第14話 白・銀・光・臨



 我々の用いる転送機能は、出現時と離脱時どちらにおいても、そこそこの光を発してしまう。

 私が転送して行った、あるいは転送されて来たということは、傍から見れば一目瞭然というわけなのだ。


 非常に高い利便性を誇る転送機能ではあるのだが……こういったデメリットもあるわけで、潜入用途なんかには全く向いていない。どう足掻いても周囲の注目を浴びてしまうわけだ。



 ましてや、最高潮に気を張っているであろう戦闘中である。私の出現が勘付かれない理由は、どこを探しても見つかるまい。




「……っ、……指揮官コマンダー、実働二課【神兵パーシアス】……【イノセント・アルファ】を、視認しました」



 ……まぁ、そういう顔にもなるだろう。

 私以上に苦々しげな表情を浮かべ、【神兵ペルセウス】の魔法少女は『部外者アルファ出現』の報告を上げる。

 ぐるり視線を巡らせてみれば……彼女と行動を共にしていた【星蠍スコルピオ】もまた同様、睨むような目付きで私を一瞥すると、すぐに異形の魔物マモノへと向き直る。


 長大な弓型武装である【アンタレス】による、嵐のような連続射撃。それは巨大な亀の如き魔物マモノへと直撃するも、その表面組織には殆ど被害を与えられていない。

 同様に――私にとっては初見となる――燃え盛る炎を従えた魔法少女が杖を振るい、凝縮された劫火の一撃……いや、四撃を叩き込む。

 立て続けに放たれた炎の魔法は、確かに表面組織を一時的にき切るに至ったものの……赤黒いモヤが傷口に集ったかと思えば、ものの数秒で組織を再生してしまった。


 後衛担当の2名に加え、近距離で苛烈な攻撃を加えている2名の存在を加味しても尚、あの巨大な異形のカメを削るに至っていない。

 ……報告にあった通り、なかなかの耐久力と再生力のようだ。少なくとも『魔法少女のチカラ』に対しては、その守りは盤石と言ってしまっても差し支え無いだろう。




「…………っ、……【アルファ】と協力して、って……!」


「勝手なことを……! 簡単に言ってくれちゃって!」


「…………協力を取付けるって、そんな無理難題なん? 現に助けに来てくれとるし、手伝うてくれるなら万々歳やろ」


「ならアナタが行って下さいよ、【麗女カシオペイア】。私達はあの子に嫌われてますので」


「?? え、そうなん? ちょぉー何やらかしたんジブンらホンマ……」



 自覚している気まずさから、私が一旦は静観の立場を示している間に……聞き耳を立てていた限りだが、恐らくは彼女達の司令官コマンダーから『勝手な命令』とやらが下されたらしい。

 一言二言、軽い言い争いを経たかと思えば、火焔の魔法を操っていた魔法少女が攻撃の手を止め、こちらへ向かって軽々と跳んで来る。


 その身に纏う洋紅色の魔力光と、神兵パーシアスが言い放った【麗女カシオペイア】という呼称。

 それらの情報と、私の記憶領域内に蓄えられた前情報機密情報ぶっこ抜きファイルから、眼前の魔法少女が【カシオペイア・ケルメイン】であるとの結論を下す。


 ……冠する権能の銘、に選ばれたという事実からして、かなりの実力者なのだろう。加えて参戦している神兵パーシアス星蠍スコルピウスとて、上から数えたほうが早い筈だ。

 そんな魔法少女達の猛攻をもってして尚、攻めきれていないとは……あの鈍亀は果たして、どういう造りをしているのだ。




「はじめまして、やんな。白銀シロガネの【イノセント・アルファ】ちゃん。うちは」


「【カシオペイア・ケルメイン】……で、相違無いな。用件を聞こうか」



 いや、何だよ『シロガネの』って。……いや聞くまでもなく理解しているが。私の、つまりか。

 装いがだから仕方無いとはいえ、よくもまぁ『イノセント』だの『シロガネ』だのと好き勝手に呼んでくれるものだ。


 ……あー、まぁ……私が何も名乗ってないからか。……じゃあ仕方無いか。



「おぉー、うちのこと知っとってくれたん? 嬉しいわぁー! ……んでな、まぁ現状がコレやし、用件いうかもぉ『他にある?』って感じなんやけども……」


「…………明確に言ってくれ。仮に後になって『横取りされた』だの何だの掘り返されるのは、私としても不愉快だ」


「あー、うー、ごーめんて……あの子らと何かあったみたいやけど、とりあえずウチのにおいて『お願い』や。あの亀さん倒すの、手伝ってくれん?」


「解った。良いだろう」


「え、ほんま? ええの?」


「…………? アナタが頼んだのだろう、【カシオペイア・ケルメイン】。アナタがたは確かに攻め手に欠けているようだが、かといって危機的状況という訳でも無いと感じた。勝てる見込みの戦いで、余計な茶々を入れられるのは鬱陶しいことだろう。……よって、介入すべきかせざるべきかの判断保留中だったワケだが」



 閉鎖された廃空港の滑走路区画……幸い魔物マモノの周囲は充分な空間が確保されているが、一方で上空には――武装・非武装問わず――それなりの数の回転翼機ヘリコプターが飛び回り、またそれ以上の無人機ドローンが状況を注視している様子。それらに被害を出し、後々騒がれるのも面倒である。

 よって、少なくとも【高集束光子熱閃砲フォトンリーマー】の発砲は謹むべきだろう。他にも色々と行動に制限が生じるだろうが……何も問題は無い。



「…………当事者から直接『要請』があったのなら、何も問題は無いだろう。ヘタな考えを起こされる前に……」



 そう、魔物マモノなど……私にとっては、何の問題にも成り得ない。

 愛用の『それっぽく見える』長槍を振るい、構え、例の二人神兵と星蠍にも聞こえるように大見得を切る。




「不肖、白銀シロガネの【イノセント・アルファ】。……せいぜい踊ってやる。などと思い上がるなよ」



「やったー! よろしうな、アルファちゃん!」


(やりづれェ……!!)




 踊りに誘うには上からではなく、かしずき下から手を取るものだ。

 自分勝手かつ一方的に『誘って保護してやる』などと持ち掛けられたところで、一体誰がなびくというのか。

 ……まぁ、私は仮に下手したてに誘われたところで受け容れるつもりなんざ無いのだが、ソレはソレだ。



 魔法少女の実力者が4名と、銃を携えた軍勢と……無人機ドローン越しに眺めている数多の人々。


 これだけ多くの観客が見ているのなら、私の意思を表するにも充分だろう。



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