第42話 美的な遺跡
「あ。壁が変わったよ」
「ほんとだ」
言われなかったら気づかなかったかもしれない。
ヨバナちゃんがめざといのか、俺がぼけっとしているのかはわからないが、気づけば壁の柄が変わっている。
クリスタルがメインで光源となっていた印象の入り口付近とは打って変わって、まるで壁それ自体が光っているような怪しい金ピカさを帯びている。
「ここまでは普通の断面って感じなのに、いきなり変わってるなぁ」
「ね。レリーフがキレイだよね。ここに住んでた人はきっと好きだったんだろうな、こういうの」
「れりーふ、ね……」
わかってるみたいにうなずいてしまったが、レリーフってなんだっけ。でこぼこが浮いてるみたいなやつだっけ?
まあでも、あくまで道って感じだったここまでとは打って変わってアーティスティックって感じなのはたしかだ。
「奥へ行くほど神秘的ではあるんだけど、自然の神秘というよりも人の手による神秘って感じなんだね」
「それは多分、ここが自然にできた遺跡じゃなくて、人が作った遺跡だからじゃないかな」
「ああ。完全に人の手で作った遺跡なんだ」
「そうだよ」
すごいなその魔法使い。何者だよ。
まあ、ヨバナちゃんのご先祖様たちも協力したのだろうし、たった一人の力じゃないんだろうけど、それにしたって、ここまで歩いた限りでも、村より大きそうな規模感って感じがする。
「本当にピラミッドみたいなトンデモ建築だったのか」
「ぴらみっど?」
今度はヨバナちゃんがわからなかったみたいで、俺に小首をかしげて聞いてきた。
かわいい。
いや、俺とは違って素直なんだよなぁこの子。ついつい気が緩んでしまう。
「ピラミッドってのは、俺が元いた世界の建物なんだよ。どうやって作ったかよく知らないけど、ざっくりいえば大昔のお墓かな」
「お墓なの? でも、ここはお家だよ?」
「まあ、細かいところは違うけどね。似てるかなぁと思ってさ」
「たしかに、わたしもどうやって作ったのかは知らないなぁ」
ただ、俺もそもそも建築に対して造詣が深いわけでもないので、これ以上話を深掘りできるわけでもない。レリーフだって知らなかったくらいだからな。
聞くはいっときの恥もできない男だし、このまま何もないことを祈りながら先へと進むのみだ。
「うぅん。ルリヤちゃんじゃないけど、持ち帰りたいなぁ」
「あっはは」
俺がすっかり盗みの代名詞みたいになってるのは複雑だが、遺跡の内装を思い出してきたのか、それともこの辺が好きなのか、ぴょこぴょことヨバナちゃんはあっちこっちへふらふらしている。
気づけばどこかへ行ってしまっているのは、まだまだ小学生くらいの年頃って印象だが、やはり、天華相手ならこうはならなかっただろう。
関係が短いからか、距離感が掴みづらい。
天華よりよっぽど守らないといけないのだが、なかなかどうして難しい。
もちろん、置いていくわけにもいかない。中に入ってしまったから、今さらということももちろんあるが、案内としてその力を頼りにしているし、外にも魔物がいるのだから、遺跡の外で待機を命じるわけにもいかなかった。
「見てみて! これ、ルリヤちゃんに似てない?」
「え、似てる?」
気づけば廊下の行き止まり、T字路というか丁字路の突き当たりで、ヨバナちゃんが壁を指差しながらニコニコ笑顔で俺を見てきた。
その先に描かれていたのは、たしかに人のような姿をした肖像画のようなもの。
抽象的な絵に、いつぞや川の反射で見た俺の姿を重ねてみるが、似てるか?
「に、似てる?」
「似てるよ。顔立ちとか。すっごくかわいい」
「かわいい……」
萌え絵にすっかり慣れ親しんだ俺としては、それこそエジプトの壁画みたいで、なんとも感情移入しにくいのだが、なるほど、こっちの世界、少なくともヨバナちゃんにとってはスタンダードなのか……。
しかもかわいいって。かなり高得点じゃないか。どんな美的感覚だ!
「ね。一緒のポーズしてみてよ」
「待って」
「えぇ。お願い」
「静かに。ちょっとこっち来て」
「……? わかったけど」
よっぽど遺跡の虜になっているらしいヨバナちゃんは、肩を落としつつも俺の方に駆けてくる。
俺としても、ここが何もない安全な場所なら、一緒に楽しんであげることもやぶさかじゃないのだが、いかんせん、ここは魔物蔓延る他人の家なのだ。
「あれが二種類目のゴーレムね」
「あ、うんそうだよ。いたんだね。舞いあがっちゃってて気づかなかった」
「いやいや、対処するのは俺の役目だから、ヨバナちゃんは気にしなくていいんだよ」
「でも、わたしばっかり楽しんじゃ悪いよね」
「ううん。ヨバナちゃんがリラックスしてくれてた方が俺としてもやりやすい」
「本当? じゃあ」
すぐにねだってこようとするヨバナちゃんの肩を掴んで止めた。
流石に今すぐ切り替えられるほどリラックスしてほしいという意味じゃない。そこまで勝手知ったる他人の家みたいに振る舞われても困る。
「魔物の前ではリラックスしてるだけにしておいてほしい」
「しー、ね」
「そう。しー」
口の前で人差し指を立てるような仕草をしながら、わかったようにウインクをしてきてくれた。
よしよし、いい子だ。アメちゃんをあげたいくらい。
で、それはさておきゴーレム二号だ。
胸と股を隠している布の面積が増えている。頭部にも、か。それに加えて、形状がより彫像のように人の形に近づいている。
「あれにはどんな特徴があった?」
「ええっと。お絵描きしてたのが印象的だったかな」
「お、お絵描き?」
お絵描きって、それこそ俺に似てると噂のイラストが描かれた、目の前の壁みたいなのか?
ゴーレムがお絵描きなんて想像がつかないが、どういうことだ?
「ほら」
「ほらって……。ほんとだ」
俺たちが見ていたゴーレムは、絵筆のようなものを持ちながら、壁に対してこすり始めた。
かと思うと、虹でも描くようにこっちに向かって走ってきた!
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