第27話 The reason for fightig what and why

「・・・とのことだ、ドゥンゲイル0」

「そうですか。まあ、オープンなんでこっちにも聞こえてましたけど。わざわざ、それを伝えに?」

 セリエアが小首を傾げるのも無理は無い。同じ室内とはいっても管制官の彼と端っこに追いやられた彼女の位置は結構離れており、かといって自ら伝令兵をしなければならないような内容でも無い。

「ああ。誤解しないで欲しいのだがな、我々は貴官らを気に食わんとは思ってはいるが、その戦闘技能まで疑っている訳では無いのだ」

「はあ」

「そして、現状貴官らは友軍の為に体を張っている、友軍としてな。従って、これは友軍に対する礼節の一環であり、個人的な返礼だ。気にする必要は・・・」

「ドルーシュ少尉、持ち場に戻り給え!」

「・・・無い、と。それだけ伝えたかった、以上だ」

 それだけ早口で言い切ると、セリエアの返答を待たずにドルーシュ少尉は自身の席へと足早に戻った。

「ふうん。で・・・・・・ドゥンゲイル2はどう見るかい?」

『あっし?まあ、善い人なのは間違いないでしょうや』

「そっちじゃ、無いよ」

 おう!とワザとらしく気付いたような相槌は、果たして本心か否か。

『まあ、旦那の判断も間違っちゃいやせんでしょう。前面の護衛は過小で、それが大方駆逐されてからの機動兵器の投入ってのは、どうも』

「違和感、かい?」

『ええ。小骨が喉に刺さったような、ね』

 確かに、とセリエアも同意する。

「虎の子の魔導鋼騎とは言っても、護衛に置いておくくらいは出来たはず。それもせずに温存していたということは・・・砲兵は捨て駒?」

『結果だけ見りゃ、そうとしか見えやせんが・・・ゲリラにしちゃ、贅沢な話でやすね。それとも、それ以上に魔導鋼騎を温存しておかなきゃならない理由があったか』

 やはり、もう1手どこかにありそうな気配がする。

「ううん・・・」

『心配でやすか、旦那が?』

「いや、そっちの心配はしてないよ。ただ・・・どうもこう、妙な状況のまま推移するのは落ち着かないね」

 何か見逃しているのではないか。そう考えると、お尻のあたりがムズムズする。

『ま、全体の状況管理はあっしらの仕事じゃありやせんし。気楽にいきしょうや、気楽に』

「そう・・・だね、うん。で、そっちの状況は?」

『こっちは変わらず。ですが・・・おや?』

「どうしたんだい、ドゥンゲイル2」

 そのセリエアの疑問への回答はキョウズイからではなく、周りから与えられた。

「本当か、ルビー105!本当なんだな!分かった。・・・指揮官殿!」

「どうした!?」

「それが・・・その・・・敵が退いて行った、と」


「押し込むぞ、同志ニジェール、同志ヘルメン!」

『了解だ、同志マークスン』

『こっちも了解!』

 得られた快諾に微笑みつつ、マークスンはペダルを思い切り踏み込んだ。それを合図にブルンと怪気炎を上げる乗騎が見る先には紺色の鋼騎、帝国の狗が脱兎のように逃げ回っていた。

「そちらから攻めて来た割には意気地がない、逃がすか!」

 自騎を左隣から追い抜くように疾駆するニジェールを援護しつつ、彼もまた乗騎を敵騎の左方へと走らせる。胴体部に備え付けの機関銃を派手に撃ちまくりつつ前進すれば、それに押されるように敵騎は右へ、右へと進路をとる。

『同志マークスン、敵が逃げるぜ』

「それがこっちの狙いよ」

 本来なら、マークスンとニジェールが両脇から攻め込み、敵を包囲するのが常道だ。それをしないのは、ひとえに彼らの狙いが敵騎を右へと追いやることだからで、何故追いやるのかと言えば、そこにヘルメンが待ち伏せているからだ。

「よおし、そのまま。ヘルメンめがけて突っ込んで行けえ」

 威嚇を兼ねて、コイルガンを背中めがけて撃ち放つ。敵はそれを躱すことには成功したようだが、外れた弾丸がその先の木々へと命中し、倒れた木がその行く手を阻む。

『ナイスだ、マークスン』

「ああ、どんなもんだ!」

 貴重な弾を外してしまった時は内心とても焦ったが、結果オーライ。万事塞翁が馬とはこのことか。

「しかし、経路がズレたか」

 敵が倒木を避けようととった進路は予想していたそれより南にズレており、このままでは伏撃ポイントから外れてしまう。

『仕方ねえ、こっちも突っ込むぞ!』

「応」

 そう返事を返したまでは良かったのだが、ペダルを踏み込んでからマークスンはあることに気付く。

「いないぞ!?」

『ほ、本当だ!ど、どこだ!?』

 確か、慌てて進路を変更したところまではモニターに捉えていたはずだ。だが、その後に森へと突っ込んだあとについては憶えがない。

『糞、逃げたか!?』

「どこに逃げるってんだ?落ち着けニジェール、センサーを活用して・・・はあ!?」

 立ち止まってキョロキョロと見渡すように頭部を左右させるニジェール騎の傍に寄り、センサーを熱源探知へ切り替えたマークスンの眼は、零れんばかりにひん剥かれる。

「正面!?」

『嘘だろ!?』

 しかし、熱源センサー越しに見るモニター映像には明瞭な反応を出す物体が、今まさに近づいて来ていた。マークスンは慌ててカメラ補正を熱源探知から暗視用へと切り替えてその実を確認しようと試みたが、遅すぎた。

「うお!?」

 そこには既に、間近く迫る敵騎が大写しとなっていた。慌ててペダルをバックで踏むが、そんな彼を嘲笑うかのように敵は右腕を押し付けるかのようにマークスン騎のコックピットへと伸ばす。

「お、お助けを!」

 メインカメラが見下ろす中で、手甲の辺りのパーツが展開し、光が走った。


 それが、マークスンの眼が最期に見た光景の全てである。


「一つ!」

 敵騎のコックピットをシールドで切り裂いたユーマはそのまま、次の行動へと移っていた。

 突撃の勢いを殺すことなく倒した敵騎の後ろへスルリと回り込むと、その背中を思い切りもう1騎目がけて蹴り飛ばす。派手な衝撃音を立てて抱擁する2騎だったが、流石は魔導鋼騎だ、馬力が違う。蹈鞴を踏みこそすれ、その鋼騎は飛んで来たもう1騎を受け止めて見せた。

「二つ!」

 が、いかんせんそれに続くようにバリアを張って突っ込んで来たエフリードは、いささか荷が勝ち過ぎた。押し砕くような突追力に2騎の胴体は揃って『く』の字に折れ曲がり、それが魔導炉への負荷となって仲良く大爆発、2つ発生した火球はやがて大きな1つとなり、消えた。

「ふう。あとは・・・ッ、来たか!」

 サブモニター上に、こちらへと接近してくる騎影が映る。それは丁度、敵騎がユーマを追いやろうとしていた方角からだ。

「・・・待てずに痺れを切らしたか」

 しかし、ユーマはその考えを地図上に浮かぶもう1つの反応を根拠に「否」と断じた。更に、こちらから目視の叶わぬ距離だというのにガンガンとコイルガンをやたら撃ち放つその行動に、その判断は確信へと変わった。

「では・・・」

 と、ユーマもその鋼騎へと対峙するように、森林地帯へ向かって動く素振りを見せる。そして、

「教育してやる。そこだ!」

 一歩、踏み込んだところにあった出来立ての倒木を引っ掴むとそれをエフリードの背後、反応を見せていたもう1騎へとぶん投げる。それと同時に打ち上げた星弾に照らされて、驚きに立ち竦む鋼騎が1騎、その間抜けな姿を晒していた。

「そういう時は、身を隠すんだ!」

 叫びながら、メインスラスターを踏み込む。一気に距離を詰めるエフリードに敵騎も慌てて機動を行い始めたが、その動きは逃げるにせよ立ち向かうにせよ、非常に中途半端なものだった。距離を保とうと試みているのかもしれないが、更に加速するエフリードの前にそれは、無駄な努力で終わる。

「そら!」

 敵が突き出す銃口を掴むとそのまま護身術の要領で腕を捩じり上げ、その筒先を陽動を企図していたもう1騎へ不格好ながら向ける。振りほどこうと各部を動かす敵騎だったが、単純なエネルギーゲインで勝るエフリードに、そんなジタバタで逃れられるはずも無し。

『同志ソウシ!?今助けに!』

『糞、離せ!同志ヘルメンは来るな!』

 接触回線と混線したか、聞きなれない声がユーマの耳朶を打つ。

「大人しくしてろ。それ!」

 コォーン!コォーン!コォーン!と、立て続けに甲高い発射音が響く。ユーマが敵騎の指を強引に動かして、コイルガンを発射させたのだ。

 その標的は、慌ててこちらへと近づくヘルメン騎。FCSも何も無いめくら撃ちだが、間抜けにも一直線に近寄ってくる的には外しようが無い。カートリッジの全弾を撃ち尽くす猛射に鋼騎は穴だらけとなり、爆散した。

『こ、このお!』

 ガキン、という金属音と共にエフリードの体勢が崩れる。

「何だ!?」

 咄嗟にエフリードの損傷を疑ったユーマだったが、メインカメラに捉える敵騎の姿と、エフリードがプラプラと抱えるコイルガンを持つ片腕を見て仔細を掴んだ。

「自切か!」

 どうやら、敵は自騎の右腕を自ら脱落させて、エフリードの拘束から逃れたらしい。それを証明するかのように、敵は周章狼狽することなく腰から山刀を抜いて突き込んで来た。

 その行動に、今度はユーマが慌てる番となった。姿勢は崩れたままだし、敵騎の突撃速度と距離からバリアを張っても間に合わない。

「それ!」

 が、たかがその程度で窮地と言っていてはマンティクス隊員の、そしてなによりエフリードの魔導騎者として、名折れだ。ユーマは、掴んでいた敵騎の右腕をトスの要領で放り投げる。それを、敵は反射的に残った左腕で切り払った。

『あ!』

 確かに、教条的には正しい。腕1本とは言っても鉄の塊だ、それが自騎の猛進の勢いと合わせて2倍となった衝撃力でぶつかるのを避けようとするのは、間違いでは無い。

 無い、が、それも時と場合に寄りけりだ。少なくとも、敵の前に無防備な胴体を曝け出すような場面では。

「間抜けめ」

 対して、ユーマはそれを見越して既に動き出していた。

 さっきからの会戦で、敵騎者は伏撃をしたいのに魔導炉を通常稼働させてその位置を暴露していた。そのことから彼はこの魔導騎者たちについて、『騎者としては素人ではないが、魔導騎者としては素人』と見破っていた。

 だから、敵騎者は魔導炉の高出力に任せて強引な軌道変更はしないだろうと、そう予測して、そしてそれは的中した。

(・・・惜しいな)

 そして、同時にそんな感傷が胸を過る。若し彼らがこんな暴挙に加担することなく腕を磨けば、きっとそれはより良い方向へ活かせるはずだったろうに。

「だが、遅い」

 既に、エフリードは敵騎まで歯牙の距離まで詰めている。このまま踏み込んで無防備な内懐へと潜り込み、シールドを展開しトドメを刺す。それはユーマにとって思考では無く、反射の領域となった動作だ。

「トドメ・・・っく!?」

 そんな脳内へ、警告音が割り込んで来た。展開しかけていたシールドを解除し、強引に敵騎から跳び退る。

 そして、その面先をピンク色の光弾が通り過ぎた。あと一瞬退がるのが遅れていれば、きっとそれはエフリードの肩口に突き刺さっていたことだろう。

「新手か・・・ん」

 その時、片腕を失った敵鋼騎が光弾の来た方の丘へと駆け出すのがカメラに映る。

「逃がすとでも・・・っ!」

 しかし、追いかけようとしたところへ再び光弾が撃ち込まれ、慌ててエフリードが跳び退る内にその鋼騎は丘とユーマがいる所の半ばまで逃げ切っていた。

「ハア・・・仕方ないか」

 冷や汗を拭ったユーマが、カメラを丘へと向ける。そこには月光を背に、肩口から2本の手を生やした異形の魔導鋼騎の姿があった。


「・・・避けたか」

 射撃用のスコープを取っ払い、カクトンはそう独り言ちた。

『カクトン、どうしてここに!』

「慌てるなソウシ。冷静さを欠いた奴から死ぬ、そうだろう?」

『で、ですが・・・」

「それに・・・。奇襲だったはずだが、狗らしく勘の良い奴だ」

 クツクツと、卑下するように喉で笑う。

 隠密行の為、カクトンは魔導炉ではなくコンデンサに貯留したエネルギーを使ってここまで移動して来た。しかし、発射の際には魔導炉を起動せざるを得なかった。

 もっとも、それでこちらの位置が暴露したとて回避なぞ出来るものではないと考えていたが、寸余のタイミングで跳び退かれてしまった。

「流石はマンティクス。節操の無い狂犬か」

 暗視用のフィルターを透して捉えた騎影の肩には、羽を広げた黄色い鳥のエンブレムが印されている。人品をかなぐり捨てて選ばれた選りすぐりの騎者集団の1人なら、それくらいはやってくるだろう。

「・・・しかし、それならそれで対応のしようもある、か」

 ある考えの元、カクトンは通信機を外部発信へと切り替えた。


『聞こえるか、マンティクスの騎者よ』

 その言葉に、ユーマは我が耳を疑った。奇襲を仕掛けて来た敵が、堂々とスピーカーを使って話しかけてきたのだ。

(・・・罠、か?)

 油断なくモニターを注視しながら、ユーマは片手でコンソールを操作して周囲の状況を探る。しかし、高エネルギーの反応があるのはその魔導鋼騎以外は先ほど逃げ出した1騎と拠点だろうか、森の奥に微かに感知する1つだけだ。

『どうした、騎者よ。聞こえぬか?それとも、我が武威に言葉を発することも叶わぬか?』

 カチンくる物言いに、思わずバリアを展開して殴りかかりたくなった指をなんとか押し留め、ユーマは震える指で外部発信のボタンを押した。

「残念だがな、テロリストとは交渉しない。これは国際常識だ」

『別にこちらは構わんがな。だが、聞いて損は無いぞ』

「・・・ふうん。なら、通信機を使え。回線115だ」

 回線115は常用回線の中でも最も接続域が狭いことで有名だ。よもや他の部隊で、それも戦場で使用はすまい。

 すると、ほんの数秒の後、モニターへ回線115を使用する受信の通知が届く。それを見てユーマも、通信機の回線をそれに繋げた。

『聞こえるか、マンティクス』

「ああ、なんとかな。で・・・何の用だ?」

 まさか『裏切れ』とでも言う気かと考えていたユーマの耳に、それ以上に信じられない発言が届く。

『単刀直入に言おう。俺たちを見逃せ』

「はあ!?」

 怒気のこもった反発の声に、向こうは慌てて取り消しの声を上げる。

『待て、待て、馬鹿にしている心算はない。その証拠に、既に別方面の部隊へは後退の指示をしてある、確認してみろ』

「一寸待てよ」

 断りを入れて一旦回線を切ると、115番から39番へと合わせる。

「こちらドゥンゲイル1、ドゥンゲイル2、敵の様子はどうだ?・・・・・・そうか、分かった」

 キョウズイによると、敵の攻勢が止んだのは確かだそうだ。どうやら、この魔導騎者が言っていることに間違いは無いらしい。

「待たせたな。で・・・見逃せ、とは?」

『うむ。単純な話だ、俺たちが今から後退して行くのを、黙って見過ごしてくれればいい』

「これだけのことをしでかして、逃げ遂せられると思っているのか?命が惜しいのなら、行く先は後ろにでは無く、前に行くべきだ。両手を上げてな」

 勿論、遅かれ早かれ命は持っていかれるだろうが。

『我々は命は惜しまない。ただ、命の対価を求めるだけだ』

「テロリスト風情が、賢しらな口を利く。で・・・お前らを見逃して、俺たちにどんな得がある?」

『損得で戦いを語るか、傭兵らしい物言いだが・・・簡単な話だ、これ以上戦わなくて済む。お前たちの仕事は貴族どもを守ることで、俺たちの全滅ではあるまい』

「・・・確かにな」

 確かに、ユーマたちが命じられたのは公会堂の防衛で、敵勢力の全滅では無い。天秤ばかりの傾きだけを見るのなら、悪くない取引に思える。

 が、次の言葉でそんな考えは弾け飛んだ。

『それに、金の為に戦うお前たちとしても、その方が色々と都合が良いのではないかな?』

「なに?」

『単純な話よ。我々のような存在が野に在れば、それへの備えとしてのお前たち傭兵の身分は安泰だ。そして、我々はそんな卑近な利益と引き換えに大望を果たせる。・・・どうかな?』

「分かった」

『おお!そうか、では・・・』

「お前たちは殺す」

 何?と驚くような声が通信機越しに聞こえてくる。そのいかにも予想外だと言いたげな響きに、ユーマの口の端が少し愉快そうに持ち上がった。

「だから、退がらなくていい。そこにいろ」

『ま、待て。お前、他人の話を・・・』

「聞いているさ。聞いた上で、行かして帰さんと決めた」

 まず、在野で暴れる武装勢力のせいで、セリエアの肉親は死んだ。それを自分たちの利益とほざく、1アウト。

 次に、ユーマたちの戦う理由として、自分たちの考える理由をさも当然のように語る、2アウト。

 そしてなにより、言葉の端々から漂う自己優越感だ。選民思想に片足を突っ込んだテロリストなぞ、生かして帰す訳にはいかない。

「3アウトで、チェンジだ。次回は無い」

『待て、何の話だ!いや、それより・・・』

 それからユーマは通信機から流れてくる相手の言葉を聞き流しながら、エフリードの状態を確認する。大きな損傷は無いはずだが、万が一があっては困る。

『・・・だろう。おい、聞いているのか!?』

「聞いてない。それにこれ以上、お前と話す舌は無い」

 そう言い放ち回線を切るのと同時に、走らせていたチェックリストの結果が表示される。システムオールグリーン、魔導炉出力波形問題無し、騎体各部チェックOK。

「行けるな、エフリード」

 その、さっきまでの辛辣なものとはまるで違う、親しげな呼びかけ。それに応えるかのように、魔導炉は唸りを上げる。

「良し。なら・・・行くぞ、エフリード!」


「ええい、所詮は雇われ。マンティクスと言えど馬鹿の集まりか!」

『カクトン、まさか本気で?』

 心配そうなソウシの言葉に、カクトンは「まさか」と軽く鼻で笑った。

「ただ、退いてくれるなら良いと思ったのは、間違いない。もう直ぐ、キュウィルが行動を起こす手筈だからな」

『成程、だから敢えて・・・』

「そうだ。キュウィルが少しでも余裕をもって行動できるよう、出来るだけ公会堂から敵戦力を離しておきたかったからな」

 そう彼が語る内容は、確かに正しい。正しい戦術論で、正しいモノの見方で、正しい理屈のはずだ。

 ただ、その為に敵対する相手を騙すような物言いをすることに、出来ることにカクトンは言いようの無い嫌悪感を感じるのもまた、事実だった。

「だが、そうそう上手くはいかんようだ」

 モニターには、燐光煌めかせてこちらへ迫る、マンティクスの魔導鋼騎の姿。忌々しそうに吐き捨てたものの、ひょっとすると彼は内心安堵しているのかもしれない。

 奸計を講じて敵を倒すのではなく、正面堂々と敵を倒せることに。

「アイツを倒せば、次は公会堂の守備隊を引きずり出せるだろう」

『ええ。それに、最低でもあの鋼騎をここに引き留めるだけで、キュウィルは楽になるはずです』

「ああ。ソウシは俺の前衛を務めろ、近寄らせるな」

 はい、と返事をするより早く、ソウシはチェティリュカーの前に出る。先だってカクトンが持って来た機関砲を渡しておいたから、片腕でも前線の維持くらいならなんとかなるだろう。

「では・・・あの生意気な騎者に教えてやるとしよう。このチェティリュカーの、俺の力を!」


 

 

 


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