最終楽章

第35話 活動日記257612

 活動日記6。


 此度のみだれの標的は星3天使。

 祝福は『自殺願望』。


 誰しもが一度は抱いたことのある『死にたい』という感情を湧き立たせ、自殺を強いる異能だ。


 天使はインターネット上で自殺サロンを運営していた。


 みだれはきぃの遺品であるスマホを活用して、故意に天使との接触を図った。


 無論祝福を行使されたが、彼には一切の自殺願望がなく、効力は発揮されなかった。


 むしろ天使こそ死にたがっている事実を看破し、自殺させることに成功した。


 帰りの電車でみだれは違和感を覚えた。


『関西より外の路線図が曖昧だ』




 活動日記7。


 みだれは見学のテイで神戸新聞社に潜入していた。標的は星4、『記者天使』。


 こいつの祝福は非常に強力、『記事の内容を読者に信じさせる』ことができるというものだ。


 記者が記した活字は、内容の如何にかかわらず、読み手からの信頼を自動的に勝ち取ってしまう。


 宇宙人の実在。世界滅亡のシナリオ。強盗は二十歳以上であれば許される。


 これらを信じた読者により、神戸の治安は悪化の一途を辿っていた。


 ついにはみだれが乗り込むにいたるわけである。


 みだれは記者を討伐することなく、むしろ盟友と呼べるほどの仲に発展した。


 利害が一致したからだ。

『世界をめちゃくちゃにしてやろう』と。


 だがみだれは違和感を覚えた。

 なぜこんな出鱈目な記事を、そもそも出版できたのだろう。


 過去の記事を読み漁る。

 なんと記者天使が台頭する直前の紙面は、『白紙』であった。


 それだけでない。テレビを映せば見たことのあるような映画の再放送ばかり。


 発売予定のゲームはどれも無期限の延期を表明しており。


 楽しみにしていた新刊は、作者の急死により打ち切りとなった。


『世界が停滞している』




 活動日記108。


 みだれには今や百人の配下がいた。全員が天使であった。


『祈りの會』の信者を含めた、関西にて活動するほぼ全ての天使を下し、手中に収めたのだ。


 いつしか『天使墜とし』は、みだれを意味する二つ名になった。


 目的は国家転覆をなしとげ、『独立国』を建国するためである。

 天使による、天使のための、幸せな国。


 無論日本国は天使達をテロリストと断定し、徹底的に交戦した。自衛隊との熾烈な戦いは史上稀に見る内紛となった。


 勝ったのは自衛隊。


 だが死体の山中に、みだれの姿はなかった。

 

 飽きて辞めていたのだ。


 理由はひとえに、敵に個性がなく面白味に欠けていたから。


『みんながのっぺらぼうにみえる』。




 活動日記257612。


 私が記す活動日記もこれで最後になるだろう。


 みだれはついに五度目となる、『人類全滅』を成し遂げてみせた。


 だが、やり直す意味はとうにない。


 世界から違和感を取り除くための装置、『フェスタ』が消失した今、次の世界も今回と同様の問題が発生してしまうから。


 みだれはすぐに世界が偽りのものだと気づき、今みたく『好き勝手』に遊び始めてしまうだろう。


 みだれは強欲だ。

 世界で一番。

 その丈は神すらも凌駕する。


 幸せタッチ程度の。

 みだれが『想像できる』範疇の幸せでは、彼を満足してやれない。


 私が幸せにできなかった者はこれで二人目だ。


 絶望のきぃと。

 幸福のみだれ。


 二人は奇しくも、再び相対した——。

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