第6話 状・況・改・悪
『――続いてはこちらのニュースです。全国各地にて目撃情報が相次ぐ、
「……………………」
『――異聞探索省によりますと、この
「……………………」
『…………えー、我々異聞探索省としましても、今回の件を極めて重く受け止め、公務への協力意思にかかわらず、
『――
「……………………」
『登録。艦長ニグの識別名を【イノセント・アルファ】へ訂正』
「するなアホ。誰が家出魔法少女だボケ」
…………聞いてない。
いやまあ、身元を明かしてないんだから連絡なんて来るわけが無いのだが……だとしても
ここ数日、私は寝る間を惜しんで(まぁ眠る必要も実際は薄いのだが)日本各地へ転移を繰り返し、そこそこの数の『
その甲斐あって、と言うべきだろう。私が介入を開始する前のニュース記事には『魔法少女の負傷』情報が少なからず散見されていたのだが……少なくとも、ここ数日はそんな記事は上がっていない。
代わりに増えたのが、先程【イノセント・アルファ】と名付けられた
私が取材に応じていない以上、当然と言えば当然だが憶測が極めて多く、信憑性など無いに等しいのだが……ソレが結構な閲覧数を記録しているのだから、全くもって理解に苦しむ。
トドメに、こともあろうか『魔法少女』呼ばわりと来たものだ。私の格好のどこに『魔法少女』要素があるというのだ。ただの布だろうに。
例によって『
かつてこの船を支配していた異星人は、その体格こそ小柄な
なので私は、現在進行形で『衣類』あるいは『衣装』の類を、身に着けていない。
とはいえ当然、全裸であるわけではない。
さほどの羞恥心は感じないとはいえ、少なくとも幼気な少女を模した造形の身体だ。衆目に晒すのは色々とマズかろう。
……などと考えた私が身に纏っていたのが、金属のような光沢と質感を持ちシリコンのような柔軟性を持つ、布地のような『何か』だ。
異星人どもの肌の質感にどことなく似ている気がする、その『布』。……ともすると医療用パッチだとか人工スキンだとか、そんな感じの備品だったのかもしれない。
ともあれ私の身を守っていたのは、つまりは
あるいは、
しかしながら、私の名は当然【イノセント・アルファ】なんかではない。惑星地球原生知的生物型地表探査機【10294ARS】、個体識別呼称は『ニグ・ランテート』。
……由来は製造担当者のペットの名前らしいが、まぁ良い。鬱憤は既に晴らしてあるのだ。現在はこちらの名で通しているし、母艦の管制人格スーにもそう登録してある。
所詮は死人だ。人間だった頃の名前は……もう名乗る必要も無いだろう。
「……で? 何の用だ、スー」
『報告。戦闘用外部骨格【TDE-1097/PA】の改修処置が完了致しました』
「わかった。一旦母艦に戻る……が、地上の監視は継続しててくれ。ヤバそうなのが出たらすぐに呼べ」
『了解。指定エリア内の敵性存在監視を継続。艦長ニグの転送を開始致します』
この
一方的な義憤のもと、人々を脅かす
照明のほとんどが落とされ、底冷えする冷気に充ちた艦内を進み、やがて格納庫に隣接する倉庫へと辿り着く。
大型ハッチのすぐ側、片膝を突く体勢で安置されていたのは……立ち上がれば3メートルに達しようかという、巨大な全身鎧だ。
曲面主体の装甲板は、黒々と光る超硬合金。たかが観測機であるこの
小柄な私の眼前で跪く巨体、その背中の装甲板が『ばっくり』と割れ、そこには搭乗のための狭い空間と、ケーブルやコネクタの沼が姿を現す。
元々が小柄な異星人用の強化外骨格であり、奴ら程ではないが小柄な体躯の私であれば、膝を畳めば潜り込むことは可能である。
操縦においても、問題無い。私にとってはスロットルやレバーの類を操る必要など無く、頭髪(を模した単分子ワイヤーの束)の中に隠された二対四本の『金属の触手』を、所定のコネクターへと接続する。それだけだ。
『質問。調子は如何でしょうか、艦長ニグ』
『問題無い。動きに違和感も無いし、出力も桁違い。……良い感じだ』
『報告。敵性存在の出現を感知致しました。脅威レベル指定値よりも幾分下がりますが、如何致しましょう』
『あー…………まぁ、せっかくだ。試運転と洒落込もうか。装備は?』
『回答。【TDE-1097/PA】内蔵機装に加え、携行装備として切断機装:
『どうせなら使ってみるか。……転送頼む』
『了解。艦長ニグおよび戦闘用外部骨格【TDE-1097/PA】、指定座標への転送を開始致します』
数値上では、軽く数倍は跳ね上がった戦闘力。この装備があれば今まで以上に『駆除』が楽になるだろう。
勝手に【イノセント・アルファ】などと呼称され、魔法少女呼ばわりされるのは予想外だったことだし……今後は
まぁ……そんな私の思惑は、ものの見事に大ハズレとなったわけだが。
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