第17話 迫るモンスターとの戦い
「いやー!」
妹の悲鳴と同時に、俺たちの前に姿を現したのは大型の多足生物。
クモだった。
「キモッ!」
思わず俺も言ってしまった。が、仕方ないと思う。
言い訳をさせてほしい。だって、身長の倍以上あるサイズのクモが目の前に現れたんだぜ? キモいうえに普通に怖い。俺は別に、虫が大丈夫系の男子じゃないのだ。
だが、キモッ! 発言がよくなかったらしい。クモの怒りを買ってしまったようだった。
シュルシュルと吐くような音の正体、つまるところクモの糸を高速で吐き、巻くような仕草をしている。
確実に何かを企んでいる。
「させ……」
と、飛び出そうとして、俺はその場から動けなかった。金縛りとか、恐怖とかそういうものじゃない。普通に、妹にしがみつかれているからだった。
「天華、ちょっと離れて」
「お兄ちゃん。私から離れないで!」
言っていることはかっこいいのだが、やっていることは単純に怯えて動けないだけ……。
「おい、天華」
「あれ無理。生理的に無理。腰が抜けた。立てないって」
そんなことを目をつぶったまま言う天華。流石に、見えてないだろとはつっこめない。
そもそも、震えた声で懇願されては見捨てるわけにもいかないだろう。
ただ、見捨てるわけにはいかなくとも、
「シュ! シュッ!」
「くっそ……」
動けないからこそ、糸による攻撃は身をよじってかわせる程度。
一発目、二発目こそかわせたが、胴体部分をしっかり狙い出したそれ以降は、抵抗むなしく俺の左腕で防ぐことしかできなかった。
そして、ヤツは距離を詰めることもなかった。確実に動きを封じてから命を刈り取るタイプなのだろう。
糸は剣で切れるものだったが、このままではジリ貧なことが目に見えている。
ドラゴンは大丈夫で、クモはダメ。虫がダメなのは、天華も昔から変わってないな。
「なあ、天華」
「何?」
「約束する。必ずあいつを倒す。だから、約束してくれ。ダンジョンを出たら、今のローブの代わりになるローブを作ってくれないか?」
天華の使う生成能力ならローブくらい、ちょちょいのちょいだろう。
「わかった。わかったから。お願い。何着でも作るから。あれ、どうにかして」
「任せろ」
俺は、妹の頼みを聞き、さっと天華の首に一撃くらわせ、身をよじって脱出。
ローブの糸がついた部分を切り落とし、軽くその場でジャンプしてから、改めて、大型クモの方へと向き直る。
クモは変わらず、多数の糸玉を飛ばしてくるが、そんなもの動けるようになった今となっては関係ない。
弾幕のような糸玉をかわし、切り、弾き飛ばし、天華を守りつつクモとの距離を詰めていく。
気絶させたことにより、天華の出した魔法の灯りは、徐々にその明るさを消していく。タイムリミットが迫っている。
「シュシャッ!」
そこでクモはスピードアップでもしたように、糸玉の数を増やした。
いや、実際にそうなのだろう。動けない俺が数発しか糸玉を受けていなかったのはおかしい。単に、俺の左側を多めに狙っていたとしても、もう少し被弾していてもおかしくなかったはずだ。
となると、接近して、回避しにくくなるところを狙って、確実に動きを止めることを狙ってきていた!
「こざかしいヤツめ」
まあただ、そうだとしても倒すまでだ。
左側の壁は糸まみれ、再度飛んできたのも左、俺のほほをかすめるような位置の糸に俺は右へと跳んだ。
ここで決める。
長期戦はできない。壁を蹴って、一気に距離を詰める。
しかし、右へと跳んだその先にあったのは、糸が張り巡らされた壁。薄く伸ばされた糸に、暗くなった現状では接近するまで気づかなかった。
「なっ……」
「キシャ!」
どうやら、量が増えたというのは誤解だったらしい。いや、数自体は増えていたのだろう。クモの背後には今までより少し小さな糸玉が積まれていた。
どうやら、玉数はを抑えていたらしい。それなのに、量が増えたように感じたのも事実となると、ただ量を増やしたわけではなかったってことだ。
玉の大きさを抑えることで、俺に気づかせずにワナを張っていたのだ。
「キシャ! キシャシャシャシャ!」
俺にワナを踏ませたことが嬉しかったらしく、大型クモは喜びの声をあげ、俺へ向けて跳んできた。
まるで、俺のやったことをし返すように、動きを封じた敵に接近してトドメを刺すため、距離を詰めるために、俺の意図と同じく飛びかかってきた。
「かかったな」
「キシャシャ!」
俺の言葉がわかっているように、クモは俺の言葉を強がりと一蹴したように見えた。
そう、もう、クモは止まらない。止まれない。俺に糸で手繰り寄せられているように、俺の意図通り、その体はまっすぐ俺へと近づいてくる。
「おかしいと思わなかったのか? 俺が処理したのが、ローブだけだったこと」
「……」
もうクモはしゃべらない。勝利を確信しているようだ。だからこそ気づかない。俺が左腕以外に被弾した糸を気にせず動いていたことに。
「足にだってついてたんだぜ? いや、そもそもそっちが狙いだったはずだ。動きを封じることを狙ってたんだからな」
俺は、壁に足が当たった瞬間、思いっきり踏み込んだ。短い足の可能な限りのバネを使って、俺は壁を蹴るようにして再度跳ねた。
糸は、俺を固定することなく、思ったように跳べ、迫るクモへと俺の方から突き進み、その体を持っていた剣で真っ二つに引き裂いた。
「狡猾さが足りないな」
俺はジャンプの勢いのまま、糸で反対側の壁に着地しつつ、クモだったものを見やる。
彼はもう動かない。
糸は俺にとって、効きのいい滑り止めに過ぎなかったってわけだ。
「あ」
俺はクモを倒したタイミングで、重要なことを思い出して、頭を抱える。
やっちまった。何してるんだ。
全然妹にいいとこ見せられなかったじゃないか……。
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