第50話 遺跡探索を終えて

 俺たちは遺跡を後にした。


 その後、シカに揺られて村まで帰ってきたのだが、天華はまだ寝ていた。


 暇だったし、本を読んでみようと必死になってみたが、結果としてはダメだった。俺では本は読めなかった。


「こんなことなら、ゴレムさんに読み方とか教えてもらっとくんだったな」


 まあ、帰ってきてから後悔しても、後の祭りである。


 ただ、本の情報は俺のせいで得られなかったもの、私はただのアルケミストの道具ですよ、と意味深なことを言っていたゴレムさんとは、今後も何かの機会で会うことになりそうな気がする。だから、その時にでも聞くとしよう。


 ついでに、俺について知っていることを、今度こそ教えてもらうとするかな。


「でも、どうなんだろうなぁ」


 教えてくれるかはわからないが、当初の目的、大目的である、ヨバナちゃんの思い出を振り返ることはできたわけだし、とりあえず今回の件は、これでよしとするか。


 ママとパパとの思い出。楽しい思い出を、実際の映像を見ながら振り返ることができ、そのせいで泣き疲れてしまったのか、彼女は今ではぐっすり眠ってしまっている。


 こっちもこっちで俺の落ち度なのだが、こちらは許してほしいところとして、ヨバナちゃんのご両親が最後訪れてから、どれくらい時間が経っているのか、確認するのを忘れてしまった。


 ただ、ヨバナちゃんから奪い取って、この人いつ来ました? と聞くのも野暮すぎるし、ヨバナちゃんの口ぶりから、ゴレムさんとは面識がなかったみたいだし、これも次回ということでいいだろう。


 代わりと言ってはなんだが、ヨバナちゃんが寝てすぐ、眠っていた天華が起きてきた。


「おはよう。お兄ちゃん。いい朝だね」


「ああ。おはよう」


 この妹に関しては、今さら、どれだけ寝ていたんだとは、もうつっこまないことにした。


 妹なら兄を起こしてほしいのだが、まあ、そいつは欲張りってものだ。それに、今の見た目じゃ兄妹かどうかも怪しいからな。


「なに? そんなところでぼーっとして、何かあったの?」


「何かって、色々あったよ。お前が寝てる間にな」


「ごめんね。私、途中から気を失っちゃってて」


「いや、途中から寝てたろ。気を失ったのも、なんか俺とヨバナちゃんのことを見て、よくわからない理由で倒れてたろ」


「ヨバナちゃんって誰? っていうか。あれ? ここダンジョンじゃないんだけど、どこここ!」


 一瞬、表情を消したかと思うと、我が妹は慌ただしく騒ぎ出した。


「静かにしろ。ヨバナちゃん起きちゃうだろ」


「ねえ、ヨバナちゃんって誰?」


 しつこい妹を引き摺りながら、俺は、ヨバナ邸を出た。


 こんな開けた村では、家を出たところで、特段遮蔽物もないので、騒ぎ声はダダ漏れだろうが、同じ屋根の下って状況よりは、よっぽどマシだろう。


「ねえ、ヨバナちゃんって」


「あの子だよ。助けた子」


 なぜか若干怒ったような表情のまま、天華は思い返すようにヨバナ邸を見上げた。


 パチパチと瞬きを繰り返すうちに、表情がいつもの天華の笑顔へと変わりだした。


 水晶の中で見た、村の様子を思い出したのかもしれない。


「ああ! あの子ね。そっかー。そんな名前だったんだー。ふふ、その後どうだった?」


「どういう感情なんだお前」


 起きてきて騒ぐし、感情の起伏が激しいし、こいつってこんなキャラだったか?


 ま、いいか。こっち来てからそもそも不安定だもんな。


「普通の子だよ。親が大切な、まだまだ甘えたい盛りの女の子。でも、心が強い子、かな」


「いや、えっと、そういう意味じゃないんだけど、ま、いっか。お兄ちゃんだもんね」


「どういう意味だ? それ」


「なんでもなーい」


 絶対何かあったと思うのだが、とぼけた天華にこれ以上話をさせるのは一苦労だ。


 本当、ちょっと見ない間になにがあったのやら、聞いてる話だけじゃなさそうだなこれは。


「それでここは?」


「おい。思い出したんじゃないのかよ」


「聞いてないよ」


「いや、その辺の話は後でしっかりしてやるから。先にこれを頼む」


「なにこれ、本?」


「話が早くて助かる」


「いや、なにも分かってないけど」


 やっべ、口癖が移ってしまった。


 気まずい雰囲気を打破するため、誤魔化すように一つ咳払いをしてから、


「これは、俺が入手した魔導書だ。もしかしたら、元の世界に帰るためのヒントが載ってるかもしれない」


「え。私が寝てる間にそんなことしてたの? だからちょっと埃っぽかったんだ」


「埃っぽいか? 結構汚れは落としたつもりだったんだけど」


「もう、仕方ないなぁ。私がキレイキレイしてあげるよ」


「え、またあの、あれをやるのか?」


「なに? もっとすごいのを期待してるの?」


「違う! なんであんなことを、まあいい。俺も風呂は嫌いじゃないんだ。ただ、それも後だ。ひとまず、その本の翻訳を頼んだからな」


「もちろん! お兄ちゃんの頼みなら、私なんでも聞くよ!」


「本当、お前ってそんなキャラだったか?」


 ここまで従順な妹だったか定かではないが、魔法に関しては天華が頼りだ。


 これで、一歩前進するといいが……。

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妹の代わりに転生して幼女にされましたがヤンデレ化した妹が追ってきたようです 川野マグロ(マグローK) @magurok

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