第43話 集合ゴーレム
「うっさ」
ゴーレム二号がビームの代わりに放ってきたのは、何あろう大音量ノイズだった。
壁に仕掛けでも仕込まれているんじゃないかというほど音波。しかしその実、力技による壁擦りってんだから恐ろしい。今ので鼓膜が破られそうだった。
「もしかしてだけど、一体に見つかったらバレてる?」
「そういえば、見つかったら見られてなくても知ってたように追いかけてきてたかも」
「ああ」
「ママもパパも、壁が変わってからはそれ以前より警戒してたよ」
「ああ……」
先に言ってほしい情報だったが、今となったから拾い上げられた情報だろう。
どちらにしろ、大音響の中でも、大声で叫びながら会話していたら、バレることには変わりない。
隠れてこそこそ様子をうかがうような真似をしたが、ハナからこっちの存在は相手に筒抜けだったわけだ。
それを思えば、似てる絵ってのもうなずける。俺の外見までしっかり伝わってるってわけね。
「で、音はただの攻撃じゃないと」
「え、ええ!?」
音の大きさといきなりの出来事に面食らって、対処に迷って動けないでいると、そんなつかの間に取り囲まれてしまった。
あっちゅうまの出来事だ。仲間を呼ばれたらしい。
「へーえ。性能がいいみたいな話は聞いてたけど、協力までするようになるのか。厄介だな」
「ねえねえ! これは流石にピンチなんじゃない? ママもパパも、こんなことにならないようにしてたんじゃない?」
「そうだと思うよ」
「だよね!」
俺としては、ヨバナちゃんにはリラックスしててもらった方がありがたかったのだが、いくら懐かしの遺跡の中とはいえ、ゴーレム五体に取り囲まれては取り乱してしまったようだ。
今度はヨバナちゃんが俺の肩をがっしり掴み、ぶんぶんと揺さぶってきている。全く、とんだやられたらやり返すだ。
俺としても、剣が通じない相手に取り囲まれることは初めての経験で、心臓がバックバクうるさい。
マジでかつてないほど強いヤツじゃないか。しかも、そんなヤツの巣窟に入ることになるなんて。考えたくもないやつだよ。
「さぁて、どうしようか」
「考えてないの? 考えなしなの? ルリヤたんは切り抜けられるんれしょ」
「混乱でろれつが回ってないよ」
「ルリやん!」
「ルリやんて、ヨバナちゃん……」
なんか名前の呼び方まで大変なことになっているが、幼い少女に泣きつかれては、俺もどうにかするために、現状の対処に本腰を入れないわけにはいかない。
ただ、厳然としてある事実として、ヨバナちゃんを守りながらの戦いがマストということだ。
あの妙に俺を大切にしようとする妹がいる前で、こんな話をすれば怒られてしまうだろうが、一対一なら、いくら攻撃が通用しない相手であろうと方策はいくらでもあった。
俺のスキルを組み合わせ、それをでたらめに試すという策とも言えないような策だって、最終的には試すことになるだろう。
だが、ヨバナちゃんがいるんじゃ、そういうことはできはしない。
「とりあえず息を吐いて、ヨバナちゃん」
「い、いいい、息をははははあああああ」
「そう。よしよし。いい子だ」
深呼吸をしてもらっている間に、ビーム五連射撃ち返し。
寸分狂わぬ反射神経で五発確実に打ち返した。
が、
「嘘だろおい」
当たったのは全弾壁。俺以上の反応速度で、打ち返されたビームを最小限の動作でかわしたようだ。
最善の攻略法を見つけたと思ってたんだが、ダメなんですかい? 一体目にしか効かないんですかい?
「はは、ふああああああ」
「吐ききったら吸っていいからね」
「わわわわかってるよ。だいだい大丈夫だから」
「なんかDJみたいになってるけど。本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫大丈夫」
「そっか。でも、本当に大丈夫だよ。俺が守る」
「うん」
いくらわがままを聞いている立場と言っても、年上の俺が泣き言を言っていい理由にはならない。
俺も基本ネガティブだが、だからって、ネガティブ発言できるタイミングとできないタイミングがあるはずだ。
さて、素早く現状把握。
打ち返した壁は、最初のゴーレムが放ったものとほぼ同じ程度の損傷で済んでいる。
性能は上がっているくせに、威力は上がっていないのか……? いや、装飾過多の壁だぞ。ガリガリ削れてたんだ。壁自体はもろいはず……。
「ああ。そうか」
「あきらめないで! わたしはここでも応援してるよ」
「いや違くて」
「がんばれがんばれ。いやあああああ!」
「ふん!」
やっぱりだ。俺が打ち返しているからじゃなく、純粋に壊れていない。うまいこと一発見切って直接壁に当てたから間違いない。ビームに関して、周期はほぼ同じだが、威力は格段に落ちている。
だからって、くらってもいいことにはならないが、多少荒っぽく使っても問題ないはず。
震えるヨバナちゃんを背に、これ以上戦闘の継続は厳しい。俺まで震えるほどに、ヨバナちゃんの体がガックガクだ。
決着をつけるなら次が最後。本当に三度目の正直って感じだな。
「ヨバナちゃん。また目をつぶってて」
「わわわわかった!」
そこまで言っていないのに、今度もヨバナちゃんはしゃがんで目をつぶると、小さくなってくれた。その体は震えているが、少し震えがおさまっているようにも見える。
さて、周期は同じなんて言ったが、性能がいいだけに、一体目のゴーレムよりも効率もいいらしい。
管理システムは同じく、頭部の目による光り具合だが、その光が変化するスピードがどうにも早そうだ。
だが、威力が弱いのならそれも納得。
こんな戦いの中であれだが、反省点があるとすれば、俺は相手に対しても丁寧な対応を気をつけすぎていた。
少女の思い出を壊さないために、魔物の破壊も躊躇していた。壊せないと決めつけていたのは、壊さないようにしていたから、か。
「ま、人型のゴーレムを破壊するのは寝覚が悪いからやらないけどね」
とにもかくにも情報は出そろった。
「突破する!」
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