【魔法少女解説・特別編】イノセント・アルファ【はっきり解説】




「はっきりレイチェルよ」



「はっきりマリーだぜ」



「マリー、あなたは魔法少女【イノセント・アルファ】って知ってるかしら?」



「名前と活躍は何度か聞いたことはあるが、正直いって詳しくは知らない……って感じだな。

 公式の『魔法少女データベース』にも登録されていないし、どんな格好でどんな能力なのかも詳しくは知らないぜ」



「そうね。

 魔法少女【イノセント・アルファ】は開示されている情報も少ないし、インタビュー等のメディアにも露出しない。

 他の魔法少女と組むことも少ないし、はっきりいって異質な魔法少女よ。

 でも、彼女が確かな実力を持ち、数々の功績を立てているのは確かよ」



「そうだったのか。詳しく知りたくなったぜ」



「じゃあ今回は、そんな【イノセント・アルファ】について語ることにするわ。


 ……それでは、」



「「はっきりしていってね!!」」





「それじゃあまず、彼女のプロフィールについて簡単に説明するわね」


■ 登録名 : イノセント・アルファ

■ 根源名 : 不明

■ 出身地 : 不明

■ 年 齢 : 不明

■ 所 属 : なし

■ 担当区域: 国内全域



「…………おい」



「し、仕方がないのよ。

 さっきも言ったけど、彼女はとにかく開示されている情報が少ないの」



「しかし、担当区域が『国内全域』ってすごいな。

 普通の魔法少女は、県ごとか、せいぜい地域別の分担だと思うんだが」



「そうなのよね。

 彼女の扱う魔法の一つに『転移』魔法があるらしくて、

 それを使ってあちこち飛び回り、国内全域で活動しているのよ」



「ええ………行動量が半端ないんだぜ」



「彼女が初めて確認されたのは、魔物マモノの同時多発襲撃事件のときの一幕。

 廃都市『山檀原さんだんばら迎撃戦』でのことよ」



「知っているぜ。

 立て続けに出現した魔物マモノによって、魔法少女の展開が追いつかなくなったときのやつだろ?」



「ええ、そうね。

 日夜私達の生活を守ってくれている魔法少女達だけど、その殆どが学生なのだもの。

 各拠点に即応可能なペアを待機させているとはいっても、このときみたいに即座に対応できないこともあるわ」



「そこをカバーするために対災隊が展開したのが、『山檀原さんだんばら迎撃戦』なんだよな。

 北関東地域の廃都市、旧山檀原さんだんばら市に集まった魔物マモノの群れに、対災隊機甲部隊が展開。

 そこへ現れたのが……」



「そう、【イノセント・アルファ】ね。

 『転移』魔法で魔物マモノの目の前に姿を現し、強力な『光魔法』で魔物マモノを瞬殺。

 対災隊の被害は、驚きのゼロ。疑う余地のない完全勝利に貢献したのよ」



「『転移』に高威力の『光魔法』かぁ。

 ……すごいんだぜ」



「その後彼女は、異聞探索省内国家指定対災調査員事務局によって、

 正式に【イノセント・アルファ】の登録名が交付されたわ。

 でも、この会見時は『養成施設からの脱走者』としての扱いだったのだけれど……

 施設から逃げ出したにもかかわらず、魔物マモノ対処には積極的に貢献してくれていることから、

 この『脱走』の正否には、未だ議論の余地が残るわね」



「本当に『脱走』だったとしたら……逃げ出すほど嫌なことをされてた、ってことか!?」



「詳しいことは判らないけど、

 彼女が人並み以上の責任感を持っていることは確かね。

 その後【イノセント・アルファ】は、ときに単独で、ときに政府所属の魔法少女たちの手助けをしながら、

 次々と戦果を上げていくわ。

 数ある中でも印象的なのが、特級災魔«ムイファー»

 および«マールボック»と«ナンマドル»の撃破よ」



「特級災魔!? なんかヤバそうな響きだぜ」



「そもそも『災魔サイマ』というのは、政府内における『魔物マモノ』の正式名称ね。

 魔物マモノの中には、時折強力な個体が発生するのだけど、

 そういった魔物マモノは『特級災魔』というカテゴリに分類され、

 通常よりも多くの人員で対処に当たるのよ。

 特に«ムイファー»に関しては、まるで金属のように強固な体組織をもち、

 未確認情報だけど……人語らしき音を発したとか」



「ひぇっ」



「«マールボック»と«ナンマドル»においては、人語を発したという記録こそ無いけれど

 いずれもただの災魔サイマとは比べ物にならない、並外れた耐久力を備えているわ」



「そうなのか。

 ……つまり、とてもヤバい魔物マモノってことだな」



「ま、まぁ、その通りよ。

 この特級災魔«ムイファー»ならびに«マールボック»と«ナンマドル»だけど、

 実際に対応した魔法少女は、後に取材に対して、

 『【アルファ】の手助けが無かったら、正直勝てたか判らない』といった旨の発言をしているわ。

 その証言を裏付けするかのように、各作戦の展開時間はほんの数時間、

 特に【イノセント・アルファ】が参戦してからは、僅か15分程度で完全撃破に成功しているの」



「普通はどれくらい掛かるものなんだ?」



「特級災魔の危険度については、史上最悪の災魔とされている«ヴェラ»の件を例に挙げると、

 駆除作戦最終段階の『臼卦山うすげやま攻略戦』総作戦展開時間が、じつに3日間と8時間」



「ひぇっ」



「おまけに«ヴェラ»のケースでは、153名の一般人が命を落とした他、

 対災隊員で38名、魔法少女でも2名が殉職しているのよ」



「そんなヤベェやつを倒してくれたのか!

 すごいな、【イノセント・アルファ】がいてくれたら我が国は安泰だな!」



「そう思うでしょ?

 でもね……手放しで喜べない事情があるのよ」



「なんだって? どういうことなんだぜ?」



「魔法少女【イノセント・アルファ】に関しては、前々から色々な噂が後を絶たなかったの。

 彼女の身体のことに関する噂の中で、特に多くの人々の関心を集めているのが、

 『彼女は生まれつき身体が弱く、変身を維持しなければ日常生活もままならない』

 という説よ」



「……な、なんだそれは、どういうことなんだぜ?」



「ほぼそのままの意味ね。

 彼女にとっては、恐らく『変身することで消耗する体力』よりも『普段の姿でいることで消耗する体力』のほうが高いのではないか、という説よ。

 彼女の正体が依然として判明しないのには、『常に変身を保っているから』というのもあるのよね」



「常に変身したまま、って……そんなのメチャクチャ疲れるんじゃ」



「そうね。

 でも彼女にとっては『多少疲れる』としても、変身したままの方が気が楽なんだわ。

 その説を裏付けする証言があるので、ここで紹介しておくわね」



「し、証言? いったいどんな内容なんだぜ」



「こちらの証言者は、政府所属の魔法少女、当代の【アクアリス・グレイシャー】さんね。

 水と氷を操る魔法少女で、戦闘力もさることながら状況判断力や観察力にも優れ、長らく一線で活躍している優秀な魔法少女よ」



「なら証言の信憑性も高そうだな。いったいどんな内容なんだぜ?」



「彼女はあるとき、街中で【イノセント・アルファ】と遭遇したのだけど、

 そのとき直感的に、【イノセント・アルファ】が『何かしらの重い病を抱えている』ということに気づいたそうよ」



「ええ!? どうしてそんなことに気付けたんだ?」



「これは【アクアリス】本人の他に、複数の一般人も見聞きしたことらしいのだけど、

 街中でちょっとしたトラブルが生じた際、【イノセント・アルファ】本人の口から、

 『胸に医療機器を入れている』という旨の発言がなされたらしいわ」



「ほ、本人の口から…………」



「加えて、ここからは考察サイトの推論なのだけど……

 魔法少女【アクアリス】は、流体に関連する権能を所持しているわ。

 そのため【イノセント・アルファ】の身体について、何かしらの異常を知覚出来てもおかしくない……

 という見方もなされているわね」



「先代の【アクアリス】は、治癒や治療に関連した権能を持っていたみたいだし

 当代も同様に、身体のトラブルに気付けてもおかしくない、ってことか」



「そんな【イノセント・アルファ】だけれど、そんな境遇をものともせず

 積極的に災魔サイマ魔物マモノ)討伐を進めていくの。

 持ち前の『転移』魔法を駆使し、日本全国あちこちに現れ、しかも昼夜を問わず戦い続けるその姿勢を見て、

 異聞探索省へ抗議の声が殺到したらしいわ」



「そりゃそうなるだろうな!

 プロフィール見る限り、正確な年齢は不明らしいが

 だとしても恐らく、まだ未成年なんだろう?

 児童福祉保護法とか労働法とか、そのへんが黙っちゃいないぜ」



「そうなのだけれど、

 対策をしようにも、政府としては『お手上げ』状態みたいね。

 彼女は正体含めて一切の情報が謎だから、

 アプローチしたくても『できない』というのが正しいみたいよ」



「で、でも……報酬の振込とかは、流石に把握してるんだろ?」



「…………………………」



「…………………………えっ?」



「…………そんな【イノセント・アルファ】なのだけど」



「お、おい、レイチェル?」



「【イノセント・アルファ】最大の功績と言われているのが、

 日本中の混乱と熱狂も記憶に新しい、隕石型災魔サイマ迎撃戦線、

 通称『芽田穗浦めたぼうら』沖海上戦での活躍ね」



「さすがにこれは私でも知っているぜ」



「そうね。

 特に首都圏太平洋沿岸部では、一時的とはいえ大規模な避難指示も出され、

 東京証券取引所では『円』や日系企業株の投げ売りが行われたり、

 地方や海外へと向かう人の流れで駅や空港が大混乱に陥ったりと、

 日本中が世紀末の様相を呈していたものね……」



「大変な騒ぎだったな。

 でもその『芽田穗浦めたぼうら』沖海上戦って、

 政府発表では確か『対災隊と6名の魔法少女と有志の協力者により』成功を収めたって形になってたよな?

 『有志の協力者』って部分が【イノセント・アルファ】なんだろ?」



「そうね。もはや共通認識と化しているけど

 あえてぼかされたその部分が【イノセント・アルファ】だということは、ほぼ間違いないでしょうね。

 政府からの干渉を快く思わない彼女に対し、必要以上の圧力を掛けさせまいという判断なのかもしれないわね。

 実際、名前を出すまでもなく皆の知るところなわけだし」



「魔法少女と対災隊以外の、いったい誰が

 沖合100キロでの海上戦に首を突っ込めるのかっていう話だよな。

 ボカした言い方されているのは、政府なりの配慮ってことか」



「好意的に解釈すると、そうなると思うわ。

 この海上戦で【イノセント・アルファ】は、隕石型災魔サイマ落着現場へ誰よりも早く急行

 落着による被害……大気を伝播する衝撃波や、海面の変動に伴う海嘯、

 その全てを単独で封じ込め、被害抑止に大きく貢献したのよ」



「100キロ離れた『芽田穗浦めたぼうら』からでも観測できるほど巨大な結界魔法だったんだよな。

 …………いや、待てよ?

 だって【イノセント・アルファ】って、確か……」



「…………そうなの。

 その後も現地へ駆けつけた【アクアリス】ら魔法少女たちと協働して

 隕石型特級災魔サイマの排除に成功したのだけれど……

 そもそも【イノセント・アルファ】は、『何かしらの重い病を抱えている』はずなのよね」



「…………………………」



「実際、それ以降【イノセント・アルファ】の目撃証言は

 ぱったりと止んでいるわ」



「さすがに無理が祟った、ってことなのか……なんてことなんだぜ……」



「その代わりに現れた、彼女の妹とされる魔法少女

【イノセント・ディスカバリー】に関しては、また別の動画で解説するわ」



「新たなる魔法少女はもちろん助かるんだが

 私としては、やっぱり【イノセント・アルファ】のことが心配だぜ」



「接触が難しいとされる彼女だけど、

 私達含めて感謝の意を抱いている一般人は大勢いることでしょうし、

 なんとか、彼女には報われてほしいわね」



「『振り込ませろ詐欺』ってやつだな!

 恩返しできそうな手段を考えついた方は、コメントのほうによろしくだぜ」



「当チャンネルでは、今後も政府所属魔法少女の情報に加えて

 【イノセント・アルファ】に関する情報を随時纏めていく予定なので

 高評価とチャンネル登録のほうも、よろしくお願いします」




「それでは」



「「ご視聴ありがとうございました!」」





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※ネタバレ(特級災魔仔細)


ムイファー(7 接敵遭遇)

→大鎧@うっかり艦長ニグ


マールボック(14 白銀光臨)

→鈍亀


ナンマドル(34 霊長王者)

→ゴリラ


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