第41話 ブレークしてスルー

「はーっはっはっはっは!」


 久しぶりの高笑い。


 ゴーレムに通らせてもらった。


 ここでは入口の一悶着ほどのことはなかった。


 ビームを撃ってきている部分に撃ち返してスルーだ。


「え、どうなったの?」


「動かなくした。壊しちゃいない、と思う」


「大丈夫なの?」


「大丈夫、だと思う」


「なんだかふわふわしてるけど、ねぇ、追ってきたりしない?」


 心配そうにヨバナちゃんに見られちゃ、俺としても自信を持つべきだとは思うが、何せ自信がない。湧いてくる要素がない。


「追ってくることはないから、安心はしていいよ」


「でも、壊してないんでしょ?」


「一応ね。すれ違いざまに叩いて硬度は確認したけど、あれは壊れるようなものじゃない、と思うよ」


「もう、煮え切らない」


 とはいえ、どれくらいで復帰できるかはわからない。ゴーレムにとって無事で済んだかどうかも怪しい。そもそも論、そういう機能があるのかも不明だ。


 何せヨバナちゃんが言うには魔物である。


 とても生物に見えないが、人型だしそれに近い機能を有していてもおかしくはない。


 だからといって、何でもできるというわけでもないだろう。天華の魔法だってなんでもできるわけではない。あくまで、今できることだけだ。


「あれ、動かなくするだけだったなら、わたしが目を隠す理由あったの?」


「そりゃあったさ。とっても大事な理由が」


「どんな?」


「それは内緒」


 また押し倒されるかもしれないからとは言えない。


 何せ、ビームを撃ち返したんだ。そんなことをするには、一度相手に撃たせないといけない。となると、またやられないとは限らないだろう?


 まあ、期待しないじゃないけど、二度そんな運良くかわすみたいなことができるとも思えない。


 ただ、俺の取った行動はある程度予想できる範囲のことを試した結果だったとは思っている。


 そこに関しては自信を持てる。


 まず第一に、ゴーレムがビームを連射できなかったことだ。


 以前、ヨバナちゃんたちがここを訪れたのが、正確にどれだけ前のことかというのは推し測るしかないが、少なくとも、一度打ったら半世紀は放つことができないような、文字通りの必殺技ではなかった。


 要するに、その場でチャージできるほど、短時間でチャージできるような、対人技だったわけだ。とても一発一発を溜めて撃つような技じゃない。と言えば、確実に語弊があるが、俺に取っては問題ない部類の技だった。


 ただ、そうなってくると、別段、二射目までの時間は間がなくてもおかしくなかったわけだ。


 実際、連射可能だったなら、ヨバナちゃんが俺を押し倒してから、あんな熱烈に俺のことをねっとりと見つめるようなこともできなかっただろう。彼女はある程度の余裕を把握していたのだ。


 それと第二。第一の中で言ったことに少し重なるが、一発撃ったらチャージが必要ってこと。


 連発できないにしろ、時間を置いて撃たれていたとしても、あの状況なら危なかった。チャージまでの時間があったのは幸いだった。


 いや、幸いというか、そうせざるを得なかったのだと思われる。設計思想に思いを馳せたが、入口近辺に大量に配置するには、その程度のゴーレムにするほかなかっただ。威力としては、恐怖して逃げるような威力を持つが、その攻撃を扱えるほどではない。そんな落とし所だろう。だからこそ、一見設定を間違ってるほどの破壊力を持っていたこともなんとなくわかるというものだ。


 そして最後。じゃあ、一発分溜まったエネルギーはどうなっているのか、だ。


 もうなんとなくわかるだろう。


 そう。それ以上は溜まらないように制限されている。切り捨てられているか、無視されている。


 それがどういう意味かはわからないが、人間でイメージするなら食事が近いだろう。


 お腹がすけばご飯を食べるが、それにだって限界がある。無尽蔵に食べていては、いずれ胃にものが入らなくなる。それが、ゴーレムのエネルギーにも起こったということだろう。いや、起こらないように、食べないようにしていた、かな?


 それこそ、食事の例えじゃないが、食べ過ぎでしばらく動けないというだけかもしれない。


 なんにしても、それですぐに復帰されたとて、追ってきていないところを見れば、壁に向かって俺へと撃っているか、もしくはまだ動けないかってところだろう。


 壁に反射してたりしたら、今でも背後を気にしないといけない、というか実際気にしてるが、助かったっちゃ助かった。


 と、ここまでが前回まで。


 今は絶賛遺跡内移動中である。


「ヨバナちゃんは前ここに来た時はどうやって突破してたの? 入口に目的のものがあったわけじゃないんでしょ?」


「うん」


「どうやったの?」


「たしか……」


 と、小走りしながら、ヨバナちゃんは首をかしげた。


 今度は思い出せるかな?


「印象的だったから覚えてるよ」


「どんなどんな?」


「信じてもらえるかはわからないけど、ママとパパがわたしを抱えて、いつもは見せない怖い顔で、腕をブンブン振って走ってた」


「怖い顔で走ってた!?」


「そう。シカさんみたいな感じだった。あはは」


「あはは……」


 あははって……。これはあれか? 楽しかった思い出を聞かされているのか?


 絶対死に物狂いだっただろご両親。しかし、どおりでシカダッシュのときもシカダッシュの後も、あんなに楽しそうだったわけだ。


 まあ、俺みたいな特殊能力がなかったとなれば、必然対処法としてはそうなるのか。


「しかし、ゴーレムは突破して、これで一件落着だね」


「ううん。ゴーレムはまだまだいるよ?」


「そうなの? さっきのやつが突破できればいいと思ってたんだけど、違うの?」


「ゴーレムはいっぱいいるし、色々いるよ」


「色々いるの?」


「うん」


 元気にうなずくと、ヨバナちゃんは指折り数え始めた。


「さっきのと、もう少し人に近いのと、もっと人に近いの」


「ど、どんな違いが?」


「場所? 奥に行くほど人に似ていて、ママもパパも警戒してた」


 ってことは強いのか。


 そういやあの布、服っぽくもあったな。


 えぇ。あんなのが……。


 いや、いやいやいや。


「ちょっとかわいかったかな」


「か、かわいかった……?」


 なんかそれ、ちょっと見てみたいかも!

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