第39話 神秘の遺跡へ

「わー!」


 結論から言うと入れた。


 ヨバナちゃんの歓声から始まれば、誰だってそれくらいわかるだろうが、遺跡に入れたという報告でした。


「やっぱりここだよ。ここで間違いないよ」


「そうか。ここがその、過去の映像を板に映し出せるって遺跡か。名前とかないの?」


「わかんない」


「わかんないか」


 名前を知れないのはちょっとがっかりかもしれないが、それこそ小さい子に求めるのは酷というものだろう。


 なんかヨバナちゃんを小さい子扱いすることで、自分は肉体が小さいだけということを、意識的に死守しようとしている節があるが、決してそんなことはしていないぞ。


「でも、ルリヤちゃんがそれを持ってたのは意外と言うか、驚きだよ」


「そうは言うけど俺が持ってること自体には気づいてたんでしょ? たしか、村でこのローブを羽織った時に」


「あの時はまだ気づいてなかったよ。気になったけど、すぐにわからなくなっちゃったから」


「そういえばそっか」


「おそろいだね」


「はは」


 とまあ、俺たちが中に入れたのは、ヨバナちゃんが持っていたものと同じものを俺が持っていたからだったのである。


 ヨバナちゃんが指さしていたのは、ズバリ俺の首飾りだったのだ。


 俺は、首飾りだなんて認識していたわけではないのだが、服の一部だと思っていたそれは、女の子からすれば大いに違うものだったらしい。


 これは、俺がガサツってことになるのか? もしれないので、あまり大きなことは言えないが、とにかくアクセサリーだったわけだ。


「でもこれ、本当に同じものなの?」


「そうだよ。ほら、こことかそっくりじゃん。こうしたら、ほら」


「うぅん。たしかにそうなのか?」


「そうだって」


 さっきから形状だけでなく、作り手の工夫を感じられるところやら、色の配置やら、ものすごく熱く語ってくれているのだが、一度壊れてしまったからか、小さなヨバナちゃんの手で元の形を再現しようとしてくれているのはわかるが、俺がつけているものと同じなのかと聞かれたら、正直なところわからない。


 似ているってことはわかるけど、全く同じデザインって言われるとすぐにうなずけるものでもない。


「まあでも、ヨバナちゃんが言うように、掲げたら扉が一人でに持ち上がって開いたんだし、同じってことになるんだろうけど……」


「そうなんだよ。どう見ても同じでしょ?」


「そう、なんだよね!」


 この感じだと、こっちの世界でも俺は宝石鑑定士とかにはなれそうにないな。


 いや、特別形に対して、アクセサリーに対して勝手に気恥ずかしさを感じてしまい、そのせいでよく見ていないということもあるのだと思うが、それ以上に、周りの光景に目が移り、気が散ってしまうというのも大きかった。


 何せ遺跡だ。


 もっと砂っぽいというか、埃っぽい場所だと思っていた。大岩でできた扉が、シャッターのように持ち上がったのだ。中だって、ゴーレムもいるくらいのごみごみした場所だと思うじゃないか。


 そんなことはない。神秘尽くしの秘境って感じだった。美化された記憶とはでは全くなかった。


「入り口があんな原始的なのが驚くくらいの中だな」


「もう。自分がわからないこと誤魔化して」


「これ、盗んでいってもバレないんじゃないか?」


「バレるバレないじゃなくて、そんな罰当たりなことできないよ」


「ここに住んでたって魔法使いは神様になったの?」


 よくわからないが、人の家からものを盗むのとは、大きくわけが違うと思うのだが、村の倫理観的には問題行為にあたるらしい。


 ここは、郷に入っては郷に従えってやつか。


 しかし、クリスタルは外からの光も受けず、自ら発光しているかのようにキラキラと輝いている。そのおかげで遺跡の中では、明かりがなくても先が見える。


 やはり欲しい。欲しいが、我慢だ。こんな遺跡で採掘は罰当たりなのだ。


 本当に、魔法的にとても重要なもの。魔力が回復したり、魔法発動の肩代わりをしてくれそうで、俺ですら魔法を使えるようになりそうだが、管理者一族のご令嬢に止められては、俺の出る幕はない。


「でも、お貴族様ならこれくらいのキレイなものも日常茶飯事じゃないの?」


「なんで俺がお貴族様ってことになるんだ? これ、そんなにいいものなのか?」


 そういえば、かつて、というほど前でもないが、いつぞやのダンジョンで、老人モンスターが勇者だのなんだの言って、俺の服装を見て何かに勘づいたようだった。


 が、あれはモンスター世界の話だ。


 となると、ヨバナちゃんとお揃いのアクセサリーが貴族ポイントなのだろう。が、服装こそお姫様っぽい、姫騎士的なそれだが、だからって、貴族ってのは言い過ぎだろう。


「第一、俺がそんな素晴らしい血統なら、どうして山に捨てられてたのさ」


「山に捨てられてたの!? 女の子が?」


「あ、ああ……」


「こんなキレイな金髪碧眼の女の子が?」


「やめてくれよ。キレイとか」


「照れてるんだ。でも、いいよね。サラサラで。羨ましい」


「特に何もしてないんだけどな」


「……」


 むすっとされた。


 いや、たしかに今のは俺が悪かった。嫌な女子っぽかった気がする。


 でも、こっちの世界でできたケアなんて何もなかったし、そもそも女子的なやつなんて何も知らない。


 本当に何もしていないのだから、嫌味と言われたらそれは困る。


「まあ、この遺跡にあるものを初めて見たんだとしても、ルリヤちゃんはお貴族様だと思うよ? ここの管理って、ママもパパも任されてただけで、他の人は入れなかったもん」


「言ってたな」


「だから、ルリヤちゃんが知ってるんじゃないかって思ったんだけど、違うの?」


「うーん。違う、はず」


「はず?」


「いや、言っただろ? そもそも俺は転生者ってやつなんだ」


「そうだったね」


 帰るための情報収集。


 それに、こっちの世界での親は見たことがない。


 親の顔は見てみたい、かな。


「……」


「いいのいいの。そんな申し訳なさそうな顔しなくって。俺は俺で生きてるし。今は天華も、天華は村で寝てるけど……」


「似てなかったけど、よっぽど信頼してるんだね」


「兄妹だからな」


 肉体的に血はつながっていないが、そんなことは関係ない。天華は俺の妹だ。


 と、長話をしていたが、どうやらそこそこ歩いていたらしい。魔物、ゴーレムの姿が見えた。ただ、ヨバナちゃんが入れるくらいだから大丈夫なのかもな。


 なんて、油断していると、


「危ない!」


 とヨバナちゃんに突き飛ばされた。

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