第25話 製・造・責・任
念願の
ここ数日に渡る、自称『魔法少女』な少女たちとの邂逅
私が滞在拠点として利用している
母艦であるスー・デスタ級航宙調査艦より発艦した複数の揚星艇を惑星高高度に展開し、安全地帯である
侵略のために洗練された技術の結晶を、こうして我欲の儘に無駄遣いすること。……全く、気持ち良いったらありゃしない。
今は亡き宇宙人どもに中指突き立てて『ザマァ』とでも言ってやりたい心境である。
そんな物騒な来歴を持つ私の
コミューター機程度の全長で、円盤に近い形状の船体。スーのような管制思考こそ搭載されていないが、母艦からの遠隔バックアップにより擬似的な無人管制を実現。
地表観測や転送機能行使のための各種機器も、少人数どころか無人で利用できる。これまで味方らしい味方が居なかった私にとって、非常にありがたい仕様である。
やはり感謝の意を込めて中指突き立てて『ザマァ』と吐き捨ててやりたくなるな。
「…………そろそろか?」
『肯定。地表探査機タイプD、残存秒表記3000程にて全工程完了の見込みであると報告致します』
「それは良かった。……
『疑問。【MODEL-Οδ-10294ARS-D】型探査機に対する『着るもん』実装の必要性に関して、艦長ニグに説明を要請致します』
「まだ言うかこのポンコツが。……あれだ、地表の人々見てみろ、みんな服着てるだろうが。この星でヒト……の形したモノが全裸でいたら、直ぐに色んなヒトに注目されちまう。潜入どころじゃないだろうよ」
『確認。説得力のある説明であったと判断致します』
「そいつは何より」
寒風吹き荒ぶ外気に背を向け、気密隔壁を潜り
転送機能そのものは後部甲板上であろうと問題無く行使可能だが、例の発光を地表から……もしくは周回軌道上の人工衛星から観測される恐れがあるためだ。
船内を進み、荷物置き場として利用している一室へ。
私と同様、非常に魅力的な容姿を備え、それでいて胸部センサー群は大型で高感度のものを備えた【D型】である。どこをどう考えても、素裸でウロウロさせて良い筈が無い。
……尤も、世話焼きの魔法少女から『胸は絶対にサイズ測ってピッタリ合うやつじゃなきゃダメです』と、口を酸っぱくして言われた胸部肌着だけは……私単独ではどうしようも無かった。
また後日……今度は【D型】も連れて、直接調達しに行くしか無いだろう。
その際に生じるであろうと予測される
「…………よし、行くか。引き続き地表警戒頼む」
『了解。艦長ニグからの要請を受諾致しました』
ともあれ、待ちに待った
制御人格の構築を行ったのが、他ならぬスーであるという一点。そこに不安が無いといえば嘘になるが……しかしそれでも、期待のほうが圧倒的に大きい。
私は(【D型】よりかは圧倒的に控えめな)胸を期待で大きく膨らませ、周回軌道上の母艦へと転移を行った。
…………………………………………
『要求。当艦構築による【MODEL-Οδ-10294ARS-D】制御人格、識別呼称【D-YN-STAB】に関する、艦長ニグの所感を要求致します』
「どうしてこうなった。以上」
まったくだ。どうしてこうなった。
……いや、例によってスーに任せきりだった私に責任があるのは明らかなのだが。
だとしても、こう……なんていうか。ここまでとは思わなかったというか。
いつぞやの『お披露目』同様に母艦
スーによる指示のもと支配者登録を行い……満を持して【D型】の覚醒シークエンスへと移行し。
程なくして……ゆっくりと覚醒めた、生まれたばかりの彼女は。
文字通りの『生まれたばかりの姿』のまま。
支配者として登録された私(の主体意識が現在用いている
ぎこちなさの残る挙動ながら、これまた可愛らしく造形された唇をゆっくりと開き。
「o、か………as………さmあ」
「何て?」
「ァ、うゥ…………ca、kah、……かァ、sま」
「……大丈夫、ゆっくりで良い。もう一度聞かせてくれ。……聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたから」
「ゥ! …………かあ、さま!」
「聞き間違いであってほしかった」
…………こともあろうに、この私を『
どうしてこうなった。何処をどうしてどうなれば、私が
『報告。識別呼称【D-YN-STAB】管制思考の形成において、艦長ニグより齎された『初等部教育指導要綱』『みんなの道徳』『雛鳥くらぶ』等情報資料を有意義に活用出来たものであると判断致します』
「それがどうしてこうなる」
「…………ゥ?」
『説明。惑星地球において、一般呼称『子ども』に類する未成熟個体が管理責任者に対し用いる対象指定呼称のうち、女性名詞に該当するものを適用致しました」
「じょ、」
「か、ァ、……さま?」
『補足。同系用途として用いられる類似語句『カーチャ』『マミー』『マザー』『オッカー』『アンマー』等と比較し、採用頻度ならびに適用範囲の広い呼称を選択致しました。棄却された選択肢を適用される場合、』
「いや、はい。大丈夫です」
「かあさま! かあさま!」
出来上がった彼女の管制思考は、まさに純真無垢で天真爛漫といった様相を呈している。
間違いなく魅力的であろう相貌に、ヒト種の人体を詳細に模倣した身体に、それでいて大型かつ高性能な胸部装備を備えた少女(の形をした無人探査機)が、生まれたままの姿で無邪気にスキンシップを図ってくるのだ。
「……とりあえず、無いよりマシだろう。服……えっと、着かた、わかるか?」
「ゥ! だい、じょぶ! ワタシ! わかる、ます!」
「あ、あぁ。じゃあ、これ……お前も着れるサイズで作った筈だから」
「はい! ふく、きる、します、した! かあさま!」
「…………………………いや、」
「ゥ? かあ、さま?」
いや、何だこれは。いや……何て格好しているんだ、この娘は。
確かに……確かに、私は
このサイズ的なゆとりは意図したものであり、そこに何ら問題は無い。その筈だった。
だが……眼前の、これは。
余裕を持たせたがゆえに首元から覗く、私よりも圧倒的に暴力的な
長い
微妙に伸縮性のある
「なんだ、この…………この、破廉恥な格好は!!」
「…………ゥ?」
『確認。現行仕様実装以前の艦長ニグ外観仕様と同一のものであると認識致します』
「嘘だそんなコト!!!!」
誠に遺憾ながら……現在私達が所持している備品では、この破壊力を押し留めることは不可能だろう。
こんな状態の彼女を地表へ連れていった場合、周囲へどんな影響を与えるのか。また私達にどんな視線が注がれるのか。……考えたくもない。
こんな兵器を創り出す指示を下した張本人である、私には。
彼女が人波の中にあっても、騒動が生じぬように取り計らう責任と、義務があるのだ。
差し当たっては、彼女に合致する衣装の調達。そしてそのための軍資金の確保だ。
前回は【
そう何度も歳下の少女の世話になるわけにもいかないし……やはり私が『もうひと稼ぎ』してくるしかあるまい。
勿論、国の機関に接触を図れば、一瞬で解消する程度の懸念なのだろう。
少女エモトの口ぶりから推測するに……私の戦績を主張すれば相応の報酬は得られるだろうし、色々と便宜を図ってももらえるのだろう。
……冗談ではない。年端も行かぬ少女を尖兵として用いるような、非道徳的な思考が罷り通るような組織など。
あんな奴らの世話になるくらいなら……例のキトンのまま街中へ出たほうが、幾分もマシだ。
とにかく、中長期的目標の一つであった『僚機』の製造、ならびに覚醒そのものは問題無く完了した。
私の呼称や幼げな言動等、引っかかる部分が無いわけではないが……そのあたりは、おいおい詰めていけば良いだろう。
「かあさまー!」
「はいはい。お前さんは無邪気だなぁ」
……まぁ、差し当たっては。
何よりも先に……この子の呼び名を、早々に決めてやらなくてはなるまいな。
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