■国家指定対災調査員事務局 近畿第一支部
「…………あ、そうそうドラ子ちゃん」
「んー? どうしたの? おペイちゃん。コンビニならまだいいかなぁ。あいちゅんカード買い行くの? 爆死した?」
「違う違う違う違う違う違う違う違う」
この世界に受肉を果たし災いを
京阪神大都市圏を擁する近畿地方に設けられた、ここ『近畿第一支部』内の談話室では……現在幾人かの魔法少女達が、それぞれ思い思いの方法で
そんな
公私共に交友が深く、同じ学舎に通い、職務においても肩を並べる二人。それぞれが相手を『権能』由来のあだ名で呼び合うほど、気心の知れた間柄である。
彼女達のように『アトリエ』所属の魔法少女は、ローテーションにて有事に備えての待機任務が発生する。
いつ
……ただ『即応可能な魔法少女は多ければ多いほど望ましい』との考えから、シフト以外でも極力入り浸ってもらえるようにと、談話室や仮眠室等はそこそこ以上に居心地が良い。
「ホラホラこれ、知っとる? 最近ちまたで話題なんやて。謎多き神出鬼没の美少女フードファイター、その名も『
「いやこれ【アルファ】ちゃんじゃないの」
「そうなんよーもー。なーにがスノウホワイトやて勝手に名付けんといてほしいわぁーホンマになぁー」
「あらあらあら…………まぁすごい。高難易度メニューを連続制覇、だって。見た目によらずいっぱい食べるのねぇ、あの子」
ちなみにこちら、お紅茶をはじめとするソフトドリンクはおかわり
多感なお年頃である『魔法少女』の気を引き『アトリエ』に入り浸ってもらおうという、行政の涙ぐましい努力が見て取れる癒しの空間。……そんな居心地の良い談話室の片隅にて、仲良い者どうしの賑やかなお喋りが幕を開ける。
おペイちゃん改め【
普段は自分たち『魔法少女』に関する記事や、あるいは
だが……ドラ子ちゃん改め【
この拠点、いや全国に点在する各地の『アトリエ』所属の者、いやそれどころか『魔法少女』関連の情報に耳聡い者なら、ほぼ間違いなく知っているであろう『
言うまでもなく……彼女達が【イノセント・アルファ】と呼び慕い、如何にしてお近付きになろうかと画策している相手である。
「『にぐ』ちゃんって言うのね、あの子のお名前。……お名前わかってるのに、何でわざわざ『
「なんていうか……異国情緒あふれるカッワエエ名前やんなぁ、にぐちゃん。やっぱ外国の子なんかなぁ?」
「そうじゃないかなぁ? キレーな銀髪だったし、お目々も色素薄くて……北欧系? っていうのかな」
「そうそう、髪の毛もお目々もキレーで……いいなぁ羨ましいわぁ」
その記事
行動範囲が極めて広いという特徴を考慮しても、確かに転移を使いこなす彼女ならば可能なのだろう。
総重量7kgに及ぶカツカレー、超特大の海鮮丼、食パン4斤の超重量級ハニートースト、うず高く積まれたタワーハンバーグなどなど……いい歳した男性チャレンジャーであっても手を焼く品々を、涼しい顔して悠然と片付けていったのだとか。
そんな実力に加え、彼女自身の容姿もさることながら、毎回非常においしそうに食べ進めるその姿勢と相まって、高い人気と話題性を誇っているのだとか。
……まあぶっちゃけてしまうと、彼女の正体が魔法少女【イノセント・アルファ】であることは、もはや公然の秘密である扱いらしい。
とはいえ『魔法少女』としてではなく、いち個人として大食いメニューに挑む彼女に敬意を表し、あえて『魔法少女のときとは別名で呼ぼう』という運びになったのだとか。
「どォーーでもええわ! んな
「でも……おなかいっぱい食べれてるみたいで、良かったじゃない」
「それはそやけども」
以前より刺々しさが鳴りを潜めたこともあり、最近は『アトリエ』内でもいろんな魔法少女から大人気だという【イノセント・アルファ】。
直接お世話になった子も、まだ遭遇したことがない子も、『もし会えたら何をお
だが……事務局の大人達や、一部の魔法少女が知っている、魔法少女【イノセント・アルファ】の一面。
【
それだけに、彼女がこうして『お腹いっぱいごはんを食べている』ということ。
その事実が知れただけで……たとえ事態は何も好転していないとしても、ひとまずは『ほっ』と胸を撫で下ろしたくなるような心境であった。
「……なんか、けーちゃんも最近
「いいなぁ、私ももう一回【アルファ】ちゃんなでなでしたいなぁ」
「
「教えちゃったら極秘じゃなくなっちゃうし、そもそもわたし達って『脳筋』の類だからねぇ」
「そやねぇ……
儚げで
『魔法少女』関連ニュースだけに留まらず、どんどん活躍(?)の幅を拡げていく彼女のことを微笑ましく感じる反面。
「わたし達も負けてられないねぇー」
「おっ? ドラ子ちゃんやる気満々ウーマンやないの。ええやんええやん、訓練所行く?」
「『待機』終わったらね。あと3時間、おしごとがんばろ」
「…………そうやねぇ。うちも周回がんばらんと」
「んふふふ。……そういえば、お目当ての子は引けたの? ツリ目の過去先輩おいしいですー、って言ってたじゃない?」
「天井やった。もううちのお財布さんはボロボロでドボドボよ……」
「してたかぁ爆死」
なかなか染まらない高潔な真白に、ほんのちょっとずつ様々な彩りが加わっていくことを、好ましく感じながらも。
その内には『負けてはいられないな』『もっと強くならないと』『この
長らく『強者』として君臨してきた彼女達だったが……過日の『亀さん』との戦闘は、久しぶりに力不足を味わう結果となったのだ。
関東圏の『とある二名』同様、更なる高みを目指す切っ掛けが『白銀の魔法少女』であろうことは、もはや疑う余地も無い。
良い悪いはさて置き、魔法少女達から様々な影響を受けつつある【イノセント・アルファ】ではあったが。
その実【イノセント・アルファ】もまた、多くの魔法少女達に……こちらはほぼ『良い』一辺倒の影響を、確実に与え始めていたのだった。
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