第8話 偽・装・上・演




 異星人の戦闘用外部骨格であるこの機体【TDE-1097/PA】……もうそろそろ面倒なので『大鎧フルプレート』とでも呼称しようか。

 今でこそ着込むように搭乗している『大鎧フルプレート』だが、正直わざわざ搭乗して有線接続を行わずとも、電子生命体たる『私』の意識を植え付けて遠隔操作することは可能だった。


 じゃあ何故わざわざ、と面と向かって問われたら『なんとなく』としか返せないのだが……結果として今回ばかりは、そのお陰で命拾いしたわけだ。

 まぁ、命なんてとうの昔に潰えているんだが。




(……手筈通り頼むぞ、スー)


『了解。健闘をお祈り致します【イノセント・アルファ】』


(嫌味かよこのクソポンコツ)



 苛立ちを多分に含ませ、操作する『大鎧フルプレート』の左腕装備、禄式砲塔防盾トーメントタワー【ティターンⅥ】へと出力を回す。

 防御のための内蔵機構、重力場を応用した指向性斥力投射装置を励起し、強めに出力を行う。


 ただの人間であれば容易く吹き飛ばされ、壁面に叩き付けられ、当たり所が悪ければそのまま全身が砕けて絶命するであろう斥力波動が解き放たれ……狙い通り二人の魔法少女を捉え、前方遠くへと吹き飛ばしていく。



「……ッ!?」「なんの……!」



 もちろん、ほんの一瞬の時間稼ぎに過ぎない。

 ただの人間ではない彼女達は、当たり前のように空中で身を捻って体勢を整え、再びこちらへ突っ込んでこようとその身を屈めていく。



「……有線接続、離脱」


『了解。【TDE-1097/PA】改め『大鎧フルプレート』、機装制御を継承致します』



 私から機体の制御を引き継いだスーが、私からの命令通りに行動を開始する。全身の装甲板が僅かに身動ぎ、開かれた隙間からあからさまに嫌な色の煙が勢いよく吐き出される。


 元々の用途としては、対光学兵器用の隠れ蓑である本装備……着弾した光学兵器を乱拡散させることで本体へのダメージを軽減するためのものだが、いかんせんその色が異様である。

 黒をベースに紫と赤と青がまだらに混じり合うその色合いは、まだ知識の乏しい少女達にとっては毒ガスにしか見えないだろう。『大鎧フルプレート』の姿を一部とはいえ隠蔽し、突入に二の足を踏ませるには充分だった。



「【高集束光子熱閃砲フォトンリーマー(極低出力・拡散)】、照射」


『了解。背面装甲、排除』



 両膝を畳んだ搭乗体勢から、なんとか片腕だけを直上へ向け、出力を可能な限り落とした【高集束光子熱閃砲フォトンリーマー】を『大鎧フルプレート』内部から発砲する。

 初戦の一撃から幾分と密度を減らした――とはいえヒトの視界を奪うには充分な光量を秘めた――光の柱は、タイミングを合わせて排除パージされた背面装甲へと直撃し、盛大な火花と光を撒き散らしながら天高くへと突き抜けていき……果たしてその光量が収まったときこそ、私の演技力が試されるときなのである。



 光の速度というものは、人間の認識力の遥か上を行く。ましてや眩い光の中だ、光源がなんてわかりはしまい。

 地表付近から何も無い天頂方向へ、下から上へと放たれた【高集束光子熱閃砲フォトンリーマー】だが、それを知っているのは私達だけであろう。


 突如膨大な光、一瞬で晴らされた毒の霧、背面を抉られた新種の魔物マモノ、そこへ長槍を突き立てる白銀を纏う少女。

 ……傍から見れば、光と共に私が魔物マモノに手傷を負わせた……ように見えなくもないんじゃなかろうか。




「……そこまでだ。さっさとれ」


『お、の…………れ』


(めっっっちゃカタコトなんだが大丈夫かコイツ)



 大鎧フルプレートを操るスーはぎこちないながらも怨嗟の声を発し、背に槍を突き立てる私を振り落とさんと【高質量割断鉈斧ミノタウルⅡ】を振り回す。

 軽やかに跳躍しながら空中で身を捻り、ほんの一瞬で魔法少女達の様子を窺い、期待通り動きを止めていることを確認する。


 ここまで来れば……もう一息。

 小っ恥ずかしい演劇もお終いだ。




「(もう色々と)苦しいだろう。……無駄な抵抗をするな、すぐに送っ転送してやる」


『消去。…………する』


(なーんだろうなその言い方ァ)



 大上段に掲げられた【ミノタウルⅡ】に臆することなく距離を詰め、割り砕れた背後の路面と巻き上がる粉塵を隠れ蓑に。

 最後の一手……強制転送ライン確立のための直接ダイレクト座標送信スポッティング、それすなわち直接接触による対象指定を完了させる。



『報告。転送対象物を捕捉致しました』


(強制転送開始)


『了解。『大鎧フルプレート』、転送』



 固有格納空間から引っ張り出したそれっぽい長槍を、これ見よがしにそれっぽく振りかぶり、そして振り下ろすと同時。

 揚星艇から発せられた強制転送ラインが『大鎧フルプレート』へと突き立ち、転送対象物をみるみるうちに分解・送信していく。



 やがて光が止み、粉塵が晴れたその場所に、大鎧フルプレートもとい『新種の魔物マモノ』の姿は無く。




『報告。『大鎧フルプレート』母艦主格納庫への収容を完了致しました。損傷軽微、修繕は容易であると判断出来ます』


(そいつぁ何より)


『追記。ヒト種『魔法少女』の表情パターンを解析。印象操作は期待通りのものであると判断出来ます』


(…………そいつぁ何より)




 白銀の衣を靡かせ、長槍を携え、光の柱にて魔法少女【イノセント・アルファ】が、ただ悠然と佇むのみであった。







 ……的な感じで捉えといてくれりゃあ、コチラとしては非常に助かるんだがな。



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