第46話 傑作ゴーレム

 やばいやばいやばい!


 めっちゃしゃべってるめっちゃしゃべってるめっちゃしゃべってる!


「マジかよ」


「マジだよ?」


 これは事前に教えてほしかった。


 悲報、ゴーレム、話す。


 いや、技術的にはとても素晴らしいことで、不出来な合成音声のような、違和感のあるカタコトさだが、それにしたって、無口で寡黙な岩人形たちとは全く違う。


 だって、しゃべってるだけじゃないんだよ。


「なんだよあれ。なんだって、ビームのチャージ時間を埋め合わせるように、所狭しといっぱいいるんだよ」


「さ、さあ……」


 その迫力に、ヨバナちゃんも気圧されたのか、なんだか反応がにぶい。


 それはそうだろう。ゴーレムたちの戦術は、力任せの攻撃ではなく、まるでどっかで聞いたような三段撃ち的な戦法だった。


 隊列を組んでの掃討作戦か? くっそ。壁から身を乗り出しただけで前髪が焼ける。


 ひとまず、ビーム単発に、壁を壊すだけの威力がなくって本当によかった。


「もしかしてだけど、あれもヨバナちゃんのママとパパはダッシュでどうにかしてたの?」


「うん」


「マジかよ」


「だって、ママもパパも、ルリヤちゃんと違って、武器とか持ってなかったもん」


 俺の武器だって通用しないよ、とは言えない。この際そんなの関係ない。


 ただ、それ絶対武器を持ってないんじゃなくて、武器を持つ必要がないんだよ。


 俺なんか、壊した壁の残骸を盾に、ヨバナちゃんを抱え必死になって逃走したから、なんとか生き延びられたのだ。それこそ、直前にタイミングよく砂で遊んでいなければ、今頃全身穴だらけの風穴だらけになっていただろう。


「何の恨みを買ったら、あんなやたらめったら、蜂の巣にでもされるように、手からビームを撃たれなきゃいけないんだよ」


「他人のお家に勝手に入ったからじゃない?」


「言われてみればそうだったわ


 今の所、定期的に石を投げて、こちらの攻撃意思を見せていることから、向こうから距離を詰めてくるようなことはない。だが、だからって油断はできない。


 今だって、俺の命はギリギリだ。いや、違うな。俺の命はどうとでもなるのだが、戦えないヨバナちゃんをかばいながらとなると、ここでも頭を使わないとならない。


 目からビームじゃなくて手からビームになったせいで、隙が全くわからなくなったんだよ!


「俺の目はそこまでよくないってのに……」


「目?」


「いや、目がよくてもこれはどうにもならないか」


「ならないんじゃない?」


「だとすると、壁ありとはいえ、さっきはよくかわせたよな」


「当たってなかったの?」


「まあ、運よくってところだけど」


 これが実力でかわせていたら格好もつくのだが、そうでないのは俺らしいか。


 一応、他の道は砂で塞いだから、今のところ、他のところからゴーレムが来る心配はしなくていい。ただし、その裏で他の道から距離を詰められているということは想像に難くない。


 果てさて、情報が雑に整理できたところで、そろそろ反転攻勢といきたいが、どうすりゃいいんだ?


「まさか、一番優秀なゴーレムが一番多いなんて……」


「あれ、言ってなかった?」


「聞いてない!」


 それも知ってたのなら教えておいてほしかった。


 ああ、クソ! これだからヒキニートは、って俺のことか。本当に、話せる系のニートだったならと悔やまれる。


 俺は人付き合いが苦手なんだって。


「でもこんなに多くなかったんだよ?」


「そうなの?」


「だから言ったじゃん。ルリヤちゃんみたいに武器はないって」


「なるほど」


 砂とかを操れるのも、ヨバナちゃんからすれば武器か。たしかに、飛び道具と言えなくもない。


 とはいえ、そうなれば、エネルギーを貯めておいて連射とはいかずとも、ゴーレムを大量生産して連射の体制は整えていたってわけだ。


 こうなると、他の方向から迫ってくるという話が、途端に現実味を帯びてくる。


 壁だって、絶対に何があっても壊れないわけじゃない。何度も撃たれれば、いずれ砂へと変わり果ててしまう。


 残された時間はそう長くはない。


 こりゃ、腹をくくらないとかな。


「ヨバナちゃん。ちなみに、目的地まではあとどれくらいかわかる?」


 ここにきて、ようやく確認すべき事項を確認している自分に笑えてくるが、ヨバナちゃんはそんな俺を責めるでもなく、えっと、と考えるような仕草を見せた。


「そこの道をまっすぐ行けばついたと思うよ」


「オーケー!」


 腹をくくるしかなさそうだ。


 最短経路のためには、敵をまっすぐ突破すればいいと。


「こんな状況で、もう泥棒とかって言わないよね?」


「殺されそうになってるんだもん。でも、何するの?」


「こうするのさ」


 俺は、綺麗だと言っていたクリスタル、それをへし折って、ビームの雨が降る通路へと投げ入れた。


 エネルギーの塊。まるで、魔法の肩代わりでもしてくれそうなその代物は、ビームのエネルギーを一身に受け止めると、肥大化し、


「伏せろ!」


 大爆発を起こした。


 俺は、即座にヨバナちゃんをかばうように伏せて、彼女にダメージがいかないように注意を払う。


 削れていた壁だったものが、爆発によって舞い散っているようだ。


 状況の急変に、流石にビームの発射音が止まった。


「けほっ、けほっ、何が起きたの?」


「静かに。このまま走る。ちょっと失礼!」


「ひゃい!」


 ヨバナちゃんを抱えるようにして、俺は意を決して廊下に出た。


 爆発の威力は甚大。ゴーレムの方も何が起きたのかわかっていないようだ。


 そして、壁へのダメージもまた甚大。


 こうなれば、俺が扱える素材はそこらじゅうにある。


「さあ、管理者の時間だ。道を通らせてもらおうか!」


 俺は右手を突き出して、ゴーレムの隊列、その頭上を覆うように、遺跡の壁をガンガンと、横へ突き出した。


 壁を壁にして封印ってわけだ。


「はっはー! 見たか! これが俺の真骨頂だ!」


「なになに? なんでこんなに動いてるの? 砂じゃないよ? 爆発もそうだけど、本当にルリヤちゃん何したの?」


「……」


「どうしたの急に黙り込んで」


「正直俺もわかんない。けど、突破は突破だ!」


 そうして俺は、真っ正面に全力疾走。


 ヨバナちゃんの目的地である、遺跡最深部へと走った。

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