第28話 仕・様・調・整
さて、この一週間
まず私はというと当初の予定通り、この身体を十全に活用しての『賞金稼ぎ』に専念していた。
探してみれば全国あちこちに
欲を言うと、もう少し行きたかったのだが……あのテのメニューというのは飛び込んでいっても『また後日改めて』と言われることが殆どであり、つまりは事前予約が必要なパターンが多いわけだ。……電話線引いてないからなぁ、
また、私が
その甲斐もあり、私達の……そして何よりもディンの練度と戦闘技能は、なかなかの上昇を見ることが出来た。
ただそこへ至るまでには、幾らかの試行錯誤があったのも事実である。
『子育て日記』ではないが……そちらも軽く記録しておこう。
そもそも彼女に
たとえば……無尽蔵といえる本体動力炉から取り出したエネルギーを、レーザービー厶の如く放つことも出来る。出来るのだが……まぁコレは色々とヤバいので封印安定だろう。
他に純粋な弾丸(※ただし地球外鉱質)も規格品が取り揃えられているのだが……こちらは誤射した際の被害が怖い。彼女の観測能力を疑うわけではないが、戦闘行動中に『絶対』は無いのだ。
仮に、もしも、万が一、弾丸が目標を逸れてしまった際……音速さえ置き去りにした小口径高質量弾頭が、どこまでもカッ飛んでいくのだ。
タングステンや劣化ウラン等に見られるように、高質量の弾丸は極めて高い貫通力を発揮する。その口径が小さく、また弾速が速ければ尚のこと。その恐ろしさは
また、地球上に地球外由来の鉱物――しかもあからさまに弾丸の形をした加工品――をバラ撒くという観点からも……残念ではあるが、こちらも封印せざるを得ないだろう。
そんな様々な実験と考察を経て辿り着いたのが……敢えて地球上の兵器の類に例えるのなら、『榴弾』の一種である。
こちらの優れた点は、なんといっても『発射前に弾頭の炸裂
元々は、気体による抵抗や威力減衰が存在しない宇宙空間において、誤射や副次被害を抑制するための機能であるらしい。
なるほど確かに……無重力で気体の存在しない宇宙空間においては、一度ベクトルを付与されたものは
発射された砲弾の速度は落ちることなく、場合によっては様々な天体の重力による影響を
考えるだけでも恐ろしいったらありゃしない、音も無く破壊を
……そんな経緯があり、そんな恐怖の事態を回避するため、戦域外に出たら炸裂自壊する砲弾が生み出されたのだという。
相も変わらず、こと戦闘や殲滅に関しては妥協しない、本当に物騒でロクでもない種族である。皆殺しにしておいて本当に良かった。
だが今回のケースにおいては、それを操るのはウチの『できる子』ディンである。スーから提示された運用提案には私も度肝を抜かれたが、それを難なくこなしてみせたこの娘は本当にすごい。
その運用方法とは、ずばり『高精度センサー群より算出した標的との距離数値をそのまま入力し
私がかつて生存していた時代、艦載対空砲なんかでは近接信管なるものが存在していた記憶はあるのだが……とはいえさすがにライフル弾サイズ、しかもほんの一瞬で諸元入力を果たせるモノなど、さすがに存在していなかっただろう。
しかしまあ、私は『街中でそんなモノぶっ放したらヤバいのでは』と危惧したりもしたのだが……なんでもこちらの弾頭、本来は宇宙空間での使用を前提としたものらしく、大気中では衝撃が著しく減衰してしまうとのこと。
……とはいえ、至近距離であれば炸裂の衝撃は『それなり』だ。
着弾位置から直径にしておよそ15センチを球状にズタる弾頭……いや、恐怖だな。
まぁ、そんなわけで。
威力や周囲への影響や備蓄数等から総合的に判断した結果、こちらの『榴弾』をメインとして用いようかという結論に至ったわけだ。
「……ゥ? んゥー…………かあさま、どう?」
「出来てる出来てる。偉いぞディン」
「んゥ〜〜!」
……そして、もう一点。
しばらくは私が直掩機として控えるつもりだが、最終的には彼女単独で出撃できることを目標としている。
そのため……彼女の身を護るための手段も、考慮しておくべきだと考えた。
「かあさま、にっこ、挑戦。ワタシ試行、並列処理、こころみます」
「わかった。やってみな?」
「ゥ!」
さほど広くはない
外見特徴としては、直径50センチ程のパンケーキのような形状である。例によってその構造を例えるのならば……一昔前に流行ったベアリング内蔵のヨーヨー、もしくは巨大なコードリールといったところか。
もともと私達【MODEL-Οδ-10294ARS】系統の機体には、自機周辺の惑星重力場へ干渉する『重力制御』系の機能が備わっている。
私はそれを浮遊や飛行に利用したり、戦闘行動時には急加速や急制動に転用しているのだが……同型機であるディンにも、当然その機能は備わっている。
その『重力を無視できる』特性を利用し、例の巨大ヨーヨーを機体周囲に浮かべ従え、物理的な『盾』として扱う。
浮かべた『盾』の位置制御は、後頭部から伸ばした有線接続ラインによる思考伝達によって賄われる。
極細のラインで繋がれた『盾』は、慣れればディンの意のまま自在に宙を舞い、あらゆる攻撃を弾き飛ばしてくれることだろう。
「……ゥ! かあさま! にっこ、できた!」
「よくできました。ディンは偉いなぁ」
「かあさま! ワタシ、労うを要請します!」
「はいはい。わかってますって」
「んゥ〜〜〜〜!」
弓なりに細められた目で、気持ちよさそうに喉を鳴らす娘、ディン。
その左右には【クレメンタイン】の銘を持つ新たなる機装……『コンポジットワイヤーアンカーリール』が二基、彼女を護るように侍っていた。
…………そう、ワイヤーアンカー。
毎度おなじみ地球外超硬金属フレームは、もちろん『盾』として充分な強度を発揮してくれるのだが……その本懐はというと、当然『ワイヤーを巻き取るリール』である。
『
安全確保のための備品を、本来の用途とは異なる形での運用を行い……あまつさえ武器として用いるという暴挙。
この乱暴極まりない振舞いには、さしもの異星人も
「かあさま〜〜〜〜」
「はいはい。甘えんぼだなぁお前さんは」
「かあさま、かあさま! 【クレメンタイン】、挙動数値制御! ワタシ、進捗状況の確認要請します!」
「そうだな。今度
「ゥ! ワタシ、要請を受諾します!」
何度か
【クレメンタイン】を意のままに操れるようになり、中近距離戦をこなせるようになれば、まぁ当面の心配は要らないだろう。
ただ、強いて心配な点を挙げるとすれば……まぁ一週間以上前から
とりあえず間に合せとして、私が【イノセント・アルファ】として振舞うときのモノと同様のキトンを纏わせているのだが……まぁ、さすがの高感度センサー群だ。なかなか物騒な見た目をしている。
シゴトのときは後方支援担当の彼女を遠距離に配し、所在を悟られないよう立ち回ることで事なきを得てきたが……中近距離戦を挑ませるとなると、さすがに注目は避けられまい。
普段着のほうは『エモトさん』のお世話になるとして……シゴト着のほうも、どうにかせねばならなさそうだ。
無警戒に擦り寄り、柔らかな胸部緩衝材を押し付けてくる娘に、ついつい溜息が零れそうになるが……しかし。
その溜息も、この気苦労も、可愛いこの子が原因であるというのなら……大抵のものは飲み込んでしまえることだろう。
この子が
その予感は……多分、間違いじゃない。
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