第2節
第15話 The one-scene of novice's school life
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
狭っ苦しいコクピットの中に、荒い呼吸音が響く。キョロキョロと置き所が無いように左右する視線はサブモニターに表示されているマップと武装を行き来している。
「どうすれば・・・どうすれば・・・」
その言葉だけが無限に口を吐いて出るが、頭の代わりに口舌を回したところで、打開策なぞ湧いて出る訳は無し。恐る恐る、僅かに操縦桿を動かしてカメラの付いた頭部を持ち上げる。たったそれだけの行いで、たちまちコックピット内にガーガーとアラートが鳴り響く。
「ひい!」
慌てて自騎の頭を下げさせるのと同時に、その上を甲高い音を立てて砲弾が通り過ぎた。若し彼女が生身の兵士ならばきっと、腰を抜かしてへたり込んでいただろうし漏らしていた可能性もある。額から脇からタラタラと汗が滴り落ちるが、それを拭うような余裕も不快だと気を遣う心も、今の彼女は持ち合わせていなかった。
少しでも操縦桿から手を離せばどうなるか。半ば強迫観念に近いそれは、彼女の鋼騎の傍に横たわる、倒れたままの僚友が身を以て示してくれていた。
「はあ・・・。どうすれば良いの、どうすれば」
震える声で自問自答しても、良案なんて浮かんでこない。浮かんでくるならとっくにそうしている。
「・・・ん?な、何?」
不意にチカチカと、モニター上に通知のサインが灯る。緊張状態故に、何かと少し焦ったが、
「あ・・・ああ、通信ね」
それが同じスコードロンの仲間からの通信と分かってホッと胸を撫で下し、震える指でコンソールを叩く。その時、自然に操縦桿から手を離せたことに気が付いたのは全てが終わってからだった。音声入力や、コマンドを使用すれば良かったことも。
「こちらアサラ、応答よろし」
その声に、通信の向こうから『おお!」という声が届く。その聞き馴染みのある声に、アサラの緊張も少し解れた。
『アサラ、無事なのか?動きが無いから心配したぞ』
「すまないわね、皆。ダン、グレイグ、貴方たちは無事?」
『ああ』
『何とかな』
つまり、彼女ら4人組のスコードロンの内、脱落したのは隣で眠る1人だけということだ。
「よし・・・なら、皆の位置を知りたい。ビーコンサイン、出せる?」
『おいおい、待ってくれアサラ!そんなことしたら・・・』
声を荒げるダンの気持ちは良く分かる。彼らも彼女と同じように身を隠しているのだろうから、自分の位置を暴露することは出来るだけしたくないに違いない。
「大丈夫。私の位置は奴にバレているけれど、近づいては来ないもの。・・・まず、私から出す」
しかし、だからと言ってそれを認めることは出来ない。何はともあれ、勝たねば彼女たちの戦場は終わらないのだから。彼女は断固としてそう述べると勇気を振り絞り、スイッチを押した。数秒後、マップに自分の位置が表示される。それは僚騎のマップにも表示されている筈だった。当然、敵のマップにも。
「・・・・・・・・・」
1秒、2秒、3秒。固唾を飲んで操縦桿を握り締めるが、駆動音も発砲音も聞こえない。
「ふう・・・。ね、大丈夫でしょう?」
『び、吃驚したぜ』
やられるかもしれないという緊張が解けたせいか、アサラたちの口調もどこか砕けたものになる。
『だな。しかしダン、こうなったらお前も覚悟を決めろ。女のアサラに出来て男のお前が出来ないってのは、帝国男子として格好がつかねえだろう』
その言葉の後に直ぐグレイグの、そしてそれから暫くしてダンの鋼騎の位置がマッピングされる。それは偶然だろうが、丁度敵を囲むように位置取れていた。
「素晴らしいわ、女神リオールに感謝を。見えてるわね、皆」
『ああ』
『そうだな。つまりはアサラ、この位置から一気に攻める、と?』
「そうよ」
例え敵がどれほどの手練れだろうと、今までの戦闘データから見て武装は手に持つ魔導砲のみ。一度に3方向へ攻撃出来るはずは無い。無論、少なくとも1騎は確実に撃破されるだろう、が。
「それでも・・・それでも、勝ちよ」
どれほど無様だろうと、どれほど惨い考えの結果だろうと、勝ちは勝ち。例え自分が撃破されようと、勝ちは彼女たちのスコードロンのものだ。躊躇する理由は無い。
『・・・良し、分かった』
『仕方・・・ねえ、か。合図を頼む』
そして、その思いは2人も同じだったようで。頼もしい僚友を持てて幸せだと、彼女は感じた。
「ありがとう。皆に三女神のご慈悲を」
すう、と大きく息を吸う。鋼鉄の手に持つ銃はまだ、1発も撃っていない。惰弱と笑われるかもしれないが、皮肉にもだからこそ弾切れの心配はない。念の為もう一度マップに目を通すが、大丈夫。敵も自分たちの位置も変わってはいない。
「・・・はあ」
大きく息を吐く。あとは実行あるのみ。
「3・・・2・・・1、今よ!」
合図と共に、閉じ籠っていた遮蔽物から勢いよく飛び出す。機関砲を構え、単眼を活からす敵魔導鋼騎へと、雄叫びを上げて突撃を掛け―
『ああ?』
「え?」
―ようとした彼女は見てしまった。敵騎を挟んで後ろ側、自分と同じように突撃しようとしたダンの鋼騎が、こけた。
『うわあああああ!』
そして、それを見た。見てしまったアサラはそのあまりにもあんまりな光景と、攻撃の失敗という事実から、止まった。手を離した。結果、動けなくなった。
『バッカ野郎が!』
そんな叫びが、遠くから聞こえた。呆然と、アサラが眺めるモニターの奥。そこではグレイグを始末した敵騎がその筒先を自騎へと向けて。
「あ」
キラリと光った次の瞬間、モニターは真っ赤に染まった。
<Pi、Battle training、Finish. Mission failure>
瞬間、さっきまで外の光景を映し出していた正面モニターに、そう有り難くないメッセージが表示された。
「・・・はあ、あーあ」
ガックリと肩を落とし、汗でビショビショの前髪を掻き上げる。確認こそ出来ないが、あの後ダンもやられたことだろう。もっとも、こけた衝撃で撃墜判定となっていなければ、だが。
『訓練生番号109から112、模擬戦闘終了だ。鋼騎を自分の足でハンガーに直して、集合。急げ!』
感傷に浸る間もなく、インカムから教官からの命令が聞こえた。『自分の足で』とはつまり、自動帰投システムは使わずに自分でハンガーに収めろということで、それを証明するかのようにモニターは再度、外の光景を映し出す。訓練弾の塗料はべったりと付いたままだが、それくらいは何とかするのも訓練の内、ということだろう。
『それと、訓練生番号111』
「は、はい!」
『そこですっ転んだままの番号110を引き起こしてやれ』
見れば、あの時こけたダンはそのまんま、地べたに伸びたまま。不格好な姿勢で深紅の染料に体を汚し横たわる様は、まるで叩き潰された害虫のようだ。
『わ、悪い、アサラ。アクチュエータが、その、どうもな』
何とも情けない声をだすダンに、アサラは思わずため息を吐く。
「はあ・・・分かったわよ、ダン。行ってあげるから大人しく寝てなさい」
コックピットのハッチを開け、目視で状況を確かめる。瓦礫を踏みしめ、さっきまで敵だった魔導鋼騎の横をすり抜けてダンの元へと鋼騎を運ばせた。
やり方は悪くなかった筈だった。
「でも・・・負けは負け、よね」
この後で行われる総括と教官からの修正を想像して、アサラはもう一度、大きなため息を吐くのであった。
「並べ、蛆虫ども!」
「「「はい、教官殿!!」」」
既に整列している自分たちに向かって、いきなりの先制パンチ。禿頭でタンクトップに筋肉が喧しい教官が腰に手をあて怒鳴りつけてくる。
「蛆虫ども、貴様らは何匹だ!」
「「「16匹です、教官殿!」」」
ここで16『人』と答えるとどうなるかは、全員身を以て知っていた。
「そうだ!そして、敵は何人だった。答えろ!」
「「「1人です、教官殿!」」」
「そうだ!つまり貴様らは、4人がかりが4組もいて、ただの1発も当てられなかった能無しの集まりだ。今の貴様らは、何の役にも立たないのに国家の財を貪るだけの蛆虫だ!悔しくないのか!」
(そんな無茶な)
そんな風に、心の中で呟いたのはアサラだけではあるまい。
そもそも、彼女たちは騎者になりたいと軍に入った訳では無い。それどころか、ほんの数ヵ月前まではこんな鋼鉄の化け物に乗ったことすら無かったのだ。
(本当なら、ピカピカの近衛兵になる筈だったのに・・・)
それがどうだ。地味な軍装を油で汚し、強面のオッサンに理不尽に怒鳴られて。あの時行われた『特別試験』なんかに受かってしまった自分を蹴飛ばしてやりたい。確かに自分から志願したのは間違い無いが、あんな謳い文句なら誰だってYesと答えるだろう。
何でも、昔には離宮のあった古都リンハイムに設けられた学校だとか。
何でも、新規に設置される学校だから訓練設備や官舎はみんな新品であるとか。
何でも、かつては録尚書事(ろくしょうしょじ ※ 首相)を務めたこともある爵家との縁も得られるとか。
(嘘ばっかり・・・では無いけれど、さ)
むしろ、表面的には本当のことばかりなのがまた、恨めしい。詐欺のようで質が悪いと言うべきか。
「「「悔しいです、教官殿!」」」
勿論、アサラを含めた訓練生全員、そんな思いはおくびにも出さずにそう答える。
「ならば、結果を出せ!訓練生番号101、フランツ=ヘルゴランド!」
「はい!」
とうとう始まった。呼ばれて1歩踏み出した学友の前に、教官が立つ。
「貴様、自分の腕で行進射撃が出来るとでも思ったか、間抜け!」
「はっ、申し訳ありません!」
「修正!」
その言葉と共にバキイ、と肉と肉がぶつかり合う打撃音が響く。
「次!」
それからも順繰りに、番号が呼ばれては「修正!」という言葉と打撃音が続いた。自分たちは全員やられた訳なのだから、当然それから逃れられる学友はいない。
「次、訓練生番号110、ダン・デアフォン!」
そして、あっという間に私の隣、そして私以外では一番やらかしたダンの所へ。
「貴様、あれほど移動の際には周辺状況に気を配れと言っただろうが!」
「し、しかし教官!アシストセンサーは何も・・・」
「マップに表示された障害物に、センサーは反応せんと言ってあった!この馬鹿モン!!」
止せばいいのに口答えして、それも言い訳になっていないとくれば教官の語気も強くなろう。明らかにダンを殴った拳の音は、他の皆よりも大きかった。
「まったく・・・次、訓練生番号111、アサラ・コルムンド!」
「はい!」
しかし、そんな彼を心配する余裕は今の彼女には無い。地面に転がる彼に目をやることすら許されず、アサラは教官を見据えた。
「貴様、何故止まった!」
「はっ、予期せぬ出来事に、つい手が止まってしまいました!」
「馬鹿者!貴様が止まったせいで僚友の犠牲は無駄になり、こけた僚友も殺された!つまり、貴様のせいで3人の帝国軍人が死んだのだ。分かっているのか!」
「はっ、申し訳ありません!」
「修正!」
次の瞬間、右頬に衝撃と少し遅れて熱感が走る。分かっていたことだが、女にも容赦は無い。いや、女である自分が他の男子生徒たちに並べるほど足腰が強い訳はないから、これで手加減はされているのかもしれない。
それから、残りの5人全ての頬に拳がお見舞いされて、総括は終わった。
「全員、気を付け!」
「「「はい!」」」
しかし、だからと言って痛む頬へ手をあてるような贅沢は許されない。直立不動の姿勢に戻り、後ろ手を組む。それは隣でぶっ倒れていたダンも同じで、いそいそと立ち上がる。
「さっき、約1匹に言ったことをもう一度言う。よおく聞け!」
パン、と掌に拳をぶつける音が響く。
「貴様らがミスをしたら、ミスをした奴が死ぬ。それは自業自得だ!だが、そのせいで仲間が死ぬ、戦友が死ぬ、同胞が死ぬ。そして、守れなかった帝国臣民が死ぬ、帝国は敗北し陛下は虜囚か処刑だ!」
それは間違いなく、先ほど私が言われたことだ。
「だから逆に、貴様らがつまらんミスで死ななければ、仲間も死なない、戦友も死なない、巡りめぐって、我らが帝国は負けない!それを胸に刻んで腕を磨き、一刻も早く帝国軍人になれ!」
それでは!と教官が大仰な仕草で手元の時計を確かめる。その動きを見て、私を含めた生徒一同は一部の乱れも無い動きでその背後を仰ぎ見た。
「蛆虫ども、今何時だと思うか!」
「「「「15時です!」」」
これもいつものこと、そしてもう6回目だ。初めは教官の後ろに聳え立つ宿舎に据えられている大時計の存在に気が付かず、追加の鉄拳をお見舞いされたものだ。
「では・・・蛆虫ども、第2ラウンドだ!・・・と、言いたいがな」
そう言ってもう一度、今度はしっかりと教官は時計を確認する。
「残念だが、試験場の使用予約が入っている。・・・俺にとっては残念だが、貴様らにとっては幸いだろう。違うか!」
「「「はい、違います教官!」」」
勿論、残念ではない。追加訓練無し、その言葉ほどこのコースに進まされて以後、嬉しいものは無かった。
「好し!ならば、その意気軒昂を忘れるな。解散!」
「あ~あ、疲れた疲れた」
「おお痛え、飯食って寝よ」
「良いなあ、私まだ座学の宿題終わってないもん」
三々五々、くだくだ他愛もない話をしながらダラダラと宿舎へと帰って行く訓練生たち。それを教官であるガラム・ロック軍曹は、青筋を立てて眺めていた。
(まったく、なっとらん!)
それは何も、自分への文句が聞こえてきたから・・・だけでは無い。それもあるが。
(1人ぐらい、整備を手伝おうとは思わんのか!)
彼が腹を立てていたのは、とどのつまりソレだ。なにも彼だって、生徒たちに整備士としての腕前を求めている訳では無い。だが帝国の鋼騎、その将来を支えるべき彼らが鋼騎に対して、それもさっき自分たちのせいで撃墜判定を食らった自騎に対して、だ。
「労わってやろう、とは思わんのか」
そう呟かれた台詞は、目覚まし用の珈琲よりも苦み走っていた。
若し彼らの内誰か1人でも格納庫へ行けば、次の日の朝礼で釘を刺すに留めてやろうと思っていたが、現状は無常である。呑気にも彼らはそんな教官の怒りなど知る由もなく、今日の授業は全て終わったとばかりに宿舎へと向かっていた。
その光景に、ガラムの蟀谷にはニョッキとまるで鬼の角のように血管が浮き出る。腰に手を当て「馬鹿モン」と怒鳴りつけようと、口を開いた、
「いやあ、お疲れさんでやしたねえ」
ほんのその時、そう言って気安くポンと彼の肩を誰かが叩いた。
「貴様、心安いぞ!」
それが生徒の誰かだと思った彼は反射的に、そう怒鳴って振り返る。
「おお、怖い怖い」
しかし、それは生徒では無く、さっきの生徒たちをコテンパンにしたアグレッサー役の・・・。
「こ、これは失礼を!」
そこまで頭に回れば、あとは鍛えられた軍人としての性がピンと背筋を伸ばさせる。流石は教官を務めるだけのことはある、教本に載せられるレベルの見事な敬礼だ。
「確か、マンティクスのキョウズイ准尉殿で」
「相当官、でやすがね。ま、そう気張らずに」
そう言って差し出された手には、冷たく結露する瓶が2本握られていた。
「そ、それはどうも・・・」
どこまでが冗談か分からぬ言葉にぎこちなく笑いつつ、ガラムは瓶の1本と栓抜きを手に取り、手慣れた手つきで開栓した。巷ではやれプルタブだのキャップだのというのが流行りらしいが、軍生活が長いガラムにとって、飲料水の瓶と言えば固い栓と相場が決まっている。遠慮なくグイと呷ると、心地よい炭酸が喉を潤した。
「ふう・・・これはどうも」
「いえいえ。で、どうでやす?」
対してチビリチビリと舐めるように口をつけつつ、キョウズイは宿舎へと帰る生徒たちを目で指した。
「それは・・・実際に相対した准尉殿が、一番ご存じでは?」
「確かに、ひよっこ・・・それも、殻の被った産まれたてには違いありやせんがね。ただ、巣箱の雛を見て、これじゃレースに勝てねえってんで捨てる鳩師はいねえでしょうや」
「それこそ、確かに」
傭兵という一介の戦争屋が述べるには意外な諧謔に、クツクツと喉を鳴らす。
「まあ、准尉殿の仰るような観点で言えば・・・皆『見込みありと同時に見込み無し』などという評価になるでしょうな」
もっとも、とガラムは残った炭酸水を喉へと流し込むと、
「小官こそ、こんな教官なんて務める器かと問われれば、何と答えたら良いものか」
そう、自嘲気味に吐き出した。
「確か、ロック軍曹殿は・・・」
「こちらこそ、殿は止めて頂きたい。こそばゆくて堪りません」
バリバリと首筋をワザとらしく掻くガラムに、キョウズイも思わず口角を緩める。
「ええ、そうです。現場1本25年、戦争後期には騎者もやりました。・・・促成でしたがね」
目を瞑れば、それこそ走馬灯のように思い出が瞼の裏に蘇る。厳しい行軍、泥に塗れた初陣、神を呪いもした悲惨な撤退、そして・・・。
「大攻勢で負傷し、そのまま軍病院のベッドの上で終戦です」
そっと、アイパッドの上から厚い掌でなぞれば、無くしたはずの右目にはその時のスパークが焼き付いていたように蘇った。
「人に歴史あり、でやんすねえ」
こんな時、上っ面のような『名誉の負傷』などという言葉を吐くべきでないことぐらい、キョウズイは心得ている。
「そうして、戦後は田舎の守備隊に拾われて、そこで余生を・・・なんて思っていたらいきなり教官でしょう?何とか昔に教わったやり方で躾けてますが・・・最近の若いのには響いているのやら、いないのやら」
「いやいや、ご立派だと思いやすよ」
「それは・・・どうも」
慮った世辞などを言うキョウズイではないから、その感想に嘘偽りは無い。しかし、肝心のガラムはそんなことは知らない。
なので、それをどう受け取るか悩んだ結果、話を変えた。
「・・・しかし、ご立派と言えば今の鋼騎、見てくれは立派ですがどうです、中身は?」
「良いんじゃなんでやんすか」
「ほう!?」
慮外にそう言い切ったキョウズイに、ガラムは思わず「くわ」と目を剥いた。彼のような傭兵なら、あんな平凡な鋼騎は御免被るとでも言うかと思ったのだ。
「まあ、あっしも訓練前に1度駆っただけでやすがね。動きに癖が無い、特徴が無いのが特長ってな感じでやしたね。扱い易いのは間違いないでやしょう」
「成程」
「まあ、今は教習騎でも、将来的には軍の正式採用騎となるんでやしょうから。素直が一番と」
その言葉に、ガラムは合点がいったと大きく頷いた。いくら性能が高かろうが、一部の天才や変態しか扱えないのでは軍が正式部隊として運用する意味が無い。彼自身、大戦時に駆った鋼騎はそんな代物ばかりだったから、扱うのには苦労したものだ。
「流石、ピーキーな鋼騎を扱うマンティクスの方だ、良く仰る。聞いての実感が違いますな」
「いやいや、あっしのディマールはそこまでじゃあありやせん。ありゃ魔導鋼騎だってのを差し引いても、いいとこドッコイドッコイでやしょ」
「おやおや、ご謙遜を」
ちょっと意地悪い響きでガラムがそう茶化すと、キョウズイは「いやいやいや」とこちらも大袈裟に右手を「No」と振って見せる。
「本当でやんすよ、本当」
「しかし・・・何でもマンティクスには、新入りながらピーキーな魔導鋼騎を、それこそ手足のように扱う傭兵がいるとお聞きしましたが」
貴方では、と空になった瓶の底で自分を指してくるガラムに、キョウズイは困ったようにほころぶと「ああ・・・そんな噂」と、眼鏡を直すと何とも言い難そうに頭を掻いた。
「若し、そんな噂があるんなら・・・そんなら、そりゃあ」
「それは?」
それは、と口を開こうとした、その時である。演習場から馬鹿でかい衝撃音と、それに少し遅れてけたたましいサイレンの音が響き渡る。そのあまりの大きさに、宿舎の窓々からは多くの生徒たちの顔が顔を出した。
「・・・・・・・・・」
一方、あまりの衝撃に驚き声を出せないガラムだったが、その顔のまま演習場の方向を指さすだけで、キョウズイには通じた。
つまり「あれですか?」と。
それに対する返答として、キョウズイは苦笑いを浮かべつつ、大きく肩を竦めた。
つまり、「あれです」だ。
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