫を胸に帰還したいところなのだが。





「あのっ! 【アルファ】ちゃん……ですよね!? はじめまして! 助けてくれて、ありがとうございます!」


「……先程は……ご協力、感謝します。……助かりました」




 はつらつとした笑顔を向けてくる【神兵】と、穏やかな表情を浮かべる【星蠍】の魔法少女。

 どうやら我々の三文芝居はお気に召して頂けたようで、彼女達の中では『光の魔法で大鎧フルプレートを消し飛ばし、窮地を救ってくれた』イメージで定着したようだ。


 想像以上のチョロさに色々と不安になるが……まぁ、コレくらいの年頃なら致し方無いことだろう。素直なのは良いことだ。



 とにかく、問題はここからだ。

 話し掛けられたということは当然、私の反応を求められているわけで……かといって下手に距離を縮めると、厄介極まりない『保護』の網に絡め取られる恐れがある。


 ……年端も行かぬ子供に戦う力を与え、化物バケモノ対策の尖兵に仕立て上げるような組織に、だ。冗談じゃない。


 彼女達の境遇には少なからず同情するし、そもそも私とてまだ人類に愛想を尽かしては居ない。彼女達のことも、一人の大人として可能な限り守ってやりたいとは思うのだが。

 しかしその一方で、安全地帯からアレコレ指示を出すことしかしない、お役所仕事のお偉方に花を持たせるだなんて……全くもって御免ごめんこうむる。


 私が彼女達と、ひいては一方的に『新機軸の魔法少女である』などと吹聴してのけた組織とお近付きになれば。

 既に勝手をされた経験からして……奴らは更に調子に乗るに決まっている。



 ……いや、そもそもの話。

 周りから『魔法少女』などと持て囃された彼女達が戦っていること自体、とてもじゃないが気に食わないのだ。





「…………助かった、と言ったか」


「えっ……? う、うん」


「苦戦していた、ということか? アレ相手に」


「っ、…………手を焼いてたのは、事実です。あんな魔物マモノは……初めて、でした」


「私もです。輝神弓……【アンタレス】で傷一つ付かないなんて……こんなの、今までありませんでした」


「…………そうか」




 自分達では手も足も出なかったと。あのまま戦いを続けていたところで、勝機は無かったのだと。

 私との邂逅を『心強い味方と出会えた』と、純粋に喜ばしいと思い込んでいる彼女達は、半ば自嘲混じりの所感を述べる。


 あからさまに安心した声色。そこから転じる『良いこと思いついた』と言わんばかりの表情。

 その次に吐かれる言葉は……私の予想を裏切ってくれることは無い。




「でも! アルファちゃんが力を貸してくれるなら、私達も心強いです! 司令官とか……他の皆さんにもご紹介したいので、一緒に来てくれますか?」



 にこにこと。年頃の少女らしい笑みを浮かべ。

 私のことを『心強い味方』であると何一つ疑うことなく……そんなの提案を、彼女は紡ぐ。


 然して……それに対する返答は、勿論。




「――――お断りだ」



「………………えっ?」「……なん、っ」




 翳りのない笑顔に影を落とすのは、決して心地良いものではない。

 私の返答を聞き、その意味を認識し、驚愕とともに歪められる表情など……見ていて楽しいものではない。


 ……だが、それでも。部外者であり彼女たちの庇護を受けない私は、敢えて言っておくべきだろう。

 止むに止まれぬ事情があったとて、彼女達がここへ至るには様々な要因があったとて、こうして危険を冒し戦っていること。……それが『日常』であって良いはずが無いのだと。




「私は…………君達がこうして、アレと戦っていること自体、気に食わない」


「……っ!?」「な……ッ!」


「火遊びは程々にして……叶うのなら、早々に引退したほうが身のためだ。アレの相手は、子どもには少々手に余る」


「そんなこと……! 私だって! これまでたくさん倒してきたし! 大丈夫、私達けっこう強いんだから!」


「先の大鎧には手も足も出なかったと、君達自身が言っていただろう」


「っ、…………あのまま、攻めてれば」


「攻めていても、防御を抜けない時点で勝ち目は無い。……君達のような子どもが、無駄な危険を冒す必要は無い。私に任せておけば良い」


「でも! そんな、アルファちゃん一人に戦わせるなんて……!」


「…………考えてみろ、私よりもの手助けなんて……要るわけ無いだろうが」


「「…………ッ!」」



 幼さを残す少女の顔が、憎々しげなものへと変わる。……まぁ、これは間違いなく嫌われただろうな。

 そうなるように仕向けたのは私自身だし、何の後悔も在りはしないが、とはいえやはり気持ちの良いものではない。


 だが……これだけ刺々しく突き放しておけば、少なくともこの二人は『保護』だの何だの考えることも無いだろう。



 魔物マモノの駆除には、協力してやる。

 だが、お前達と馴れ合うつもりは無い。

 邪魔はしないから、せいぜい邪魔をするな。


 私からの返信を受け取った彼女らの上役が、どんな行動に移るのかは解らないが……とりあえず私のスタンスは、ハッキリと提示することが出来た。



 後はこちらで、勝手にやらせてもらおうじゃないか。



(……スー、捉えているな。強制転送)


『了解。艦長ニグならびに個体名【イノセント・アルファ】強制転送を開始します』


「……じゃあな。出来れば二度と会いたくない」


「ッ!!」「待っ――」




 尚も言葉を紡ごうとする二人を遥か眼下に、一瞬で高度3万メートルの揚星艇へと帰還を果たす。


 母艦へと転送した『大鎧フルプレート』は背面装甲と操縦筒まわりの補修中とのことなので、暫くはで活動するほか無いだろう。



 ……どうか、願わくは。


 魔法少女……特にあの二人と遭遇することが、金輪際ありませんように。



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