第6話 お風呂へGO!

 俺があっけに取られている間に、妹はものの見事に服を全て脱いでしまった。


 ぱっと見動きにくそうで、とても脱ぎにくそうな服装だなと思ったものだが、いとも簡単に脱いでしまった。


 いや、そんなことより、俺はさっと顔を伏せる。


 妹の体を見たところで、何か感じるわけではないのだが、しかし、そういうことじゃないだろう。あまりじろじろ見ていいというものでもないはずだ。


「天華? 天華ちゃん? 何してるのかな?」


 動揺を隠そうと冷静なフリをして呼びかけてみたが、ダメだ。きっと声が震えていたに違いない。


「何って、お風呂でしょ?」


 対して天華は、俺の動揺など気にした様子もなく、さも当然といった感じで、今の状況に不思議なことは何もなさそうだ。


 くっ、服を着ていないとわかっていると、足が見えるだけで困惑する。


「お風呂じゃないの?」


「いや、そうなんだけどさ」


 不安そうに聞かれると、そうだ答えるしかないのだが、この場合、俺はどう言えばいいのだ。


「もしかしてあれ? 私が裸なの気になるの?」


「そりゃそうだよ」


 直接言った。言ってきた。俺は脳内でも避けていたのに。


「別に、今は女の子同士なんだし、そもそもお兄ちゃんなんだし、見られたって恥ずかしくないよ」


「いや、そうなんだろうけど」


 だからって、堂々とされても困る。


 それに、俺の方は、今の体を天華に見られるのは恥ずかしいというか……。


 でも、風呂の使い方を説明すると言ってしまったし、見ただけでわからないかもしれないし……。


「なんなら、お兄ちゃんの体を隅々まで洗うから、ていうか洗わせて!」


「あいわかった」


「え!? い、いいの? いや、いいんだよね! そうだよね。お兄ちゃんも気にしてないよね。意識してないよね」


「あ、ああ……」


 ずいずいっと寄ってこられ、後ろでも向くように身を引いてしまった。


 近づいてこられると見えてしまうのだってば。


 ただ別に、俺は妹に体を洗ってほしかったわけじゃないの。何かあってからでは遅いということ。


 が、今の反応だと、俺がそういうヤツと思われそうで困る。だからここではっきり否定しておこう。俺は別に、妹に体を洗わせる趣味はない。


 そもそも、天華が急に服を脱いだりするから、気が動転してしまったが、そういや俺は説明するだけだから、服は脱がなくていいのか。


 なんだか気がラクになってきたぞ。ということで、天華の体を見ないようにしながら、俺は案内を始めることにした。


「えーとまずは」


「そうと決まれば!」


「……?」


 一瞬のことで即座に対応できなかった。


 風呂への扉を開けた瞬間、肌に風が当たったことで、俺の体も冷えていたことがわかった。


 いやなぜ? と見下ろしてみれば、俺の着ていたローブやら何やらは何もなかった。一瞬で服をむかれた。匠の技だ。


 抵抗する暇もなく、俺は服をむかれてしまった。


「え」


「お風呂へゴー!」


「ちょっと待て!」


 俺の静止の意味もなく、天華はまたしても俺を抱えて風呂場へゴー。


 正確には、風呂というか温泉のようなのだが、


「うわぁ!」


 と、家のお風呂に慣れているだろう天華は、興奮気味な声を漏らした。


「排水はどうなってるの?」


「は、排水?」


 排水がいきなり聞くことだろうか……。


 いやまあ、こんな山の中で温泉なんてあったら、どうなってるか気にはなるか。


「なんとかなってると思うよ? 詳しくはわからないけど、これまで問題は起きてないからさ。とりあえずあそこで」


「うん。大丈夫そうだね。流石お兄ちゃん」


 この温泉での作法を説明しようとしたら褒められた。


 そして、天華は何やらぶつぶつとつぶやき出した。それが終わると、突然、上からあったかい水、いや、ちょうどいいお湯が降ってきた。


 俺にも少し兄らしいことをさせてほしい。


「きゃー! 気持ちいー!」


 なんか今ので、寒さも何も、色々と吹き飛ばされた気分だ。やっぱり便利そうだな、魔法は、おい!


 小屋の設備を使った様子はないところを見ると、どうやら排水を気にしていたのは、今の魔法を使おうとしていたかららしい。


 こうなると、説明が必要ってのは、俺をここに連れてくるための言い訳ってことか?


「ひゃーつるすべー!」


 それからノータイムで、天華は俺の肌を撫で回し……


「お、おい! 何してんの?」


 色々と驚いていて対応力が下がっていたのは確かだったが、妹はただただ俺の肌を撫でていたわけではなかった。気づけば泡まみれの妹が、俺の体を撫で回していた。


 いや、泡まみれになるまで気づかないわけないだろ。便利だな、魔法は!


「何って、隅々まで洗うんだよー」


 そう言って、妹の目が光った気がした。そう言えばそんなこと言ってたな。


 俺が何かを言うより早く、天華は俺の体に指を這わせる。妹に洗われていると思うと少しくすぐったい。


 そういや、ボディソープもシャンプーも、使うのはいつぶりだろう。


 いや、待てって。


「落ち着け天華。天華さん。俺は自分で体を洗える。流石に行動まで幼児化しているわけじゃないから」


「ふふふ。恥ずかしがらなくていいんだよ? 今はお兄ちゃん、小さな女の子なんだから」


「いやー!」


 楽しそうに笑いながら、妹は俺の体を洗う手を止めることはなかった。

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