第11話 僚・機・発・注



 魔物マモノとやらの出現頻度だが、とにもかくにも不安定……というか、ランダム性が過ぎる。


 複数箇所で矢継ぎ早に、それこそ同時に複数体(※魔法少女達は『群れパック』と呼んでいた)、しかも複数地点で多発的に出現することもあれば……逆に一週間から数週間、全国的に全く見られないということもあるらしい。



 なお、これはあくまで我が国に限ったパターンである。

 いち早く『魔法』ならびに『魔法少女』という対抗手段を得るに至った、創作や創造や想像が盛んであった我が国。

 こと『イメージする力』『現象を思い描く力』に関しては、それらを開花させるための下地が整っていた、ということなのだろうか。知らんけど。


 また……他国は他国で、どうにかこうにか独自施策で対応しているらしい。

 『魔物マモノ』の性質上、どうやら『人口密度とそれに伴う負の感情が高まりやすい場所で受肉し易い』という傾向があるらしく、まぁつまり先進国では度々『魔物マモノ』が出現しているとのこと。

 日本国以外、武力や軍を備えている諸外国では、彼らが日頃の訓練成果を遺憾なく発揮してくれているらしい。……知らんけど。



 ……さすがに私とて、地球全体をカバーするほどの熱意もキャパシティも在りはしない。

 この国の『魔物マモノ』出現頻度が異常に高い、諸外国は我が国ほど頻発していない、というのもあるのだが……ぶっちゃけ海の向こうでどんな大事件が巻き起ころうと、所詮は対岸の火事である。

 見た目は少女とはいえ、その気になればヘリだろうと戦車だろうと葬れる存在なのだ。他所の国土で武力なんぞ行使した日には、それこそ国家間での殴り合いが始まりかねない。


 というかそもそも、さすがに日本語が通じない地域でのコミュニケーションは無理だ。

 母艦スーのライブラリには難解面妖な異星人語こそ登録されているが、惑星地球の日本語以外の外国語は残念ながら非対応なのだ。私にそれらを登録できるほどの知識も無い。




 まぁ、そんな事情があったりして。

 ほぼ24時間営業、まる一日働き詰めの日があったと思えば、平和でしかない一ヶ月があったりもしたりして。


 そんな『オフの日(※仕事が無いと断定されてはいない)』の今日現在、私はここ最近の滞在拠点である揚星艇キャンプではなく、宇宙空間の周回軌道に停泊している母艦『スー・デスタ10294』へと里帰りを果たしていた。



 その目的とは勿論、スーに頼んでおいたである。





『歓迎。本艦『スー・デスタ10294』メインファクトリーへようこそ、艦長ニグ』


「あぁ。『できた』って言ってたろ。例のブツを見に来た」


『了解。惑星地球原生知的生物型地表探査機【MODEL-Οδ-ARS-D】、機体構築は完了しております。搬出が可能です』


「まだは入ってない……なんだよな?」


『肯定。フォニアルデータストリームより抽出された惑星地球関連諸情報および現在状況の先行入力は完了済となりますが、管制人格の構築は未だ開始されておりません』


「解った。それでいい、頼む」


『了解。搬送ターミナル004、ランウェイデルタよりオメガへ移動を開始致します。ランウェイデルタよりオメガ、当該区域周辺の作業中知類は退避して下さい』




 艦内ネットワークを介して誘導が表示され、私はスーから指示された位置にて暫しの待機を行う。

 間もなくけたたましい警告音と共に『様々な配管や配線が繋げられた棺桶のようなもの』が、滑るように私の目の前へと搬送されて来る。


 スーからの報告を聞く限りでは……恐らくこの中に、私と同型の地表探査機が納められているのだろう。



『報告。培養治具内気密充填解除。天面ハッチ開放致します』




 黄み掛かった白い煙を漏らしながら『棺桶の蓋』が跳ね上がっていき、薄っすらと残る靄の中にその艷姿が露わとなる。

 呼吸もせず、鼓動も無く、目を見開き、身じろぎ一つしないその姿は、まるで死体のようである。……まぁ『命を宿していない抜け殻の身体』という意味では、確かにその通りなのだろうが。


 特殊表面処理を施した微細特殊金属繊維の束である長い銀髪、その中に隠された二対四本の金属触手、虹彩の代わりに環状遮光板シボリを備えたカメラレンズのような瞳、原生生物を欺くために細部に至るまで忠実に再現された身体形状……それら全てが今となっては見慣れてしまった『私』と同一の身体機体が、完成ロールアウト直後の姿で物々しい棺に納められていた。



 ただ、まぁ…………製造に際しての細部はスーに『色々と』任せたっきりだったので、機体仕様の全てを確認しておかなかった私に非があるのだろうが。




『解説。昨今の戦況に鑑み、試製モデル【MODEL-Οδ-ARS】よりも更に高度な複合情報通信機構搭載の必要性が、当艦管制思考内統合戦略マトリクスより提示されました。それに伴う通信性能強化施策の一端として、超高精度な空間走査を可能とする高感度複合多目的レーダーおよび保護用、原生知的生命体『ヒト種』構造を模倣し機体中央へと配置。それに伴い機体全幅がにてミリ表記92.2増、がミリ表記20.3増と、および本体重量にてグラム表記5706.2の増加を確認致しましたが、機体表面生体スキン部位排熱効率の向上により機体全長は【MODEL-Οδ-ARS】同等水準を維持致しました。また重量増加による若干の機動性能低下が予測されますが、本機の主用途が後方での通信支援及び広域索敵であること、また機体全長の同一規格化に伴い【MODEL-Οδ-ARS】用複合強化機装【TDE-1097/PA】通称『大鎧フルプレート』が流用可能であり、同機装の併用によって機動性能低下が解消可能であること。以上判断内容から、当該機体の致命的デメリットとは成り得ないものであると判断致しました』


「は、はい」


『提案。以上の設計仕様変更に伴い、当該機体を【MODEL-Οδ-ARS-D】型と分類、派生型・別機体としての製造情報保存を推奨致します』


「あ、良いと思います」




 完成したばかりの新造機体、スー曰くの新型地表探査機【MODEL-Οδ-ARS-D】型。


 その外観は……私と同様に小柄な全高であるにもかかわらず、胸部には全高比で非常に豊かたわわな追加装備を施された、目に毒かつ大変けしからん仕様の機体であった。




 …………いや、別に何も羨ましくは無いが。


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