第38話 みだれの心に天使はいない
テテが目を覚ました。場所は学校の屋上だ。
ランちゃんと二人で、一生懸命連れてきたのです。意外に重いんだぜ、こいつ。
「なぜ私はこんな場所にいるのかな?」
「なぜって、僕たちは小学生だぜ。登校は学徒の責務だよ」
「わからないなぁ……。家族は?」
「警察に通報されたら面倒だからね。今も縛られてもらっている」
「もう君は二度と家族を好きだと言うんじゃない」
談笑もほどほどに。
テテは本題に入った。
「私を拘束しなくていいの? 手ぶらでも君くらいなら殺せるよ」
「だとしたら残念だ。ランちゃんが怒って世界を滅ぼすだろうけれど、僕はその様を見届けることができない」
「脅しが冗談になっていなくて怖いよ。いやー、ぬかったなぁ。祝福の世界ですら、あんな化け物だったのに。まさか『あれ以上』だったとは」
テテは翼も輪っかも隠していた。
すると途端に、普通のお姉さんに見えるのだから不思議だ。
そっちの方が親しみやすくていいと思うよ。
「で、みだれは私にどうして欲しいの?」
「考えたんだ。僕の心には天使がいなくて。だから僕はテテの敵で。ならさ——」
夏の予感を引き連れて、一陣の風が吹く。
幸せタッチなんて目じゃないくらい、楽しい世界が今からやってくる。
「テテが僕の心になってよ」
テテが僕の良心になり、僕と共に誰かを幸せにしてあげよう。
僕は自分のためにしか頑張れないけれど。
テテが僕を好きだと言ってくれるのなら、それだけでいくらでも頑張れちゃうから。
ランちゃんと、きぃと、テテがいる。充分とはいかないまでも、それだけあれば腹八分目だ。
ついでにフェスタがいたのらなおいいけれど、あいつはどっか行っちゃった。
バカなやつ。こんなにもワクワクなのに。
早く帰ってこい。
「私の心は波乱だぜ? 今だって、きぃのために世界を滅ぼそうとしている」
「テテは不器用だよ。そんなことしなくたって、きぃは幸せになれる。だって、この僕ですら泣けたんだぜ?」
きぃは作曲という使命から解放された。
彼を縛るものはもう何もない。
彼は度を越してネガティブだから、最初は泣いてばっかだろうけれど。
「まずはランちゃんと三人で会いに行こうよ。そんで友達になるんだ。無理ならぶん殴ればいい」
人が幸せになるために必要なのは、大天使の祝福なんかじゃない。
こいつがいるから生きていてもいいかなって思える程度には、気心の許せる仲間だよ。
友達でも。恋人でも。バンドメンバーでも宿敵でも家族でもなんでもいい。
それだけあれば生きていける。
生きていてくれるだけでいい。
だって空は青いから。綺麗だ。素敵だ。
世界は幸せで溢れている。
そのことをみんなに教えてあげなくちゃいけない。
こんなにも楽しい世界に住んでいて、不幸だなんて言わせない。
人の幸せが自分の幸せ? 違うね。
「世界は僕のもんだ。僕がいるから、みんなまとめて幸せにしてやれる」
僕の幸せが、みんなの幸せになる。
みだれの心に天使はいない。
だが。
世界にはみだれがある。
みだれの心に天使はいない 海の字 @Umino777
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