第20話 何をしたかわからなかっただろ?

 ボロを出したヘビ。


 急に攻撃に出るなんて、今の反応はどう考えてもやりすぎだ。


「アノ娘は話を聞いチャいない。お前を潰せバ、ナカッタことになる道理」


 ペラペラと考えを口に出すあたりがわかりやすくて助かる。


 天華もこれくらい素直だったら、さっき何しようとしていたのか理解できたかもしれないな。いや、こっちに関しては、単に考えないようにしているだけかもしれないが。


 まあ、間抜けにぐるぐるとぐろを巻いた蛇を見ていても仕方ない。


 今は天華が気絶していないので、何が起きているのか光の下に照らし出されている。だからアホな姿がよく見える。


 対してヘビは、俺のことなんか眼中にないらしく、ぐるぐる巻いたままみたいだ。


「いい加減、音を上げたらどうダ? 諦めが悪いのハ、美徳ではナイぞ」


「それハ、こっちのセリフダ。俺としても、そろそろ気づいてほしいんだがな」


「真似をするナ! ナッ!」


 今のなっ、は、なんのなっ、なのかわからないが、俺の声を聞いて、ヘビは首だけを俺の方へと向けた。


 俺の言葉でやっと気づいてくれたらしい。


 見えているかは知らないが、見てくれたので手を振っておいてやる。


「ドオシテ。さっき、確かに巻きついたハズダ。いや、今もこうシテ巻きついてイル」


「あー。そりゃ悪いな。勘違いさせちまって」


 ヘビなのに、見るからに驚いた様子なのが面白い。


 が、驚くのも無理はない。そりゃそうだろう。ヘビは俺に巻きついたと思っているんだから、俺がヘビの外にいるってのは、ヘビからすれば驚愕だ。


「ドオシテだ」


「巻きついたはず。巻きついたのに外にいるのはおかしいってか? それはお前の論理なんだよ」


「だからドオシテと聞いてイル」


「それくらい想像つきそうだがな」


 鳥頭ならぬヘビ頭ってところか? まあ、ヘビの頭だから仕方がないのかもしれないな。


「クモの糸。お前の仲間か何か知らないが、お前が巻きついたのは、そのクモの糸なんだよ」


「そんなモノ。仕掛けたら動けないはずダロウ」


「そう思うだろ? そこが甘いんだよ」


 動けないことをいいことに、相手を高らかに笑ってやる。


 そうそう。歪む顔がいい気味だ。飛び道具がないことは確認済み。そして今はとぐろを巻いて動けない。


 そう、巻きつきがほどけない。クモの糸はそうそうやわなモノじゃない。だから、今はほどけなくって焦ってるんだろう。


 俺も知らなかったけど、結構強力だったんだな……。


「ドオシテ」


「そればっかりだな。だから、お前の同僚の糸なんだよ」


「違う。そうじゃナイ」


「じゃあなんだよ」


「わざとだろう。ドオシテこんなものを仕掛けながら、かわすことがデキタ」


「ああ。そっちね」


 とあえて言われた通り、わざとらしくうなずいてやる。


 まあでも、トップスピードで突っ込んだのだから、幼女に遅れを取るとは思うまい。


 そりゃ疑問だろうな。逆なら絶対に聞いていた。が、俺からすれば明瞭。


「簡単な話だ。見た目はあまり好きじゃないが、こいつのおかげだ」


 俺はローブの中を見せるように言った。俺がこっちの世界で気づいた時から持っていた、お姫様みたいな装備。いや、服か。


「こいつのおかげで、俺は今めちゃくちゃ気分がいい。昨日よりもこうして……」


 クモの糸。その素材には困らない。どう操作したのか、昨日の話題が出たらもうわかるだろう。そう、そこらじゅうにあるクモの糸を自由自在に浮かせ、動かせる。


 そのまま俺は、まるで蝶のように形作ると、ヘビのウロコの上に乗せた。


 まるでカップ麺でも作るような気楽さで、そこらじゅうの糸が思った通りに操れる。巨大ヘビの動きすら止める糸に、俺が足を取られなかったのも、この昨日覚醒した能力が関係しているのだろう。


 そんな俺を見て驚くヘビ。まあ、こんなもの見せられたら、いくら動物でも無理はない。


 が、言葉にしたのは全く違った印象のものだった。


「そいつをどうしてお前ガ」


「どうしてって、生まれた時には持ってたが?」


「……なるほどナ。そうか、通りデ」


「ん?」


 今度は俺がわからない。


 何かに得心したようなヘビの様子に、俺の頭上には疑問符が浮かぶだけだ。


 しかし、俺に構わす、ヘビはすかさず何かの構えに入った。


「いや、やらせるかよ。何しようとしてんだ?」


 予備動作の段階で、俺は首を切り落とす。落下と同時に脳天を貫き、頭の方を即座に消滅させる。


 体の方は糸で動けない。そのうえ、崩壊は急所を狙ったのでガンガン進んでいる。


 このままで大丈夫だ。


「見た感じ、叫ぼうとしていたのか? 理由はわからないが、なんだったんだ?」


 服を見て、何かに気づいたみたいだった。


 この服は、動物たちも知らないようだったし、聞けるなら聞いた方がよかったんだろうが、あいにく、俺はこっちの世界の事情にはあまり興味がない。


 まあ、あんまり描写したくないからな。男の俺が女の子って感じの服着てる現状とか。


 おかげで、大きなスキができたから、簡単に切り抜けられたのは確かだけど、性能には感謝しても、見た目を好きになる理由にはならない。


「あ。またやっちまった。誰に言葉を教わったのか聞き出せなかったな……」


 でも、奥にいるのだろうな。きっと。


 魔物に言葉を教えられるようなヤツと考えると、期待は高まる。期待通りのヤツ。地球へ帰還するための本を持っているヤツだといいが……。


「ねぇ。お兄ちゃん? どこなの? なにしてるの? ねえーえ!」


「ったく。なに俺の妹を泣かせてくれてんだよ」


 やっぱりトドメと、俺はヘビの体を切り裂いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る