第16話 衣・服・調・達



 あの鈍亀ドンガメほどの規模の魔物マモノを受肉させるにあたっては、恐らく結構なリソースを必要とするものなのだろう。

 どういう仕組みで奴ら『魔物マモノ』が出現するのかまでは知らないが……よくよく考えてみれば確かに、群れパックが生じた後なんかはインターバルを置いていたような気もする。


 なるほど、つまり…………いや、やっぱ詳しいことはよく解らんな。

 一体何処の何者が、そのあたりの規模や頻度をコントロールしているのか定かじゃないが……そもそも意思の疎通が図れるような、マトモな思考能力を備えている相手なのかも怪しい。


 とりあえず確かなことは、例の鈍亀ドンガメを魔法少女達と駆除し終えてから、束の間の平穏が得られたということ。

 ……そして、もうひとつ。




「んんーー…………これくらいなら、まぁ……なんとか?」


『称讃。計十六回に及ぶ試行の末、目標物の製造を完了したものと判断致します。おめでとうございます、艦長ニグ』


「あぁ。…………まぁ、本番はこれからなんだけど……な」



 例の『下着には絶望的に向いていない』素材を高集束レーザーにて裁断し、極小口径貫徹弾頭と複合積層ワイヤーを駆使して縫い合わせ、極小マイクロ焼結体セラミクス粒散耐候塗料を噴霧し、肌触りや色味を(可能な限り)整えたモノ。


 イノセント感溢れる金属光沢を始めとする素材の持ち味を全力で殺し、地球上の街中に埋もれていても(ギリギリ)違和感が無い(と言えなくもない)程度にまで貶めたモノ。


 円筒形の入り口と、反対側には小さめの出口と、その左右に枝分かれした円筒形の出口を持つ……一般的には『Tシャツ』と呼称される衣服に、可能な限り近付けた外見のモノ。



 それこそが、ここ一週間の時間と持てる技術を注ぎ込んだ、輝かしき私の戦果であり。

 遠からず覚醒を迎える【D型】と、他ならぬ私自身のため、『履き心地の良い下着を合法的に手に入れる』という至上目標を果たすための、大いなる第一歩なのである。




『報告。新造防護機装『ティーシャⅡ』簡易見識結果を御共有致します。頭部を除き機体上半身全域に渡っての防護が可能、保護層厚の削減により耐衝撃性能は劣るものの、腐食性薬液等の浸透に対する防護性能、および表面塗装に用いられた極小マイクロ焼結体セラミクス粒散耐候塗料による耐高温環境性能が見込まれ、資材情報より推定される耐熱温度上限は摂氏表記3,640度と推定されます』


「シャツイチで大気圏突入でもさせる気か。そんな情報要らん。そもそも防御用の装備じゃない」



 デザインは非常にシンプルな、ごくごく普通のロングTシャツだ。色合いは明るいグレーをチョイス。……まぁ母艦の外装色だな。

 積載物リストとにらめっこして見つけ出した粒子系断熱塗料のお陰で、素材のツヤツヤを覆い隠してマットな質感の表現に成功している。

 完全に『布地』とまではいかないが……まぁちょっと変わった『こういう素材』のTシャツだと思える程度の仕上がりにはなった。


 ただ塗料のデメリットとして、塗装面が多少ザラザラした肌触りになってしまうため、直接スキンに触れる裏側には塗布していない。

 引き続き、これまで通りの感触と肌触りに悩まされるだろうが……だと思えば、乗り越えられそうだ。


 そうとも、何せ私は……あの布(と呼ぶも烏滸おこがましい肌触りのシート)で作られた下着ふんどしを身に着けたまま、魔法少女と肩を並べて鈍亀ドンガメ退治をこなしてみせたのだ。

 あのときに比べれば、その程度……懸念にも値しない。もう何も怖くないわ。




「そういえばスー、あの子……【D型】の進捗は?」


『報告。処理中枢オペレーティングシステムの構築中。フォニアルデータストリーム及び当艦長期記録モジュールより必要な情報を抽出、インストールを行っている段階であると報告致します』


「書き込み中、ね。……次降りたら、また情報収集してくるか。サンプルが多けりゃ理論構築も捗るだろ」


『要請。更なる構築効率化のため、追加となる情報回収を要求致します』


「はいはい。……まぁ、どのみち私のほうも『調べもの』から始めなきゃならんからな。……行ってくるかぁ」




 例によって、スーおよび母艦の管制思考を【D型】の調整と地球上の索敵に割り振り、私は自力で転送装置を制御下に置く。

 今回の目的地も、当然のように地表。目的を踏まえると、周囲に人けや人々の営みが少ない方が良いだろう。


 地表へ向けた観測機器を操り、良さそうな立地を見つけ出す。目星を付けて転送装置に諸元座標を入力し……準備完了だ。

 新装備である『ダボT』もバッチリだし、いつもの装束キトンも念の為に階差領域倉庫の中へと収めてある。何も問題ないだろう。

 ……というか別に、問題があったら揚星艇キャンプへ戻れば良いだけだ。




「転送、開始。……何かあったら報告頼むぞ」


『了解。行ってらっしゃいませ、【イノセント・アルファ】』


「今日は非番プライベートだクソポンコツ」



 今日は【イノセント・アルファ】ではなく、ただのいち個人探査機『ニグ・ランテート』として。

 ほんの僅かだが現代文明に近付いた身体機体が足先から転送の光に解けていき、また身に着けていた『ダボT』も問題無く転送されていき。



 ……そしてそこで、このタイミングで、私はに気がついた。気づいてしまった。





(……………………いや、だって……【D型】がね、デカいから。どこがとは明言しないけど。……だから、そもそもこの『ダボT』がね、【D型】も使い回せるサイズで作ってあるから。もともとサイズに余裕あるから。だぼだぼの……まぁつまりオーバーサイズってやつで…………だから袖もダボッてるけど、ちゃんとから。から。足振り上げたり、捲られたり、覗かれたりでもしなきゃ……大丈夫だから。多分)


『所感。艦長ニグの突発的思考が理解不能であることを御報告致します。先程の思考内容について、状況説明及び詳細解説を要求致します』


(はき忘れた。それだけだ、気にするな)


『了解。艦長ニグの『ハキワスレタ』は不安視の必要が無いものと定義致します』




 …………まぁ、大丈夫だろ。多分。




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パンツないなった(最初からない)

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