第40話 遺跡の破壊者
俺の頭があった少し先の壁が焦げた。
いや、壁がいきなり焦げたとかそういう話ではない。クリスタルが発熱して溶け出し焦げ出したとかでもない。
ビームだ。
なんのって、そりゃもちろんゴーレムのである。
撃たれてから反応してもかわせたとは思うものの、無警戒で不用心だったのだから、ヨバナちゃんに助けられた形にはなるだろう。
「ありがと」
「え、えと……」
いきなりの接近に戸惑う様子のヨバナちゃん。
距離感に関しては、あまり気を使う感じの子じゃないと思っていたのだが、案外そうでもなかったらしい。
ただただ、今の距離は流石に近いってだけか。
「その、ごめん。いきなり押し倒したりして」
「ううん。別に気にしてないよ」
「でも……」
ヨバナちゃんは跳ね起きるように俺から離れると、そっぽを向いてしまった。
出過ぎた真似と思ったのかもしれない。そんなふうに思ってくれなくてもいいのだが……。
まあ、俺だってヨバナちゃんが相手とはいえ、息がかかるほどの距離で、無限にも感じるほどの時間、見つめあっていたのだから、何も感じなかったわけじゃない。いや、何も感じなかったということにしておこう。俺が犯罪者になる前に。
「いいっていいって。気にしなさんな」
「うん」
俺も立ち上がりがてら、押し倒された拍子についた砂埃を払う。
その間、ゴーレムの方はといえば、一発撃って爆発したり、機能停止したりとか、そんな様子はない。絶賛弾を装填しているといったところだ。ビームだからチャージと言ったほうが妥当か。
ビームの特徴としては、弾道というか軌道は、わかりやすく一直線。だが、スピードからして、撃たれたと気づいた時にはもう放ち終わっている代物だ。人間なら、本来回避不可能の一発と思われる。
となると、今回に限っては、俺がかわさなかったことが正解だったってことになるのか。
いやなに、女の子に押し倒されたから、それを取ってよかったとかそういうことを言いたいのではない。妹とダンジョンで変な雰囲気になった時もあるのだ。それくらいで騒いでいられない。
そうではなく、単にヨバナちゃんが無事だったということだ。
もし俺が回避していたら、俺を押し倒し損ねたヨバナちゃんに、ビームが当たっていたということに他ならない。そんな大惨事にならなくてよかったという話だ。
「さてと」
「……」
このままだとヨバナちゃんと気まずいままなので、さっさと解決してしまいたいが……。
「ヨバナちゃんちょいと失礼」
「え、え!?」
ヨバナちゃんを両腕で抱え、左右に反復横跳びでもするイメージで左右に高速で動く。
目の部分。怪しく赤く光出した、その頭部だけを見据えていると、ゴーレムは完全に静止した。
チャージの終わったゴーレムは、俺の動きを見ても怯むことなく撃ってきた。
「よし」
当然、空撃ちさせることには成功と。
「これで当面大丈夫なはず」
「い、いきなりびっくりするじゃん」
「ごめん。でも、危なかったから」
「そうだけど……」
うぅむ。曲芸じみたことをしてみたものの、反応はかんばしくないな。むしろ、距離が遠くなったまである。
正直、ヨバナちゃんから情報を得てから、対処法を決めたかったのだが、ゆっくりしているわけにもいかなそうだ。
何せ相手はゴーレム。加減を知らないゴーレムだ。
クリスタルやら遺跡の壁やらが、どれほどの頑強さのものかは知らないが、破損している以上、壊さないようにという意思を感じない。この遺跡本体の破壊すらいとわない火力は、制作者がそうしたものと思われる。
となると、侵入者が入ってきた場合は、死なば諸共みたいな考えの持ち主だったのだろうか。
さて、そんなやつの情報で今喫緊にしてほしいものはなんだ?
設計思想か?
「ヨバナちゃん。あれ、暴走してない? ヨバナちゃんにも普通に攻撃してたように見えたけど?」
「ええっと。あれで正常? なはずだよ? 主人の魔法使い以外には攻撃するって言ってた」
「なるほどねぇ」
ロジックが雑だ。
見た目も雑だが、指示もたいがいだな。
岩の集まりみたいな見た目。そのくせ布がくっついているのだから、人真似って感じがある。形も岩ながら人を模しているようにも見えるし。もしかして、布は挟まっただけか?
まあいい。平和的に切り抜けるってのは難しそうということがわかっただけでも重畳。そもそもそんなの不可能だったわけだ。だって、全員を殺戮するつもりってんだからな。
軽く石をぶつけてみたが、俺の剣で切れるものなのかあれ。形が雑なだけに、岩そのものの加工が少ない分、破壊はハンマーでもないと困難な作り、か?
ゴーレム化の際に物理攻撃無効的な魔法が付与されていたら、それこそ他人の形見のような剣をぶっ壊すことになりかねない。
「厄介だな」
「が、がんばって。わたし、ルリヤちゃんのこと、応援してるよ」
「おうともさ。言われずともがんばるよ」
ヨバナちゃんは天華と違って妹じゃないが、他人を犠牲にして前に進めるほど俺も図太くない。それに、ヨバナちゃんがいないんじゃ、この先に進んでも収穫はないかもしれないのだ。
ヨバナちゃんと一緒に進むのはこの遺跡において絶対条件だ。
さて、作戦タイムもここまでか。
しっかり観察する余裕があったが、魔力だか神秘力だか知らないが、何かのエネルギーを目のところに集めてから放出してるみたいだ。
それもわかりやすく、明るさに応じてチャージ具合がわかるという良心設計。
突破しても後ろから撃たれることを思えば、倒すなら形がなくなるまで破壊しないといけないが、それはあまりにも非効率だ。
「ヨバナちゃん。下がっててくれるか?」
「わ、わかった」
「あと、目もつぶっててくれ」
「うん」
後ろにてとてと移動してから、小さくなって目をつぶり、両手でその目を押さえてくれた。
そこまでしなくてもいいのだが、これで準備万端だ。
さあ、撃ってこい。
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