第15話 全・開・後・悔
……突然だが、まずは白状しておこう。
私は今とても、非常に、極めて強く、ただただ深い後悔に苛まれている。
ウン十年ぶりの裁縫に集中するためとはいえ、スーからの報告を着拒していたこと、ではない。
先方から頼まれたからとはいえ、魔法少女達と肩を並べて戦うことを選んでしまったこと……でも、ない。
理不尽じみた耐久力と耐魔法能力と、トドメとばかりに自己再生能力も備えた鈍亀型の
私が今、こうして『それっぽい』長槍を振るいながら、バカみたいに太い後ろ足に切疵を負わせながら、こうして後悔に苛まれているのは。
身体を動かす度に股関節付近から感じる、えもしれぬ
肌にじっとりとしつこく張り付くような、鳥肌が立つ
それが肌と擦れるときに生じる、水っぽくて気色悪い
転送されてからずーっと、平静を掻き乱され続けているからに他ならない……!
(失敗した!! 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した、ッ!!!)
苛立ち紛れにかぶりを振り、右手に握る長槍を大きく突き出す。思い描いていたよりは浅かったが、刃先は確かに鈍亀の脇腹へと突き刺さる。
(何だよコレもー最悪……! 最ッッ悪!! なんかヒヤッてしてるしピトッとしてるしヌメッてしてるし!!)
小柄な身体を旋回させるよう、勢いを付けて長槍を引き抜く。無手の左手を貫手の形に揃え、開いた疵口が塞がる前に叩き込む。
(……ッてか
見た目は幼子の手のひらとて、内部骨格に地球外金属をふんだんに用いた私の貫手は、レンガ壁……はちょっと難しいかもしれないが、瓦くらいならブチ抜く威力を発揮する。多分。
表皮をブチ破られ、瓦なんぞよりも
加えて……まぁ当然ではあるが、私の貫手を形作るは『ただの指』では無い。
(表層導体路直結! 放電……開放ッ!!)
――――ずごん、と。
守りの内側から全身に駆け巡る高圧電流によって、鈍亀はその巨体を硬直させ、声にならない絶叫を迸らせる。
抵抗の大きい物質に高圧で無理矢理流された電流は、駆け巡ると同時に膨大な熱量を生じさせる。
突き入れた左掌、放電源たる電極付近の体組織は、生じた熱によって体液が一瞬で沸騰し。
爆発的に体積を増した体液の急激な膨張に耐えきれず、一部炭化し硬直していた体組織を内から押し上げ……限界に達し、弾け飛ぶ。
通常の場合……接地している物体であれば、電流は地面へと流れていく。
例の鈍亀とて四本脚で接地しているので、ただ体表面に流しただけでは、電流は表皮を流れて地面へと吸い込まれていっただろう。
だが……電極を
そのまま肉を痺れさせながら地面を目指すのか、表皮を流れるべく傷口を焼きながら溢れ出ようとするのか。どちらにせよタダでは済むまい。
「わぁーすごい! アルファちゃんすごいすごい! えらいぞーえらいぞー!」
「ひぇ、すご……さすがやわぁ。……お手手、大丈夫? ばっちくなぁい?」
「ッ、大丈夫……でヒュ、っ!」
突如鳴り響いた爆音と、全身を強張らせ絶叫を上げた大型の
初めて見る有効打らしき反応に、それぞれが戦闘中であった魔法少女たちは四者四様の反応を見せる。
まるで幼子を褒めるように囃し立ててみせたのは、私と同様に近接戦を挑んでいた二人のうちの
聖職者のようなゆったりとした衣装で
『報告。敵対対象内部伝達系の一部に機能障害を確認致しました』
「んぐヒュ……ッ! おい、ヤツが麻痺した! 今なら!」
「ッ! 星装顕現! 行くで【ルクバー】!」
「星装顕現っ! おいで、【ファフニール】!」
私の声が聞こえたらしい【
さんざん手こずらせてくれた規格外の
『推奨。共闘中の分類『魔法少女』個体に倣い、【イノセント・アルファ】携行機装による同時攻撃の敢行を提案致します』
(……その心は?)
『回答。本戦闘は現地遠隔地併せ、相当数のヒト種が観測しているものと判断できます。分類『魔法少女』個体との協働関係を観測者へと印象付け、要求には応じずとも敵対の意思が皆無であることの表明が可能であると判断致しました』
(…………まぁ、拒否る理由も無いわな)
私が【イノセント・アルファ】として振る舞う際に用いる、コレ。
見た目形状や色彩や意匠が『それっぽい』こともあって、結構な頻度で振り回している、形状的には『パイク』に近い長槍型の機装。
彼女ら『魔法少女』が繰る『星装』とは全くもって異なる由来のブツなのだが……彼女らに倣ってみるのも、悪くはないかもしれない。
……というか、正直に言おう。ちょっとカッコいいなって思ってたところだ。ときめいちゃうだろ普通。
よって、堂々と
別に何も問題は無いだろう。だって私は……『白銀の魔法少女』らしいのだから。
「…………
その(それっぽく見える)長槍の正体とは……目標物の詳細な調査を行うための、観測機器の一部位。
地球上の言語で『
未知の物質であふれる外宇宙において、どの物質が自分達の母星にとって有益かを効率的に調査・判断するための……侵略接収のために磨き上げられた技術、その一端に過ぎないのだ。
とはいえ、その工具を形作るのは例によって、地球上の鉄や鋼などは言うに及ばず、チタンやタングステンよりも数段上の強度を誇る、未知の地球外金属である。
本来は
それを……敢えて、目醒めさせ。
本来の用途として、使用する。
『報告。対硬質物情報分解杭【サーベイヤー】、
「…………物騒だなぁァ、おい」
長槍の各部装甲がスライドし、内部の機構が一部あらわになる。
歯医者の回転器具のような甲高い周波音とともに青白い光が溢れ、穂先を中心として複数層の空間影響域が立体投影図式にて表示させる。
傍から見れば、宙に描かれた緻密な立体図形によって、槍の穂先が巨大化されたようにも見えることだろう。
しかしその実態は形状変化などではなく、『この立体投影された注意書きのエリアに侵入した物質は分解されます☆』という物騒な表示なのだが……攻撃範囲が広がったという点では、まぁまぁ変わり無いのだろう。
この『
普段遣いの便利さと丁度良さに加え、そういった『秘められた力』の部分も含め……やはり
畳み掛けるような魔法少女達の攻勢を受け、鈍亀の
現状、耐『魔法』防御能力は明らかに喪失しており、自己再生も焼け石に水といったところだ。
正直いって、このままでも5分と経たずに終わるだろうが……どうせなら多少なり『アピール』しておきたいからな。今更だが動くとしよう。
機体内の浮遊装置を稼働させれば、重量百キログラムを超す身体が音もなく浮かび上がり、私は白銀の衣(未満)をはためかせながら鈍亀の真上へ移動する。
青白く光り様変わりした長槍を、観測者達へと見せつけるように振りかぶり、最も守りが堅いであろう背中の甲殻目掛けて加速、突貫。
天から地へ、一直線に風穴を開けられた
ボロボロの身体を一つ大きく痙攣させ、永遠に動きを止める。
傷口や末端部位から泥のように溶け出し、やがて堅牢を誇った巨大はみるみるうちに崩れ。
この世から、呆気なく消え去った。
もちろんその間ずーっと、私の股間はとてもスースーヒュンヒュンしていた。
もうやだ。とても脱ぎたい。
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