第44話 賢さが仇となったな
砂壁を高速展開。
流石に状況の変化が大きいからか、ゴーレムの方も俺の反転攻勢に備えて、ビームをでたらめに撃つのではなく動きを止めた。
代わりに投げられた絵筆は、どうやら投擲武器でもあったらしい。
「賢いな」
だが、この対応に救われたとも言える。
これが、アーティスティックに動く絵でも出されていたら、物量で押し切られていただろう。そうでなくても、急ごしらえ壁にビームを集中されていたら、簡単に壊されていたはずだ。実際、絵筆の方は無警戒に直撃を受けている以上、警戒せずに攻撃されていたら壁展開の分、俺の反応は遅れていた。
ただ、俺は相手を信じていた。優秀なゴーレム諸氏を。
「賢さが仇になったな」
俺はさらなる壁を展開し一本道を確立した。
最初からいた、仲間を呼んだリーダー格一体に狙いを定める。
またしても、おかしなことをしてくると踏んだのか、じっと赤く光る目を今にも放出せんと俺のことを見つめてくる。
だが、その瞳の輝きがついえることはない。
「そもそも撃てないか。二度外しているんだから。ふっ」
俺は勢いよく右へ飛んだ。
ゴーレムが俺の跳んだ方向、魔物からすれば左を見た時には、俺は壁を蹴り反対へ。
そして、ゴーレムが俺の移動に合わせて右を向いた時は、壁を蹴ってそのまた反対へ。
十分な厚みを持ったその壁は、今では俺の蹴りにも耐えられる。ビームを撃つのはもう遅い。
壁の向こうで、四回分の破砕音が響いてくるが、どうやら全てを防げたらしい。貫通されることなく、爆発音だけが聞こえてくる。
「な、なになに? 何が起きてるの?」
ヨバナちゃんの声が聞こえてきた。
目をつぶり、小さくなっているからわからないのだろう。だが、ありがたい反応だ。
俺の視点から彼女は見えない。そのため、無事だとわかれば、この戦いは勝利が確定したと言っていい。
高く高くにまで壁を蹴り上がると、勢いよく背後へと飛び降りる。見上げられ下着を見られたかもしれないが、無機物相手に気にすることもない。
「回転させるかよ」
膝カックンでこかしつつ、俺は俺の視点まで低くなったゴーレムの頭を掴んだ。
「あっつ!」
エネルギー溜まってるのマジみたいだな。
「大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
今撃っても無駄撃ち。
熱いくらいのダメージを与えることにシフトしたのか、抵抗を見せつつも、ゴーレムはビームを放とうとはしない。
あえて撃たないようコントロールしているのか。俺が何を目当てに、フライパンのように熱せられた頭部を大事に抱えているかも知らずに。自らの邪魔をした壁がどのようにして生成されたかも知らずに。
ったく。よくわからん危機で、よくわからん能力がどんどん成長するとか、どんなヤツだよ。
自分のことを笑いつつ、俺は砂壁をとっぱらった。
当然のことながら、見えていなくとも俺の移動はバレている。恐ろしいことに四体は四体とも、揃いも揃ってヨバナちゃんの方ではなく、リーダー格のゴーレム、その背後に立つ俺を見ていた。
赤さが徐々に増していく、その瞳を爛々と輝かせながら。
「おお、おお。怖い怖い。そんな目で見るなって。俺はお前らを取って食ったりしない。それに、ご主人様ってのはもういないんだろ?」
赤い光が、一瞬だけ強くまたたいたように見えた。
いや、気のせいか。
この岩の塊は、いくら人の形に近くとも、喋りもしなければ感情も理解していない、はずだ。そう思わないと、ここから先は苦しい。
「ならせめてこいつのために倒れてくれや」
だいぶんエネルギーとの癒着に成功した。放たれていなくとも手に取るように扱える。
もう撃っていい。間に合ってよかった。
「じゃあな」
俺は、四体それぞれに対して、リーダーと目を合わせるようにしながら、それぞれのタイミングで、四分割したエネルギーを、その目に目がけて放った。
いや、正確には五分割か。
「お前もだよ」
リーダーを向いの壁にまっすぐ向かせてから、ビームを放ち手も離す。
最後の一発を撃ってからすぐ、俺はリーダーの目へと、同じようにビームを入れ込んだ。
「これで完全に、お前らの詰みだ。うおっ」
「……」
「倒したよな?」
最後の一体は攻撃方向の都合、頭を俺の方へと向けて倒れてきた。
つんつん突いても反応はない。
なんだか締まらない終わりになったが、どんなもんかわからないから仕方ないだろこれは。どうにもビビらせてくれる。
「撃てなくなったなら撃てなくなったって言ってくれよ」
「……」
相も変わらず喋らない。
やはり、ダンジョンの老人は特殊個体だったのだろう。魔物という分類なら、あくまで岩のままで姿が似ている程度じゃ喋らないというわけだ。
喋られたら本当にまずかったかもしれない。俺も、卑劣な老人にこそ剣を振るえたが、彼女たちと言いたくなるほどゴーレムはすでに女性体だ。
あんまり女の人に暴力を振いたくはない。たとえそれが魔物であったとしても。
「まあ、天華だったらそんなこと気にせずに魔法をぶっ放すんだろうけどな」
なんにしても、人じゃなかっただけでなく、首が細くて助かった。
一体目で同じことをされていたら、首を回せなくって、一体ずつ最後みたいなのを五体分繰り返さないとだったからな。それだけの時間が稼げたかどうかは正直自信がないぜ。
「ね、ねえ」
おずおずといった感じで、戦闘の振り返りをしていた俺に声をかけてきたのは、当然、俺の目の前で小さくなっている女の子ことヨバナちゃんだった。
「終わった? さらさらいったり、どすんどすんいったりが止まったけど、まだ目を開けちゃダメ?」
「いいや、もういいよ」
「本当に? 目を開けてもいい?」
「ああ。大丈夫だ。あ、いや、まずいか?」
「どっち?」
発言が行ったり来たりして、こんなところでも煮え切らないから、困惑させてしまったな。
うぅん……。どうしよ。
そういや、ヨバナちゃんのご両親は、攻撃シーンを見せてないんだよな。
FPSとかやっても暴力性は上がらないらしいけど、思い出をぶっ壊すのはトラウマになるよなぁ……。
「よし、決めた」
「決めたってどっち?」
「さあ、行くよ」
「え、え!?」
俺は有無を言わさず、ヨバナちゃんの手を取って立ち上がらせた。
「終わったの? 目を開けていいの? こけちゃうこけちゃう!」
「大丈夫大丈夫! ほらほら、この先はまだ続くんでしょ」
「ねえ、なんだかルリヤちゃんの手熱くない?」
「そうかな?」
「そうだって! 別の意味で大丈夫なの?」
「ああ」
俺としては、呼び方が戻っていて安心安全だ。
将来的にまた呼ばれるかもとか、考えたくはない話だな。
そそくさと歩みを進めながら、それでもやっぱりごまかしは大事だ。
「気づかれる前にさっさと奥へ進もう!」
「ねえ、そうじゃなくて。ねえって!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。