第33話 服・飾・資・料
今回私がこうして、書店へと足を運んだ理由。それを端的に纏めるのならば、ずばり服飾デザイン関連の書籍を漁るためだ。
こと『調べ物』という意味で考えるのなら、地表で例の有線接続タダ乗り回線で良い(※良くはない)のだが……どちらかというと今回は『資料を調達』して『持ち帰る』ことが主目的となる。
高度な通信能力を備えた
あるいは『前世の私』が、そのような通信ネットワーク関連の技能を修めていれば、まだ何かしらの解決策が浮かんだかもしれない。
しかし現状はなんの打開策も浮かばず、完全にお手上げといったところだ。各地の通信基地や人工衛星と電波を送受信して云々、ということは何となく理解できるが……どんな電波強度、どんな周波数で、どういった内容のデータを送り込めば良いのか、皆目見当がつかない。つまり無理だ。
よって現状、
どこかしらの図書館を当たろうかとも考えたが、どのみち戸籍が無いのだから貸出手続きも出来やしないだろう。
また作業にあたり、実際に資料を参照しながら臨みたいので、やはりここは所有権を所持しておきたい。また主な活用場所が成層圏の
そんな理由からエモトさんに助力を仰ぎ、教えて頂いたのがこちらの書店。
入店の際に
店員女性に声を掛けられ、そこで私の捜し物を伝えてみたところ……なんと、わざわざ売り場まで案内してくれたのだ。
お騒がせ客に対して、この丁寧な対応。なんてよくできた店員、寛大な店舗なのだ。
私に知り合いが多ければ積極的に紹介して回ったのだが……評判の向上に貢献できないのが心苦しい。せめて、ほんの若干ではあるが、売上に貢献していこう。
(んー…………どんなのが似合うんだろうな、この子には)
『提案。想定機装造成に関連する設備の不足に由来、可能な限り構造を簡略化させた機装の導入を推奨致します』
(ンな事ぁ本人が一番
『同意。分類魔法少女適用時の【イノセント・アルファ】外観仕様は、他『魔法少女』外観仕様と比較し単調な構造であると判断致します』
(ダサいって言ってくれても良いんだぞ。
『証言。精緻かつ華美である他『魔法少女』と比較し、非常に『ダサい』と判断致します』
(…………………………)
………………
……………………さて。
現在私が目を通しているのは、主に西洋方面の服飾史に関する書籍だ。構造を図解入りで示してくれているので、非常に助かる。
どうやって作られているのか、どんな形状の布地をどのように縫い上げているのか。私が知りたい内容がズバリ書き記されており、まさに『求めていたもの』だと言える。
ここへ至るまでにも何冊かに目を通し、なかなか良い成果が得られそうだと感じてはいたのだが……そんな中でも
衣装を構成するパーツの形状と、その組み合わせ方。構造さえ理解してしまえば――勿論、素材は
懸念であった肌触りに関しても、今となっては下着を上下とも調達できたことで、完全に払拭されたと見て良さそうだ。
ピタッとヌメッとヒヤッとしたあの絶望的な肌触りを、軽減あるいは防げるだなんて……下着とはなんて素晴らしいものなのだろう。
(コレか、コッチか……コレなんかも
『提起。分類『ブレー』に類する双筒分岐型機装は――』
(衣装な。もはや機装じゃない)
『了解。該当物品分類を再定義致します。提起。当該衣装は製造にあたり高度な技術を要するものと判断致します』
(だよなぁ。……となるとやっぱスカート系? でもはしたない格好はさせたくないし……ロングスカート系となると…………このへんか。うわ似合いそう)
『同意。個体『ディン』との外観的親和性は高く、要求性能を総合的に満たすものであると判断致します』
ぱらぱらとページをめくりながら吟味を繰り返し、調達すべき書籍を見繕っている私の隣。
色とりどりの背表紙や賑やかな表紙がずらりと並ぶ書架を眺め、ニコニコとお行儀よくしている娘を、ちらりと見やる。
私とは異なり……彼女は戦闘行動時においても、そこまで高速で
遠距離では【プロスペクター】による狙撃、中近距離では浮遊する【クレメンタイン】からの刺突や鞭撃で自衛する構想である。
……つまり、四肢の可動の妨げとなる布地があったところで、大した問題にはならないだろう。
むしろ清楚で静粛なロングスカートドレスタイプの装束は……一部私よりも『大き』な魅力を湛えるこの子に、とてもよく似合うと思う。いや間違いない。
それにしても……この子は、本当に良い子だな。
やはり見た目や言動は幼く見えても、その内面はきちんと一人前の自意識を確立できているのだろう。
店内ではしゃぎ回る幼子をおとなしく見つめ、ときに手を振りほほえみ返しながら……しかしそれでも私の傍を離れず、我慢強く『じっ』と待っているのだ。
「…………ディン、退屈してないか? 時間掛かってごめんな」
「ぅ、………………、……………」
「あぁごめん、喋って良いぞ。小さい声でな」
「……ぅー。だいじょぶ、ワタシ、見た目にぎやか、視覚的刺激は楽しい。所感を共有します」
「えらいなぁー、いい子だ。……何か欲しい本あるか? 買ってこうか?」
「…………ぅ? ワタシ、取得要求物品……自由指定の許可?」
「ああ。私はもう少し
「んゥ! 単独行動、いってきます!」
「…………静かに、な?」
「…………んぅ」
(スー、悪い。頼めるか?)
『了解。管制思考末端を当該機『ディン』へ分岐。
(助かる)
私の方では、購入予定物品の精査も既に終えている。私の服飾センス向上に向けて、期待を込めた一冊だ。
あとはこの場で時間を潰しながら、ディンが
退店時の防犯ゲートに関しては……先刻お騒がせしてしまったこともあり、会計後に店員が付き添ってくれることとなった。
最初から最後まで手を煩わせてしまい、申し訳ない。
このお礼は……全部纏めてで、重ねて申し訳なくはあるのだが。
この街、この国の平和を担保することで、勝手ながら返済とさせて頂こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます