第17話 Count raccoon's fur before they are hunted
「で、だ」
ひとしきり笑い、例の『新兵装』についてのご高説を賜った後、ユーマはそう切り出した。
「最後はアレだったが、試験自体はあれで一応、終了・・・ってことで良いんだよな?」
「え?ああ、そうだね。最後のアクシデントも、発射自体は問題なかったから・・・うん。細かい運用チェックは兎も角、チェックリストに則った試験は終了だね」
それが?と首を傾げるセリエア。その動きに合わせて細く質の良い髪がサラサラと流れ、ふわりと甘い匂いが漂う。
「なら、明日から俺たちはどうなるんだ?」
「何を・・・ああ、そういうこと。そうだね、君は確かに、教官って柄じゃ無い」
可笑しそうに喉を鳴らすセリエアだが、彼女の言う通り、ユーマにキョウズイのようなアグレッサー役が務まるとは自分でも思わない。と言うより、エフリードみたいな極端な鋼騎相手の模擬戦なんてしても、訓練になんてならないだろう。
「そうだね。じゃあ、お役御免かな?」
「だと良いな。流石に働き過ぎだ、休みが欲しい」
「いえいえ。どうも、そうは問屋が卸さないようでしてね」
リラックス状態の背後から不意にかけられた声に、二人は揃ってビクンと体を上下させた。
「び、びびびびび、びび!」
「吃驚したろうが、キョウズイ」
驚きのあまり心臓を抑えるセリエアに代わり、立ち上がって振り返ったユーマの前にいたのは予想通り、相変わらず香港マフィアみたいな恰好のキョウズイだ。
「・・・うう、吃驚した。ああ、バクバクいってる。痛い、痛い」
「おっと、そいつはすいやせんでした、姐御」
ペコリと頭を下げるキョウズイだが、その顔に悪びれる様子は微塵も無い。他人を驚かして喜ぶ趣味が無いのは知っているが、他人を揶揄って遊ぶ趣味はあるのが、このキョウズイという男なのだ。
「まったく」
色々と邪魔をされて軽く頭にきたユーマは、キョウズイの元までツカツカと肩をいからせて歩み寄る。
「おや?どうなさいやした、旦那」
「空気を読め、とは言わんがな。最低限、不意を突くのは止めろ」
そういうのは敵にやれ、と人差し指でキョウズイの剣骨辺りをユーマは気持ち強めに小突く。しかし、キョウズイはまるで堪える感じを見せず、背後の格納庫の入り口付近を顎でしゃくり指した。
「ですがね旦那、お客さんでやすぜ」
その言に「ああ?」と彼を退かせてユーマがその方を見遣ると、そこには予想外の存在が立っていた。
「お客さんとは、ええと、そちらの・・・・・・大尉さん?」
憶えたての知識を脳みその奥から引きずり出し、肩章から階級を読み取る。
とは言え、マンティクスは軍組織であるから軍人自体が珍しい訳では無い。第一、彼らの既知であるトーリス中佐も礼装姿ではあったが、軍服を着た軍人だ。
予想外と感じたのは、その性別。節制のとれた体躯を規則通りに着込んだ軍服で包み、亜麻色の長髪を1本の乱れも無く後頭部へ纏めているその姿。それは成程、確かに軍人だが、同時にまごうこと無い女性そのものだった。
「はい。クラリシェ・ハースホンファー大尉です。どうぞ見知り置きを」
その女性士官、クラリシェはキッチリと、心棒でも入っているんじゃないかと疑わしいほど寸部の狂いない敬礼を以てその身の上をひけらかす。あまりにキッチリし過ぎて新人の見本にさせ辛いほどキッチリした敬礼が、見た通りの彼女の為人を言葉より雄弁に表していた。
「あ、はあ・・・はい」
対して、そういうことに慣れていない・・・どころか、真面にやったことすら片手の指で数えられる程度のユーマである。曖昧に微笑むとヒョイと手をかざす、形ばかりの敬礼で返礼を行った。セリエアに至ってはさっきのドッキリのせいで胸を抑えてグッタリと肩を落としたままの有様だ。
「・・・・・・成程」
キラリと光る視線と一瞬顰められた眉の動きが、ユーマたちをどう品定めしたのかを示す。敬語なのは形ばかり、こちらへの敬意は少なくとも無いようだ。
「兎も角、任務の話です。どこか場所を、キョウズイ准尉相当官」
「へえ?でやしたら・・・旦那?」
「ああ、コントロールルームで良いだろう」
トーリス中佐と、ヤムカッシュ要塞の話をした場所だ。仕事の話をする場として不都合は無いだろう。
「承知。では大尉、お部屋へご案内いたしやしょう」
「結構です。軍の装備ですから、場所は良く分かりますので」
そう言って、クラリシェはユーマたちを一願だにすることなく踵を返し、足早に格納庫を去って行く。慌ててキョウズイがその後を追うのを、ユーマたちはポカンと眺めるしかなかった。
「・・・・・・何だい、アレ?」
「俺にも分からん」
ピシャリと通路へのドアが閉まったところで、耳元でそう囁いたセリエアに対し、ユーマは大袈裟な動きで肩を竦める。
「ただまあ・・・見たところ、彼女のお眼鏡には適わなかったようだな」
「何のさ?」
「そりゃあ、あれだろ。軍人としてのあれやこれや」
クラリシェが自分を基準とするならば、今のユーマたちはさぞや不良軍人に見えたことだろう。
「そんなこと言われたって・・・ボクたち、別に軍人じゃ無いのにねえ」
そう言って苦笑するセリエアに同じような苦笑いで同意しつつ、ユーマはコンテナから尻を離した。ああいった手合いは待たせると良くないことくらい、流石に学生程度の経験しか無いユーマでも良く知っている。
「ほら、行くぞ」
「分かってるって。しっかし・・・どんな仕事だろうね?」
さあな、と再び肩を竦めつつ、ユーマは確信を持って言った。
「まあ間違いなく、今までよりは楽な仕事だろう」
「どうしてだい?」
「若し今までみたいな仕事だったら、中佐本人が来るだろうからさ」
そして、あの有無を言わさぬ笑みで押し付けてくるに違いない。その意見に「ふふ、間違いないね」と鼻で笑うセリエアを背に、ユーマは扉の開閉ボタンを押した。
(・・・はてさて、鬼が出るか蛇が出るか)
「では、改めて自己紹介を。小官は帝国軍軍師府(ぐんすいふ ※ 参謀本部)所属、クラリシェ・ハースホンファー大尉と申します。今は特別任務として帝国軍外郭団体マンティクス軍務都尉トーリス=ノイシュタイン大佐の特殊幕僚を務めさせていただいております」
「長々とご丁寧に・・・ん?ノイシュタイン『大佐』?」
確かあの人は中佐だったはずでは、と首を傾げるユーマに、クラリシェは無知を嘲笑うかのように「ふっ」と鼻で嘲笑う。さっきのセリエアのそれとはえらい違いだ。
「彼は先日の編制課会議で大佐へと昇進され、外務尚書僕射(ぼくや ※ 補佐官)を兼任されることになりました。更に、何事も無ければ近日中にも准将へ昇進なされるでしょう」
「成程ね。精々、大尉も肖(あやか)ると良い。それじゃ、俺たちも自己紹介でも・・・」
「不要です」
ユーマの当て擦りに微かに眉を顰めた大尉はその次の言葉を一刀両断し、手元のファイルへ目を落とす。
「マンティクス所属の戦闘小隊、編制コード:ドゥンゲイル。ユーマ・コーナゴ准尉相当官、キョウズイ・キョウズイ准尉相当官、セリエア・ツィツィーナ中尉相当官?・・・お間違いは」
「無いよ」
「姐御の言う通り。ま、あっしの名前が冗談みてえってのは置いておいて下せえ」
確かに、とユーマは心の中で頷く。彼も初めて聞いたときには「この世界では普通なのかな」と納得させたのだが、大尉の言いぶりから考えるに、どうやらこの世界でも変わっているようだ。
「しかしセリエア、そんな階級だったんだな。大尉よりも1個下じゃないか」
良く見ていたアニメーションの中では、整備や技術をやっている軍人は大抵が軍曹や兵長なんかだったものだが。
「静かに」
そんな彼の疑問を察したか、はたまた『1個下』と言う言い草にカチンときたのか、恐らくは後者だろう。クラリシェはパンパンとファイルを叩き注意すると、
「予め言っておきます。相当官とは、飽く迄地方人(※軍人で無い者)を軍に参加させる際に設ける方便のようなものです。昇進もなければ、正規軍人への命令権もありません。良いですね?」
そう、居丈高に言い放った。オブラートに包みもせず「お前たちと私は違うのだ」と嘯くクラリシェの言い様に、流石にユーマもカチンときた。
「それは・・・」
「そんなこと、分かってるさ大尉。それより、仕事の話をしてくれないかい?」
思わず反駁しそうになったユーマの機先を制する、セリエアの何と大人なこと。
ただ、彼女が無礼者に対して大人になるのは「怒る価値も無い」と諦めた時だから、思うところは彼と同じか、より酷いと言ったところか。
そんなこととは露知らず、クラリシェはツンと高い鼻を更に高々にして、ファイルのページを捲り上げる。
「失礼。それでは、依頼内容を説明させていただきます。帝国軍外郭団体マンティクス、その各隊は明後日開催される閲兵式への参加が決定しています。従って、貴方たちドゥンゲイル隊も、それに参列していただきます」
「閲兵式・・・味方と模擬弾でドンパチやるのか。成程、俺向きだ」
ユーマは、前に見た総合火力演習のビデオを思い出して、そう言った。至って真面目に、真剣に。
「・・・何でそうなるんだい、ユーマ」
しかし、それに対してセリエアは呆れ返ったような声を上げる。
「違うのか?」
「違うも何も・・・旦那の言うそりゃあ、演習でしょうや」
ユーマの自分の発言にいささかも疑問を抱かない眼差しにガックリきたセリエアに代わって、キョウズイが説明役を引き受ける。
「一緒じゃ無いのか?」
「違います。そう・・・旦那にも分かり易く端折って言いやすが、閲兵式ってのはつまり、軍隊のお披露目式のことで」
「へえ、違うのか。で、ドンパチは?」
「しやせん」
バッサリと、ユーマの想像は慈悲無く一刀両断された。
「実際の戦闘行動で無く、動きの揃った行進なんかで兵の技量を見せることで・・・ああ!パレード、と言う方が分かり易いでやすかね」
その説明に、ようやくユーマの眼から鱗が落ちた。頭の中を流れていた映像も戦車の一団が一斉射撃をするものから、歴史の授業で見た第三帝国総統の前を通り過ぎる兵隊たちにシフトする。
「成程、パレードか」
「見せるのは一般大衆で無し、皇帝陛下でやんすが・・・ま、それで良いでやしょ」
「良くありません。特に、さっきのような不始末は重々に謹んで頂かなければ。お分かりですね、コーナゴ准尉相当官?」
「・・・ああ」
あまり呼ばれたくない名字で呼ばれたことは不快だが、この女性士官がそんな機微に慮ることは無いだろうと早々に諦めをつける。それに、さっきの不始末を出されればユーマの側は黙るしかない。ブスリと頬杖をつくのはせめてもの抵抗だ。
しかし、それを見咎めたハースホンファー大尉は「む?」と眉間に皺を寄らせる。
「そもそも・・・数合わせとは言え、恐れ多くも陛下のご尊顔を賜るのですよ?何ですか、そのやる気の無い態度は?」
「そんなことを言われてもな・・・」
ユーマにとって、この世界の皇帝陛下への思い入れは全くと言っていいほど無い。傭兵として雇ってくれたのはトーリス大佐だし、給料やサービスの提供は組織からのものだ。『偉い人』と言うのは分かるが、じゃあ「会って泣けるか」と問われれば・・・。
「俺は帝国人じゃ無いしなあ・・・。キョウズイは?」
「ノーコメント。ただ、生粋の帝国人じゃ無いってことだきゃあ、間違いありやせん」
つまり、この3人の中で感涙に噎び泣きそうなのはセリエア1人と。そうなろうか。
しかし、そんな彼らの態度は模範的な帝国軍人であるクラリシェからすれば不遜極まりないのだろう。眉間の皺はそのままにピキリ、と額に1筋の青筋が浮かぶ。
「ハア・・・まあ、良いでしょう。所詮、貴方がたは金目当ての雇われですから、我々のような忠誠心は求めていません」
しかし、怒っても意味が無いと悟ったか。大きな溜息でその怒りを何とか逃がしたようで、再び何でも無いような顔に戻すとユーマたちに1冊の本を手渡した。
「これは、大尉?」
「閲兵式での動きを記したものです。当日は、この通りに動いてもらいます」
ふうん、とパラパラとページをめくると、そこには詳しい図説で行進の方法や細かな動きが記してあった。分かり易いのは良いが、その分ページ数が嵩むのか、その本はユーマにしても少々重い。
「ご丁寧に悪いが、データでは無いのか?」
「ありません」
相変わらず、その態度には取り付く島もない。
「閲兵式は帝国軍の伝統ある行事。従って、本案件は皇室に係る重要事項です。軽々に取り扱って良い代物では無いのです。ですから、資料はそれと・・・これです」
そっと、大尉が手元のファイルから取り出したのは1枚の情報ディスクだ。
「これは、行進の教練用に作られた資料映像です。よろしければ、お使いください」
「珍しいね、レーザーディスクだ」
物珍しそうに明かりに透かしてそれを見るセリエアを他所にページを捲っていたユーマはあることに気が付いた。
「なあ、大尉。これを見る限り、行進の様子には人間しか書いて無いが。・・・俺たちは兎も角、セリエアはどうするんだ?」
当たり前だが、帝国伝統の行事と言うことは、機械文明なんて無いころから変わらない様式ということだ。人型ロボットたる鋼騎はその真似事をすれば良いとして、エンジニアでドライバーであるセリエアはどうするのだろうとは、当然の質問だ。
「まさか、ボクだけ歩いて行進を?」
「それこそ、まさかです。セリエア中尉相当官は他の非戦闘員たちと1両の式典車両に同乗し、行進に同行していただきます」
そして、『当然の質問』には当然に回答が用意されているものだ。クラリシェはスラスラと読み上げるようにその疑問へと答えた。
「成程、成程。じゃあ、実際に苦労するのはあっしと旦那だけ。まあいつものこって」
「そう言うことです。当日は精々、練習不足で恥をかかないように。それと・・・」
「まだ、あるのか?」
ゲンナリした表情のユーマを、クラリシェは華麗にスルーする。
「明日に陛下が帝都からお見えになられますが、その際には当基地の滑走路が使用されます。また、それに加えてこの基地の兵や学徒への慰問を行われる予定ですから、明日は基地内での鋼騎の運用は禁止となります」
つまり、不測の事態に備える為の、警備上の制約ということだ。
「そうか。セリエア、シミュレータは?」
「使えるよ。でも・・・やっぱり動きを見ておいた方が良いだろうけど・・・」
恐らく、明後日の当日はここからその離宮まで動かさなければならないのだろうから、そんな時間は無い筈だ。
「そう言うと思って、用意しておきました」
してやったり。そんな顔でクラリシェが取り出したのは、3枚の封書だった。
「明日、他のマンティクスの各隊へは周辺の哨戒任務を当てがってあります。ですので、貴隊にも同じものをお渡ししておきます。詳細は読んでご確認を」
「ふうん。至れり尽くせり、だな」
「ええ。帝国軍としても、明後日の式典は万難を排して行われねばなりませんので。それでは」
最後までニコリとも笑わず、ユーマたちが封書を眺めている間にカツカツと足音を立て、クラリシェは部屋の扉へと向かって行く。
「・・・ん?あ、ああ、大尉殿。お見送りを・・・」
「不要です。では、当日に」
手を伸ばすキョウズイをピシャリと断り、形ばかり頭を下げると同時にシュン、と扉は無機質な音を立てて、両者の間を遮った。
「・・・・・・ふう」
ドアが閉まりしばらく歩いてから、クラリシェは大きく溜息を吐いた。
「予想はしていましたが、あそこまで不真面目な連中とは」
彼女が振り返るのは当然、さっきまで話をしていたユーマたち、ドゥンゲイル隊の面々だ。口の中で転がすような独り言だから部屋にいる彼らには聞こえないだろうし、そうでもしなければ彼女の怒りの持って行き場は無い。
「あんなのを重用するとは、あのトーリス大佐も見果てたものです」
そして、愚痴はとうとう彼らのトップであり今の彼女の上司であるトーリス=ノイシュタインにまで飛び火する。
そもそも、彼女自らトーリス大佐の幕下に加わりたいと申し出たわけでは無い。彼女としてはこんな傭兵組織なんかで無く、中央のエリートコースで出世したいのだ。だから、彼女の今の一番の望みはトーリスが失態を犯して失脚し、マンティクスから解放されること、それだけ。
「そういう意味では・・・ふふ、いい気味です」
だからクラリシェにとって、この閲兵式にあの連中が参加することは実に望ましい。それも今の連中なんかは満点だ。
そう、閲兵式の行進だ。昔からこの為だけに多くの日数を練習に費やし、そして晴れ舞台を迎える、そういうものだ。とても1日で習熟することなんてあり得ない。
「大佐も、自分の部隊を参加させるなんて・・・とんだ毒餌に釣られたものです」
勿論、大失敗では彼女の進退にも関わる。だから図説も映像資料も渡したし、そもそも彼らが担当するのは第8段、所謂新たに足下へ加わった蛮族が担っていた段だ。多少のぎこちなさは許容されるから、彼女の責任問題にはならない。
しかし、あの男はどうだろう。自信満々に―少なくとも彼女にはそう見える―に参加させた部隊の動きが出来損なっていれば・・・少なくとも、ダメージは間違いない。それに加え、あの不真面目な連中も練習には今日と明日しかない。さぞや寝不足と緊張に苦しんでくれることだろう。
「ふふふ・・・」
あのニヤケ面が歪むのか、それとも落胆するのか。どうなるにせよ、それは大層な見ものになるだろう。それを想像するだけで笑みが零れる。
「ああ・・・早く明後日になりませんかねえ」
ペロリと舐めたルージュの苦ささえ、今の彼女には甘美に思えた。
「で・・・どうだい、ユーマ」
「そうだな・・・動きについては、特段変わったものは無いな」
クラリシェが出て行ってから、提供された映像と教本を見比べていたユーマはそう断言した。
「ま、そりゃそうでやしょ。いくら皇帝の前だからと言って、軍人が新体操しても意味ありやせんから」
「人がやろうが機械でやろうが、そこは同じと」
「ま、だからこその人型ロボットだからね」
セリエア言う通り。人間が行うことのスケールアップで対応出来るのが人型ロボットの数少ない利点なのだから、そこから逸脱しては本末転倒だ。
「で、旦那としちゃあ、どれくらいで出来そうで?」
「そうだな・・・」
問われたユーマは教本に記された行動ルーティンと、エフリードに記録してある行動パターンを頭の中で突合してみる。
「試しにプログラムしてみて1時間、それの検証と修正に1時間、あとは実際にやってみて・・・」
「それは、明日の哨戒任務中にやれば良いんじゃない?」
「だな。だから、その後の微調整も加えると・・・・・・ん、正味3~4時間もあれば余裕だろう」
勿論、どうしても上手くいかなかったり重大なバグでも出たりすれば話は別だが、この程度の動きを組むのにそこまでの事態は生じないはずだ。
「なら、必要なのは2日で4時間強と。それも大方の苦労は旦那だけとくりゃあ、あっしと姐御はよく眠れそうでやんすね」
「それは良い。寝不足はお肌と美容の天敵だからね」
そうは言うが、セリエアが両掌で持ち上げる頬の瑞々しさは、そんなことを考える必要など無いようにユーマには感じられたが。まあ、こと女性の醜美に関しては男が軽々に口を出すものじゃない。
「なら、一先ず飯にしよう」
壁にかかった時計を見れば、もうすっかり18時を回っている。腹を抑えれば今まで抑圧されていたのを急に解放されたせいか、クウクウと痛む。
「だね。じゃあ、宿舎の食堂に急ごう・・・」
それはどうやらセリエアも同じだったらしいが、彼女の腹はユーマのそれよりも堪え性が無かったらしい。話している最中にフライングして「グウ~」と大きな音を立てた。
「・・・か。ハ、ハハハ、ハア・・・」
恥ずかしさに顔を真っ赤にするセリエアを男2人は華麗に無視して後片付けと外出の準備を進める。
薄情かもしれないが、誰しも食事の前に頬を火傷したいとは思わないだろう?
つまりは、そういうことだ。
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